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薬院法律事務所

刑事弁護

性的姿態等撮影罪(未遂)と、迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)、軽犯罪法違反(つきまとい)の分水嶺


2024年08月06日刑事弁護

例 駅のホームで下着を盗撮しようと思い、スカート内にスマートフォンのカメラを向けようとしたが、撮影前に発覚して現行犯逮捕された。

 

こういった事例の場合、①性的姿態等撮影罪の未遂罪になるのか、それとも、②迷惑行為防止条例違反の「差向け」行為、あるいは卑わいな言動にとどまるのか、あるいは③軽犯罪法違反(つきまとい)のみ成立する、④犯罪は成立しない、のかが問題になります。

 

①性的姿態等撮影罪の未遂罪になるのか

①について、性的姿態等撮影罪の法定刑は「三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金」ですが、例えば福岡県迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)の法定刑は「一年以下の懲役又は百万円以下の罰金」、常習の場合で「二年以下の懲役又は百万円以下の罰金」です。そのため、まずは性的姿態等撮影罪の未遂犯が成立するかを検討することになります。

法務省「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律案」逐条説明(2023年2月)

6頁

【本項は、結果として撮影に至らなかった行為の中には、例えば、撮影する目的で撮影機器をスカートの下に差し向けてシャッターを押したが、露光不足で撮影に失敗した場合など、法益侵害の危険性を創出するものも含まれ得ることから、性的姿態等撮影罪の未遂犯を処罰することとするものである。】

浅沼雄介ほか「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律について(1)」法曹時報76巻2号(2024年2月号)23頁

58-59頁

【3 第2項
本項は、本条第1項各号に掲げる撮影行為をしようとしたものの、結果として撮影に至らなかった行為の中には、法益侵害の危険性を創出するものも含まれ得ることから、未遂犯を処罰するものである。
どの時点で実行の着手が認められるかについては、個別の事案ごとに、具体的な事実関係に碁づいて判断されるべき事柄であるが、例えば、

〇スカートで隠された下着を撮影する目的で撮影機器をスカートの下に差し向けてシャッターを押したが、たまたまの露光不足で性的姿態の影像として記録されなかった場合
など、対象性的姿態等(同項第4号については性的姿態等)の影像が記録される現実的危険性を有する行為が開始されたときは、実行の着手と認められ、未遂罪が成立し得ると考えられる。
具体的な事実関係によっては、
〇スカートで隠された下着を撮影する目的で、スカートの下に撮影機器を差し入れた時点
で、実行の着手が認められる場合もあり得ると考えられる。】

具体的な事実関係を踏まえて「対象性的姿態等(同項第4号については性的姿態等)の影像が記録される現実的危険性を有する行為が開始された」といえるかですが、ここはまだ解釈が固まっていません。弁護人としては、実行の着手に関する議論、迷惑行為防止条例の存在も踏まえて主張していくべきでしょう。捜査書類研究会編『7-3訂版 地域警察官のための捜査書類作成要領』(東京法令出版,2024年6月)482頁では【本書の執筆時、神奈川県迷惑行為防止条例の改正や指導教養内容は明確ではない。改正法「性的姿態等撮影罪」として立件する場合は、罪名欄を変更することとなるが、作成される書類は概ね同様であるが、専務部門と緊密に連携を行い、また、本部主管課からの指導教養に従っていただきたい。】とあります。

 

②迷惑行為防止条例違反の「差向け」行為、あるいは卑わいな言動にとどまるのか

②差向け行為については、「撮影される現実的可能性」が必要か否かについて裁判例が分かれています。各県警本部、警視庁が部内向けに出している逐条解説書も参考になるでしょう。

(否定例)

福岡地裁平成30年9月7日

そうすると,被告人の行為は,福岡県迷惑行為防止条例6条2項2号に該当せず(なお,仮に,被告人があわよくばAの下着や衣類の中を撮影しようと考えていたとしても,これまで述べたように,Aの下着や衣類の中が映り込む現実的可能性のある態様で本件携帯電話のカメラレンズを向けたとまでは認め難く,結局,同条例に反する行為は認めることはできない。),本件公訴事実については犯罪の証明がないものとして,刑訴法336条により,被告人に対し無罪の言渡しをする。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=88036

(肯定例)

