役に立たない経営コンサルタントを解任しようとしたら、5年分の違約金を請求されたという相談(企業法務)
2024年12月05日企業法務
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は福岡市で学習塾を経営する者です。最近、競争が厳しくなっており、小規模な学習塾の存続は厳しくなっています。サービスの品質を高めていくことも大事ですし、広報戦略、講師の確保等考えるべきことは多いです。そんな折り、異業種交流会で知り合った経営コンサルタントが、大手学習塾での幹部経験もあるということだったので、経営コンサルタント契約を結ぶことにしました。外部の知見を取り入れたいと思ってお願いしたのですが、実際に試してみると、到底うちの塾では対応できないようなサービスの提供を提案してくるばかりで、これでは役に立たないということで、3ヶ月目でお断りをしました。ところが、このコンサルタントは、契約書では中途解約の場合には残期間分の報酬を支払うことになっているといって、4年9ヶ月分の報酬を請求してきました。確かに契約書の条項を見るとそれらしき条項はありますが、たくさん色々と書いてありましたし、そんな条件があるとは一言も言われませんでした。暴利ではないでしょうか。
A、これは、契約書を確認しないとわからない問題です。企業間の場合では、そういった特約も有効に成立し得ます。そして、企業間においては、契約書に署名押印をしていた場合は、その内容どおりの合意が成立したとみられることが多いです。もっとも、一方で、委任契約の場合は、委任者は自由に解除できることが原則であり、コンサルタント契約のような契約であれば、任意解除権を放棄したとはいえない、として解除できることもありえます。弁護士の面談相談を受けられて下さい。
【解説】
時折あるタイプの相談です。企業間においては「契約書」の記載が重視されますので、こういったトラブルが起こることがあります。基本的には契約書どおりとなるのですが、本件のような場合であれば、委任契約を解除できることは十分考えられます。全く支払わなくて良いとまではいえなくても、残期間すべての報酬を払う必要はないということも多いでしょう。弁護士に代理人についてもらい、裁判例や学説を踏まえて交渉してもらうのが適切でしょう。
参考となる裁判例として、神戸地判平成2年7月17日(判例タイムズ745号166頁)があります。同裁判例では、3年間の期間を定めて、医療経営コンサルタントとコンサルタント契約を締結していた事業者が、契約期間中に解除した事案につき、「委任契約において、委任者が契約をいつでも解除できるということは、委任契約の本質であり、特に本件コンサルタント業務契約のように、委任者の利益のみを目的とし、かつ、専門的知識、経験、能力を要する事務処理を内容とするところから当事者間の信頼関係が特に重視されるべき契約においては、委任者の右解除権を保護すべき必要性が特に大きいものであることに鑑みると、委任者がそのような委任契約の本質的な権利を自ら制限し、あるいはこれを放棄したと認めるためには、単に期間及び受任者の逸失利益に関する損害賠償の定めがあったというだけでは足りず、当該期間中契約が継続しなければ委任契約の目的を果すことができない場合である等、委任者において特段の事情でもない限り約定の期間が満了するまで契約を継続させる意思を有していたと認めるべき客観的・合理的理由のある場合であることが必要である」としています。
民法
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089/20200401_501AC0000000034#Mp-Pa_3-Ch_2-Se_10
(委任の解除)
第六百五十一条 委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。
2 前項の規定により委任の解除をした者は、次に掲げる場合には、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。
一 相手方に不利な時期に委任を解除したとき。
二 委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く。)をも目的とする委任を解除したとき。
【参考判例】
最判昭和56年1月19日民集35巻1号1頁
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=56342
【ところで、本件管理契約は、委任契約の範ちゆうに属するものと解すべきところ、本件管理契約の如く単に委任者の利益のみならず受任者の利益のためにも委任がなされた場合であつても、委任契約が当事者間の信頼関係を基礎とする契約であることに徴すれば、受任者が著しく不誠実な行動に出る等やむをえない事由があるときは、委任者において委任契約を解除することができるものと解すべきことはもちろんであるが(最高裁昭和三九年(オ)第九八号同四〇年一二月一七日第二小法廷判決・裁判集八一号五六一頁、最高裁昭和四二年(オ)第二一九号同四三年九月二〇日第二小法廷判決・裁判集九二号三二九頁参照)、さらに、かかるやむをえない事由がない場合であつても、委任者が委任契約の解除権自体を放棄したものとは解されない事情があるときは、該委任契約が受任者の利益のためにもなされていることを理由として、委任者の意思に反して事務処理を継続させることは、委任者の利益を阻害し委任契約の本旨に反することになるから、委任者は、民法六五一条に則り委任契約を解除することができ、ただ、受任者がこれによつて不利益を受けるときは、委任者から損害の賠償を受けることによつて、その不利益を填補されれば足りるものと解するのが相当である。】