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薬院法律事務所

刑事弁護

弁護士の助言で虚偽自白をしたので弁護士を訴えたいという相談


2026年02月14日刑事弁護

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

Q、私は、福岡市に住んでいます。先日、夫が会社の部下に対して不同意性交等をしたということで逮捕されました。夫は面会では身に覚えがない話だといっていたのですが、弁護士から示談しないと起訴されるといわれたから罪を認めている、示談してくれといわれました。そこで、弁護士さんに示談金を払って相手方と示談したのですが、後になって振り返ると弁護士のアドバイスがおかしいと思います。弁護士に払ったお金は返してもらいたいですし、示談金も返してもらいたいです。

A、そもそも、弁護士が虚偽自白を勧めるということはまずありません。一般論ですが、夫が嘘をついている可能性の方が高いと思います。いずれにしても、夫が当事者なので夫に対応してもらうことです。

 

【解説】

 

人間は嘘をつきます。依頼者が弁護士に対して説明していることと、家族に対して説明することが異なるということはしばしばあることです。

20年程度前であれば、痴漢事件について否認すると身柄拘束が長引くという理由で、本人が認めたいといった場合に弁護人がどうすべきかという議論がありましたが、これもあくまで「本人が虚偽自白をしたい」と述べた場合の対応です。ましてや、現代の弁護人が被疑者に虚偽自白を勧めるということはまずないです。弁護士職務基本規定75条に違反します。

特に、不同意性交等事件ともなれば原則として5年以上の拘禁刑なわけですから、示談ができて不起訴になるかどうかもわからないのに虚偽自白を勧めるということは考え難いです。虚偽自白をして結局示談ができないとなれば、弁護士が大変な恨みを買うことになるからです。

 

※弁護士職務基本規定

(偽証のそそのかし)
第七十五条 弁護士は、偽証若しくは虚偽の陳述をそそのかし、又は虚偽と知りながらその証拠を提出してはならない。

https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/jfba_info/rules/data/rinzisoukai_syokumu.pdf

 

※刑法

(不同意性交等)
第百七十七条 前条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、肛こう門性交、口腔くう性交又は膣ちつ若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び第百七十九条第二項において「性交等」という。)をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、五年以上の有期拘禁刑に処する。
2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、性交等をした者も、前項と同様とする。
3 十六歳未満の者に対し、性交等をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。

https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045#Mp-Pa_2-Ch_22-At_177

 

【参考文献】

 

竹澤哲夫・渡部保夫・村井敏邦編集代表『刑事弁護の技術(上)』(第一法規,1994年10月)20頁

【(四)真実は無罪主張すべきであるのに保釈を得るために事実を認める場合
保釈を強く求めている被告人の前で、弁護人として苦渋を強いられるところである。しかし、この場合、保釈を認めずに身柄拘束下で審理の促進をはかる「人質司法」と呼ばれる最近の実情にこそ問題がある。ここでは、裁判所の不当な保釈の運用が、刑事司法における真実を歪曲する元凶となっているといってよい。】(浦功)

 

武井康年・森下弘編著『ハンドブック刑事弁護』(現代人文社,2005年4月)

30頁

【〔設問 6〕早期釈放のための被疑事実の自認(事実に反する場合)
被疑者Aは、 Bを含む5人組から因縁をつけられ、袋叩きになりそうになったことから、身を守るためにBを殴り返したところ、 Bに対する傷害罪の現行犯で逮捕・勾留された。 5人組は、「AがBに因縁をつけ、一方的にBに殴りかかってきた」と嘘の供述をしている。
Aは、弁護人Xに「一日でも早くここ(留置場)から出たいので、正当防衛は主張せずに罪を認めることにしたい」と言って、検察官と交渉をするように依頼した。
Xは、以下の場合にどのような対処をすべきか。
① Bの負傷は軽く、罰金になることが確実な場合
② Bの負傷は重く、起訴されるかもしれない場合に、 Aが「執行猶予でもよい」と言った場合
③ Bが死亡してしまった場合】

31頁

【設問については、最終的に、弁護人は被疑者の自己決定に従うべきであるとする考え方と、最終的にも専門家として「被疑者の利益」に従って弁護活動をすべきであり、無実の被疑者にとっての「利益」は、無罪を獲得することであるとの考え方がある。さらに折衷的な考え方として、結果の重大性により、弁護人の保護者的機能を被疑者の自己決定権に優先させる考え方がある。】

 

荒木和男ほか編『はじめての刑事弁護Q&A』(青林書院,2013年5月)149頁

【(2)痴漢ではないのに逮捕された場合
つい最近までは.痴漢で逮捕された場合,罪を認めれば勾留請求されず.即日か翌日に釈放される一方,否認すると.勾留請求され.起訴後も保釈が認められないので,長期間身柄拘束されることがあった。このような運用は「人質司法」と呼ばれ,強く批判されてきた。
しかし,平成21年4月14日に,最高裁第三小法廷で.電車内における強制わいせつ事件につき.被告人に無罪判決が出されたことをきっかけとして(判タ1303号95頁),平成21年6月25日に.警察庁が.全国の警察署に対して,被疑者の身柄を留置するときには必要性を慎重に判断することなどを求める通達を出し.それ以降従来の取扱傾向は変わりつつある。
すなわち.否認していても.勾留請求がされなかったり,勾留請求がされても裁判所が請求を却下したりする事例が増えてきている。
罪を認めた場合.初犯の迷惑防止条例違反であれば罰金刑で済む可能性があるものの,前科が残り被疑者にとって不利益が大きい。また,行為態様から強制わいせつ罪に問われれば.実刑の可能性も出てくるので,被疑者への不利益はさらに大きい。
したがって.①自白することによる不利益が大きいこと.②最近では否認しても釈放される例が増えていること,③弁護人も釈放に向けた努力をすることを説明し.真実を話すように説得すべきである。
また,被疑者に対して, 1度説得しても,捜査機関の取調べに屈して虚偽自白する可能性もあるので,数多く接見して,虚偽の自白をしないように励ますべきである。
警察が被疑者の言い分どおりの調書をとらない場合には.署名指印を拒否するようにアドバイスすべきである。また,取調べを録画するよう求めるのも対応の 1つである。】

https://www.seirin.co.jp/book_test/01597.html

 

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