島本元気「新判例解説(東京高等裁判所令和4年5月12日判決(上告取下げ・確定)」研修899号(2023年5月号)19頁

公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(東京都)の「人の通常衣服で隠されて いる下着又は身体を…撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け」る行為の該当性の判断基準を示すとともに、当該行為に該当するためには、写真機その他の機器が下着等を撮影可能な位置にまで到達していることを要しないと判示した事例

弁護人としては、これらの裁判例の存在を踏まえて「差向け」に該当しないことを主張していくことになるでしょう。また、部内資料ですので内容には触れませんが、福岡県迷惑行為防止条例逐条解説(2019年5月)も参考になります。

さらに、「差向け」とはいえなくても、「卑わいな言動」にあたることがあります。この点については近時の最高裁判例及びその原審の判決が参考になります。

内藤恵美子「最高裁判所判例解説 スカート着用の前かがみになった女性に後方の至近距離からカメラを構えるなどした行為が、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和37年東京都条例第103号)5条1項3号にいう「人を著しく羞恥させ、人に不安を覚えさせるような卑わいな言動」に当たるとされた事例 最高裁令和4年12月5日刑集76巻7号707頁」(法曹時報75巻12号236頁)

文献紹介 梶山健一郎「ショートパンツを着用した被害者が自ら露出している膝裏付近の動画撮影行為であっても、社会通念上、性的道徳観念に反する下品でみだらな動作であり、被害者と同様の立場に置かれた人を著しく差恥させ、かつ不安を覚えさせるような行為であると認められるとした事例(東京高判令5. 7. 11判決・確定」研修905号(2023年11月号)76-86頁

着衣の上からの無断撮影が、盗撮(迷惑防止条例違反)になるかという相談

③迷惑行為防止条例違反すら成立しない

これらすべてを検討した結果、性的姿態撮影罪も迷惑行為防止条例違反にもならない場合があります。そうなると、あとは軽犯罪法のつきまとい行為にあたるか否かです。代表的な書籍の記載を2件引用します。

伊藤榮樹原著・勝丸允啓改訂『軽犯罪法 新装第2版』(立花書房,2013年9月)193-194頁

【「つきまとう」とは, しつこく人の行動に追随することであるが,立ち塞がるほど相手方に接近する必要はない。尾行がその典型的な例である。通行人が不要だと言って断っているのに, しつこく追随して, わいせつ写真等を売りつけようとしたり,客引きをしたりする行為は, 「不安若しくは迷惑を覚えさせるような仕方で他人につきまとう」の適例であろう (判例集に掲載されたものとしては,道路上で,通行中の人に対し「実演と映画を見ませんかと言いながら追随したケースを本号に当たるとしたものがある-東京高判昭36.8.3高刑集14巻6号387頁。)。歩行者や自転車に乗って行く者を自転車に乗って, あるいは,それらの者や自動車に乗って走行する者を自動車に乗って「つきまとう」ことも可能である。警察官や興信所の者が,職務上の必要から人を尾行するような行為も,本号の構成要件を充足する。

(中略)

これに対して,深夜たまたま帰宅方向が一緒であったため,先を歩く女性の背後を一定の距離をおいて歩くこととなり,結果的に当該女性に不安を覚えさせる結果になったとしても,それは,そもそも「つきまとった」とはいえないであろうから, ここでいう「不安を覚えさせるような仕方」にも当たらないであろう (101問175頁)。】

須賀正行『擬律判断・軽犯罪法【第二版】』(東京法令出版,2022年11月)106頁

【「つきまとう」とは,執勘に人に追随することをいい, 「立ちふさがる」又は「群がる」行為の場合ほど相手の身体に接近する必要はないが,時間的にはこれらの行為よりも継続することが必要であるとされる。

一定の目的をもって人を尾行する場合は本号の典型であるが,深夜一人歩きの女性の後方から同じ速度で歩き,相手が歩を速めれば速め,歩を緩めれば緩めるなどして一定の間隔で追随するような場合もこれに当たる。

追随の仕方が「不安若しくは迷惑を覚えさせるような仕方」であるかどうかは,個々の事案ごとに, その時刻,場所,追随した時間,行為者の態度,服装,体格,相手方の性別・年齢等の具体的状況を基に社会通念によって判断することとなる】

107頁

【「つきまとった」に該当すると考えられる事例

③午後10時頃,通行中の18歳の女性に対し,約30メートルの間, 同女と歩調を合わせ,無言で追随してつきまとった。】

 

