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薬院法律事務所

刑事弁護

微罪処分になったけど、納得いかないので取消をしたいという相談(傷害、刑事弁護)


2024年12月05日刑事弁護

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、私は、東京都大田区に住む40代の会社員男性です。先日、居酒屋で大学時代の友人と喧嘩になり、友人を殴って怪我をさせたということで警察に通報されました。私は、相手が襲いかかってきたから反撃しただけだといったのですが、相手が怪我をしているということで、警察から反省しろといわれました。弁護士さんに相談したところ「微罪処分なら前科にならないから」といわれたので、「反省しています。」という調書にサインしました。ところが、その後、相手は私に殴られて後遺症が残ったといって訴訟を起こしてきました。その訴訟で、相手は、「本人は反省したといって暴行の事実を認め微罪処分になっている」と主張してきました。不本意なのですが、微罪処分を取り消せないでしょうか。

 

A、微罪処分の取消はできません。民事訴訟の中で具体的な事実を反論していく必要があるでしょう。

 

【解説】

 

「微罪処分なら前科にはならない。」これは事実です。しかし、微罪処分については、「犯罪の事実はあった」ということが前提の処分になります。そのため、後日に民事訴訟が予想される案件で、正当防衛などを主張する場合にはしっかりと反論をして、微罪処分ではなく「嫌疑不十分不起訴」を狙うべきでしょう。検察官に記録が送致されれば、不起訴になった後も一定の範囲で捜査記録の開示を求められるという点も見過ごせないポイントです。警察は、未送致事件の捜査記録は、弁護士会照会であっても開示しないからです(警視庁の取扱に関して、部内用雑誌の記載を末尾に引用します)。とはいえ、もう既になされた微罪処分は取り消せませんので、ご相談の事例では丁寧な対応をしていくしかないと思います。

 

※刑法

https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045

(傷害)
第二百四条 人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
(暴行)
第二百八条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

 

※犯罪捜査規範

https://laws.e-gov.go.jp/law/332M50400000002

(微罪処分ができる場合)
第198条捜査した事件について、犯罪事実が極めて軽微であり、かつ、検察官から送致の手続をとる必要がないとあらかじめ指定されたものについては、送致しないことができる。
(微罪処分の報告)
第199条前条の規定により送致しない事件については、その処理年月日、被疑者の氏名、年齢、職業及び住居、罪名並びに犯罪事実の要旨を1月ごとに一括して、微罪処分事件報告書(別記様式第19号)により検察官に報告しなければならない。
(微罪処分の際の処置)
第200条第198条(微罪処分ができる場合)の規定により事件を送致しない場合には、次の各号に掲げる処置をとるものとする。
(1)被疑者に対し、厳重に訓戒を加えて、将来を戒めること。
(2)親権者、雇主その他被疑者を監督する地位にある者又はこれらの者に代わるべき者を呼び出し、将来の監督につき必要な注意を与えて、その請書を徴すること。
(3)被疑者に対し、被害者に対する被害の回復、謝罪その他適当な方法を講ずるよう諭すこと。

 

【参考文献】

 

刑事法令研究会編『3訂版 ヴィジュアル法学 事例で学ぶ刑事訴訟法』(東京法令出版,2015年12月)248頁

【検察官には、事件について公訴提起をする権限が独占的に認められているが(刑訴二四七)、犯人の行為が明らかに犯罪を構成している場合であっても、犯人の性格、年齢、境遇、犯罪の軽重、情状、犯罪後の情況により公訴の提起をしないことができる(同二四八)として、起訴便宜主義を明記し、起訴猶予処分権を認めている。
微罪処分制度は、微罪事件の処分権を司法警察員に委任し、警察限りで事件を処理する制度であり、検察官の有するこの起訴猶予処分権の一部を司法警察員に委任したものと解されている。】

https://www.tokyo-horei.co.jp/shop/goods/index.php?5105

 

警察公論2021年11月号付録『令和3年度版警察実務重要裁判例』34頁
微罪処分の取消しを求める訴えが不適法として却下された事例
東京地判令2.2.6
LEX/DB(文献番号)25584503
【捜査機関がした捜査上の行為に対し行政訴訟又は民事訴訟を提起して, これによってその当否を争うことは許されないというのが確立された判例であるが(最判昭42年4月7日・裁判集民事87号31頁),微罪処分についてその取消しを求めた事例は,判例集登載のものでは不見当であり,参考となると思われる。】

 

警視庁刑事部「刑事資料68巻1号(2017年1月1日号)(部内用)」

「執務資料 弁護人に関する基礎知識~適正捜査を期するために~」15-38頁

32頁

【5 弁護士会照会制度 (2)弁護士会からの照会に対する回答の要否とその範囲 ア捜査書類に関する照会の回答(イ)未送致事件の場合】

【なお、微罪処分(刑訴246ただし書)した事件についても、その後、検察官から指示を受けた場合は送致しなければならないことから、その内容についても照会に応じるべきではない。】

 

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