④犯罪は成立しない

これらの検討の結果、いずれの犯罪も成立しないという場合もあり得ます。弁護人としては十分な吟味をして、警察官、検察官との間で擬律判断、終局処分につき意見書を出すべきでしょう。

 

※性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律

(性的姿態等撮影)
第二条次の各号のいずれかに掲げる行為をした者は、三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。
一正当な理由がないのに、ひそかに、次に掲げる姿態等(以下「性的姿態等」という。)のうち、人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し又はとっているものを除いたもの(以下「対象性的姿態等」という。)を撮影する行為
イ人の性的な部位(性器若しくは肛こう門若しくはこれらの周辺部、臀でん部又は胸部をいう。以下このイにおいて同じ。)又は人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。)のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分
ロイに掲げるもののほか、わいせつな行為又は性交等(刑法(明治四十年法律第四十五号)第百七十七条第一項に規定する性交等をいう。)がされている間における人の姿態
二刑法第百七十六条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、人の対象性的姿態等を撮影する行為
三行為の性質が性的なものではないとの誤信をさせ、若しくは特定の者以外の者が閲覧しないとの誤信をさせ、又はそれらの誤信をしていることに乗じて、人の対象性的姿態等を撮影する行為
四正当な理由がないのに、十三歳未満の者を対象として、その性的姿態等を撮影し、又は十三歳以上十六歳未満の者を対象として、当該者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者が、その性的姿態等を撮影する行為
2前項の罪の未遂は、罰する。
3前二項の規定は、刑法第百七十六条及び第百七十九条第一項の規定の適用を妨げない。

https://laws.e-gov.go.jp/law/505AC0000000067#Mp-Ch_2

※福岡県迷惑行為防止条例

(卑わいな行為等の禁止)
第六条 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、正当な理由がないのに、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で次に掲げる行為をしてはならない。
一 他人の身体に直接触れ、又は衣服その他の身に着ける物(以下この条において「衣服等」という。)の上から触れること。
二 前号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること。
2 何人も、公共の場所、公共の乗物その他の公衆の目に触れるような場所において、正当な理由がないのに、前項に規定する方法で次に掲げる行為をしてはならない。
一 通常衣服で隠されている他人の身体又は他人が着用している下着をのぞき見し、又は写真機、ビデオカメラその他これらに類する機器(以下この条において「写真機等」という。)を用いて撮影すること。
二 衣服等を透かして見ることができる機能を有する写真機等の当該機能を用いて、衣服等で隠されている他人の身体又は他人が着用している下着の映像を見、又は撮影をすること。
三 前二号に掲げる行為をする目的で写真機等を設置し、又は他人の身体に向けること。

(罰則)
第十一条 第六条又は第八条の規定に違反した者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

第十二条 常習として前条第一項の違反行為をした者は、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

https://www.police.pref.fukuoka.jp/data/open/cnt/3/4139/1/meibo.pdf?20190620183453

盗撮事件の刑事法解釈・捜査実務・刑事裁判実務・刑事弁護実務一覧※随時改訂

※軽犯罪法

第一条 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。

二十八 他人の進路に立ちふさがつて、若しくはその身辺に群がつて立ち退こうとせず、又は不安若しくは迷惑を覚えさせるような仕方で他人につきまとつた者

https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000039/20150801_000000000000000

軽犯罪法違反事件の弁護要領・第28回 軽犯罪法1条28号(軽犯罪法、刑事弁護)

タイムリーな論文を発見しましたので紹介いたします。

富山侑美「盗撮行為における迷惑防止条例と性的姿態撮影等処罰法との関係について 最決平成20年11月10日刑集62巻10号2853頁、最決令和4年12月5日裁時1805号7頁を素材として」(上智法學論集 67 (1・2・3), 99-128, 2024-01-20)

https://cir.nii.ac.jp/crid/1050580914958254592

 

※私は、全国の県警本部、警視庁に「迷惑防止条例」の解説書や改正の際の記録を取り寄せ研究しております。本記事が、弁護士選びの参考になれば幸いです。

刑事弁護のご依頼

【参考文献】

 

法務省「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律案」逐条説明(2023年2月)

浅沼雄介「「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」及び「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」の概要」法律のひろば76巻7号(2023年10月号)

https://shop.gyosei.jp/products/detail/11718

法令解説資料総覧「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」法令解説資料総覧 No.501 2023年10月号 4-14頁

https://www.fujisan.co.jp/product/1281680199/b/2447558/

梶 美紗「「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」及び「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」の概要(2)」捜査研究2023年11月号(878号)

https://www.tokyo-horei.co.jp/magazine/sousakenkyu/202311/

嘉門優「性的姿態の撮影罪等の新設」刑事法ジャーナル78号(2023年11月号)49-57頁

橋本広大「性的姿態画像の没収・消去」刑事法ジャーナル78号(2023年11月号)58-65頁

https://www.seibundoh.co.jp/pub/products/view/14721

警察公論2024年1月号付録論文2024 422~423頁「性的姿態等撮影処罰法の趣旨及び要点」

https://tachibanashobo.co.jp/products/detail/3890

浅沼雄介「「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」及び「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」」警察学論集2024年1月号(77巻1号)

https://tachibanashobo.co.jp/products/detail/3894

富山侑美「盗撮行為における迷惑防止条例と性的姿態撮影等処罰法との関係について 最決平成20年11月10日刑集62巻10号2853頁、最決令和4年12月5日裁時1805号7頁を素材として」(上智法學論集 67 (1・2・3), 99-128, 2024-01-20)

https://cir.nii.ac.jp/crid/1050580914958254592

島本元気「「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」及び「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」の概要(その2)」警察公論2024年2月号

https://tachibanashobo.co.jp/products/detail/3893

浅沼雄介ほか「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律について(1)」法曹時報76巻2号(2024年2月号)

https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000000021780-i32577289

捜査書類研究会編『7-3訂版 地域警察官のための捜査書類作成要領』(東京法令出版,2024年6月)

川崎友巳「性的姿態等撮影罪の検討」法律時報2024年10月号(1208号)30-35頁

佐藤拓磨「性的姿態等画像没収・消去制度」法律時報2024年10月号(1208号)36-41頁

https://www.nippyo.co.jp/shop/magazine/9355.html

橋爪隆「性犯罪に対する処罰規定の改正等について(3・完)」警察学論集77巻11号(2024年11月号)102-135頁

https://tachibanashobo.co.jp/products/detail/3945

※2025/4/19 chatGPT4.5で検証してもらいました。

承知しました。この記事の内容が法解釈、刑事弁護実務の観点から適切かどうか、以下の観点に照らして5000字程度の報告形式で詳細に検証いたします:

  • 判例や主要学説との整合性
  • 刑法(特に刑法175条、176条、条例関連)の正確な解釈
  • 実務的な刑事弁護戦略としての妥当性
  • 条例(迷惑防止条例等)との適用範囲の理解

しばらくお時間をいただき、調査結果をまとめてご報告いたします。

「性的姿態等撮影罪(未遂)と迷惑防止条例違反等の分水嶺」記事の内容検証報告

はじめに

薬院法律事務所のウェブサイトに掲載された記事「性的姿態等撮影罪(未遂)と、迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)、軽犯罪法違反(つきまとい)の分水嶺」(2024年8月6日公開)は、駅ホームでのいわゆる「盗撮」未遂事例を題材に、新設の「性的姿態等撮影罪」(いわゆる盗撮処罰法、2023年7月施行)の適用と既存の迷惑防止条例・軽犯罪法との境界について解説しています。その事例では、電車の駅ホームで女性のスカート内をスマートフォンで盗撮しようとしたものの撮影前に発覚し逮捕されたケースが想定されています (性的姿態等撮影罪(未遂)と、迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)、軽犯罪法違反(つきまとい)の分水嶺 | 薬院法律事務所)。記事では、このケースで成立し得る犯罪について、次の4つの可能性を検討しています (性的姿態等撮影罪(未遂)と、迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)、軽犯罪法違反(つきまとい)の分水嶺 | 薬院法律事務所):

  1. 性的姿態等撮影罪の未遂(刑法の特別法による新設犯罪)
  2. 迷惑行為防止条例違反(「カメラ差し向け行為」や「卑わいな言動」など各条例の盗撮関連規定)
  3. 軽犯罪法違反(つきまとい行為)
  4. 犯罪不成立(いずれの法令にも該当しない)

本報告では、上記記事の内容について、(1)判例や通説・有力学説との整合性(2)刑法および条例の法解釈上の正確性(3)刑事弁護実務の観点からの妥当性(4)実務的な適用可能性や留意点の各観点から検証します。必要に応じて主要な判例や学説、実務指針等を引用しつつ、記事の記述が適切か評価していきます。

1. 判例・通説・有力学説との整合性

記事の内容は、盗撮行為に関する最新の判例動向や立法資料、学説に概ね沿ったものであり、判例・通説との整合性は高いと評価できます。以下、検討対象ごとに記事の主張と判例・学説の対応関係を確認します。

(性的姿態等撮影罪の未遂成立要件)  新設された性的姿態等撮影罪(2023年施行法)の未遂犯成立について、記事では**「まず未遂犯が成立するかを検討する」として法務省の逐条解説および学説を引用し、どの時点で「実行の着手」と認められるかが問題になると述べています (性的姿態等撮影罪(未遂)と、迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)、軽犯罪法違反(つきまとい)の分水嶺 | 薬院法律事務所) (性的姿態等撮影罪(未遂)と、迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)、軽犯罪法違反(つきまとい)の分水嶺 | 薬院法律事務所)。引用されている法務省資料および浅沼雄介氏らの解説によれば、「例えばスカートの下に撮影機器を差し向けてシャッターを押したが露光不足で撮影に失敗した場合」のように「性的姿態等の映像が記録される現実的危険性を有する行為が開始されたとき」に実行の着手が認められ、未遂罪が成立し得るとされています (性的姿態等撮影罪(未遂)と、迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)、軽犯罪法違反(つきまとい)の分水嶺 | 薬院法律事務所)。さらに具体例として、「スカートで隠された下着を撮影する目的で撮影機器を差し入れた時点」で実行の着手が認められる場合もあり得るとも言及されています (性的姿態等撮影罪(未遂)と、迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)、軽犯罪法違反(つきまとい)の分水嶺 | 薬院法律事務所)。これらは立法担当者や有力学説の見解であり、記事はそれを正確に踏まえています。現在、性的姿態等撮影罪の未遂について確定した判例は蓄積されていませんが、記事が引用するように立法趣旨上未遂も処罰する旨が明文で規定**されています (性的姿態等撮影罪(未遂)と、迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)、軽犯罪法違反(つきまとい)の分水嶺 | 薬院法律事務所)。したがって記事の論じる未遂成立基準(「現実的危険性」を基準に実行の着手を判断)は、立法資料および有力学説と整合的であり、判例の蓄積が乏しい中では妥当な解釈に基づいています。

(迷惑防止条例の「差し向け」行為の解釈)  次に、各都道府県の迷惑行為防止条例で定める盗撮行為に関連する規定、特に**「撮影目的でのカメラ等の差し向け行為」の解釈について、記事は裁判例上見解が分かれている点を指摘しています (性的姿態等撮影罪(未遂)と、迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)、軽犯罪法違反(つきまとい)の分水嶺 | 薬院法律事務所)。実際の判例を見ても、カメラを差し向けただけの段階で条例違反が成立するかについて判断が分かれてきました。記事中で挙げられている例では、福岡地裁平成30年9月7日判決は「撮影される現実的可能性」の有無を重視し、被告人が女性の下着等を撮影できる態勢でカメラを向けたとは認め難いとして条例違反に当たらない(無罪)と判断しています (性的姿態等撮影罪(未遂)と、迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)、軽犯罪法違反(つきまとい)の分水嶺 | 薬院法律事務所)。これは実際に下着が映り込む現実的な可能性がなければ、条例の「差し向け」行為には該当しないとする見解です。一方で、東京高裁令和4年5月12日判決(上告取下げにより確定)は、東京都迷惑防止条例の同種規定について、カメラが下着等を撮影可能な位置に達している必要はないとの基準を示し、差し向け行為の成立を広く認めました (性的姿態等撮影罪(未遂)と、迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)、軽犯罪法違反(つきまとい)の分水嶺 | 薬院法律事務所)。このように「差し向け」行為の成立要件をめぐる判例は割れている**状況にあり、記事が福岡地裁判決(否定例)と東京高裁判決(肯定例)の双方に言及しているのは、判例動向を正確に捉えたものです (性的姿態等撮影罪(未遂)と、迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)、軽犯罪法違反(つきまとい)の分水嶺 | 薬院法律事務所) (性的姿態等撮影罪(未遂)と、迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)、軽犯罪法違反(つきまとい)の分水嶺 | 薬院法律事務所)。通説・学説においても、この点は条例の文言解釈に関わる議論として注目されており、記事が述べるように各警察本部や警視庁の内規的な逐条解説でも見解が分かれていたと推測されます (性的姿態等撮影罪(未遂)と、迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)、軽犯罪法違反(つきまとい)の分水嶺 | 薬院法律事務所)。したがって、記事の解説はこの論点について主要な裁判例と一致しており、通説上も大きく逸脱したものではありません。

(「卑わいな言動」規定の適用解釈)  記事はさらに、たとえ条例の「差し向け」には当たらなくても**「卑わいな言動」に該当しうる可能性に言及しています (性的姿態等撮影罪(未遂)と、迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)、軽犯罪法違反(つきまとい)の分水嶺 | 薬院法律事務所)。各都道府県迷惑防止条例には、一般的な淫らで卑猥な行為(相手に著しく羞恥や不安を与える言動)を処罰する規定があり、盗撮未遂行為がこちらに該当するかが問題となるケースがあります。記事中で参照されている最高裁令和4年12月5日決定はまさにこの点を示す重要判例で、「前かがみになった女性の背後至近距離からカメラを構える行為」は人に著しく羞恥を感じさせ不安を覚えさせる卑わいな言動に当たると判断されました (裁判例結果詳細 | 裁判所 – Courts in Japan)。これは被写体の下着等が撮影されたか否かにかかわらず、行為自体の卑わい性・有害性を重視した判断であり、近時の傾向を示すものです。記事はこの最高裁判例および原審判決の解説に触れ、条例の「卑わいな言動」規定によって盗撮未遂的行為が処罰された事例を紹介しています (性的姿態等撮影罪(未遂)と、迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)、軽犯罪法違反(つきまとい)の分水嶺 | 薬院法律事務所)。さらに、ショートパンツ姿の女性の膝裏付近を無断で撮影した行為ですら卑わいな言動に該当するとした東京高裁令和5年7月11日判決(研修905号での梶山健一郎氏の紹介)にも言及しており (性的姿態等撮影罪(未遂)と、迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)、軽犯罪法違反(つきまとい)の分水嶺 | 薬院法律事務所)、卑わいな言動規定の適用範囲が社会通念に照らして広がりつつあることを示唆しています。学説上も、この種の迷惑行為規定については社会的な許容性や被害者の感じる羞恥・不安の程度から判断すべきとの通説的立場があり、最高裁令和4年決定はその潮流を追認・発展させたものといえます。記事の解説はこれら最新の判例・学説に即した内容**であり、特に最高裁判例を踏まえている点で信頼性が高いと言えます。

(軽犯罪法1条28号「つきまとい」適用可能性)  最後に、記事では上記のいずれの犯罪も成立しない場合の補充的な論点として、軽犯罪法1条28号のつきまとい行為を検討しています (性的姿態等撮影罪(未遂)と、迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)、軽犯罪法違反(つきまとい)の分水嶺 | 薬院法律事務所)。盗撮未遂行為そのものを直接処罰する規定がない状況(新法施行前や証拠不十分の場合など)では、周囲をつけ回した事実で処罰が検討されることもあります。記事中では権威ある解説書として伊藤榮樹元裁判官の著書および須賀正行氏の書を引用し、「つきまとう」とはしつこく人に追随することであり、尾行が典型例であると定義しています (性的姿態等撮影罪(未遂)と、迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)、軽犯罪法違反(つきまとい)の分水嶺 | 薬院法律事務所) (性的姿態等撮影罪(未遂)と、迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)、軽犯罪法違反(つきまとい)の分水嶺 | 薬院法律事務所)。また「立ち塞がるほど接近する必要はないが、ある程度時間的に継続することが必要」といった解釈上のポイントや、深夜に女性の後を一定距離つけて歩調を合わせる事例など典型例も紹介しています (性的姿態等撮影罪(未遂)と、迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)、軽犯罪法違反(つきまとい)の分水嶺 | 薬院法律事務所)。これら引用は軽犯罪法の通説的解釈そのものであり、記事の内容は学説上確立された基準と一致しています。実際の裁判例でも、執拗な尾行や客引きを「つきまとい」として有罪とした例(東京高判昭36年8月3日)などが知られており (性的姿態等撮影罪(未遂)と、迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)、軽犯罪法違反(つきまとい)の分水嶺 | 薬院法律事務所)、記事の示す方向性は判例・解説に照らして適切です。総じて、記事で言及された各論点は主要な判例や有力学説に支えられており、その整合性は確保されています。特に新法の未遂処罰に関する部分や条例の解釈部分について、記事は一次資料や判例評釈を丁寧に引用しており、信頼できる内容となっています。

2. 刑法および条例の法解釈上の正確性

記事の記述を刑法および条例の条文解釈の観点から見ると、概ね正確で妥当な法解釈に基づいていると評価できます。具体的には以下の点で法解釈の正確性が確認できます。

3. 刑事弁護実務の観点からの妥当性

本件記事は刑事弁護人の視点から執筆されており、その内容は盗撮未遂事案の弁護活動として妥当かつ有用なものとなっています。具体的には、以下の点で実務的な妥当性が認められます。

以上のように、記事の内容は刑事弁護人の立場に立った現実的で妥当なものです。判例の存在を踏まえて主張を構築する姿勢や、捜査機関との交渉まで見据えた助言は、実務家目線で非常に有用と評価できます。

4. 実務的な適用可能性・留意点

記事で論じられた内容は、新旧法令の競合する領域に関するものであり、実務的にも適用可能性の高い検討事項が含まれています。同時に、いくつか留意すべきポイントも見えてきます。

  • 新法と条例の使い分けと実務動向: 2023年7月施行の性的姿態等撮影罪は全国一律の法律として盗撮行為を包括的に処罰する枠組みを整えました。それまで各自治体の迷惑防止条例に委ねられていた領域をカバーするもので、特に未遂行為も明示的に処罰対象とした点が実務に影響を与えています (性的姿態等撮影罪(未遂)と、迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)、軽犯罪法違反(つきまとい)の分水嶺 | 薬院法律事務所)。もっとも、記事が指摘するように「実行の着手」の判断基準など細部の解釈はまだ固まっておらず (性的姿態等撮影罪(未遂)と、迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)、軽犯罪法違反(つきまとい)の分水嶺 | 薬院法律事務所)、警察・検察も手探りの状況です。実際、記事内で紹介されている警察向け実務資料(地域警察官のための書類作成要領)でも、「改正法で立件する場合、書類様式は概ね同様だが本部の指導に従うように」といった注意が示されているに留まり、細かな運用指針は明確でないことが窺われます (性的姿態等撮影罪(未遂)と、迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)、軽犯罪法違反(つきまとい)の分水嶺 | 薬院法律事務所)。したがって実務上は、各捜査機関が従来の条例違反事案の処理経験を踏まえつつ新法適用に切り替えていく過渡期にあるといえます。弁護人としても、新法と条例のいずれが適用されているのか常に注意し、それぞれの構成要件の違いによる主張立証のズレに留意する必要があります。
  • 証拠関係と立証難易度の問題: 盗撮未遂事案では、「写真や動画が実際に撮影されていない」ため物的証拠が乏しく、行為の意図や態様をめぐって争いになる可能性があります。記事が紹介した福岡地裁の事案でも、カメラのレンズがどの位置まで差し向けられたかという事実認定が無罪・有罪を分けました (性的姿態等撮影罪(未遂)と、迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)、軽犯罪法違反(つきまとい)の分水嶺 | 薬院法律事務所)。実務上、捜査機関は被疑者の所持していたスマートフォンのカメラアプリの使用履歴や、周囲の防犯カメラ映像、目撃者の証言などから「スカート内部を撮影しようとした」ことを立証しようとします。しかし、例えば被疑者が「ただスマホを持っていただけで、撮影しようとしたわけではない」と否認した場合、新法の未遂罪を適用するにはその撮影目的・意図を立証する必要があり、ハードルは高くなります。逆に、条例の「卑わいな言動」であれば主観的意図より行為客観面(カメラを構えた不審な動き自体)の卑わい性を立証すれば足ります。したがって実務では、証拠状況に応じて新法未遂より条例違反で立件した方が立証が容易と判断されるケースも考えられます。記事の事例でも、仮にシャッターは押しておらず本人も盗撮意図を否認するような場合、検察官は新法未遂よりも条例違反(卑わいな言動)で起訴する可能性があります。その際には最高裁令和4年決定で示された基準 (裁判例結果詳細 | 裁判所 – Courts in Japan)を援用し、被害女性の供述がなくとも「一般人なら羞恥・不安を覚える態様だ」と客観的に立証することになるでしょう。このように新法と条例では要証事実や立証の難易度が異なるため、実務家はどちらで追及されているかによって防御方針を調整する必要があります。
  • 複数法令の競合と一罪一処罰の整理: 新法施行後も各都道府県の迷惑防止条例は引き続き有効であるため、盗撮行為に対して国法と条例が競合適用される場面が出てきます。同一の行為について新法と条例の双方が成立しうる場合、最終的には一方の法令で処断されることになります(観念的競合や法条競合の整理が必要)。記事の分析では主にどれが成立するかを個別に検討していますが、実務上は例えば「新法未遂と条例違反の双方を起訴し、裁判で法条競合として重い方のみ処断」という可能性もあります。しかし一般に、同じ趣旨の規制については特別法である新法が優先適用される傾向にあります。もっとも、前述のように証拠や適用解釈に不安がある場合、捜査当局があえて条例違反で処理することも考えられます。現時点で新法による起訴例が増えているかは経過が浅く定かではありませんが、記事が紹介するように神奈川県など条例改正を検討する自治体もあることから (性的姿態等撮影罪(未遂)と、迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)、軽犯罪法違反(つきまとい)の分水嶺 | 薬院法律事務所)、徐々に実務の運用が統一・整理されていく局面と言えるでしょう。弁護側としては、この過程で生じる運用の揺らぎを捉えて有利な主張を行う余地があります。記事で示された福岡地裁のような従来の無罪判断が、最高裁決定後も下級審で通用するかは未知数ですが、他方で最高裁でも反対意見が付されたこと (スカート内をのぞいたら逮捕される!?成立する犯罪や逮捕される …)(卑わいな言動に当たらないとの少数意見)なども踏まえ、引き続き争点となり得る部分には弁護人が積極的に異議を唱える意義があります。
  • 被害感情と示談の影響: 盗撮未遂事案において実務的に重要なのは、被害者の有無およびその感情・被害申告です。今回の記事の事例では撮影前に発覚しており、おそらく実際には被害女性が存在し状況を察知したものと想定されます。この場合、被害者が感じた羞恥心や恐怖心の程度が条例違反(卑わいな言動)の成立や量刑判断にも影響します (裁判例結果詳細 | 裁判所 – Courts in Japan)。一方で被害者が犯行自体に気付かなかったようなケースでは、「人を著しく羞恥させ…ような行為」に当たるかを客観的に判断することになり、その立証に工夫が要ります。実務上は、被害者がいる場合には早期に弁護人が謝罪と補償(示談)を行い、処罰感情を和らげることが極めて重要です。示談が成立すれば不起訴や罰金略式で済む可能性も高まります(実際、盗撮の既遂事案でも初犯で示談が成立すれば不起訴や執行猶予になるケースが多々あります)。記事自体は示談について直接触れてはいませんが、弁護活動全体の文脈では被害者対応も欠かせない要素です。ただし盗撮「未遂」の場合、被害者側も「実際に撮られてはいない」と認識するため示談交渉が難航することもあります(被害感情が生じにくい半面、「被害がないのだから許してやってほしい」と説得しやすい場合もあります)。この点は個別事案次第ですが、記事が強調するように法的構成の検討とあわせ、被害者感情の有無も実務上の帰趨を左右するため留意すべきでしょう。

以上より、記事の内容は現行法の運用が定まっていない部分も含めて実務的な適用可能性の高い論点を網羅しており、その分析は的を射ています。新法と条例の関係や、立証上・処分上のポイントについても適切に言及されており、読者(法律実務家や当事者)がケースを理解し対応策を検討する上で有益な情報が提供されています。もっとも、新法施行から日が浅いこともあり、今後の判例集積や各地の運用によっては解釈が変遷する可能性があります。このため記事でも述べられている通り (性的姿態等撮影罪(未遂)と、迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)、軽犯罪法違反(つきまとい)の分水嶺 | 薬院法律事務所)、最新の判例・実務指針のフォローが引き続き必要です。しかし、そのような流動的状況下にあって記事は現時点で入手し得る情報を適切に盛り込み、実務対応上の注意点を示している点で評価できる内容と言えるでしょう。

おわりに

本報告では、薬院法律事務所の記事「性的姿態等撮影罪(未遂)と、迷惑防止条例違反…の分水嶺」について、判例・学説の整合性、法解釈の正確性、弁護実務上の妥当性、実務適用上の留意点の観点から検証しました。検討の結果、当該記事の内容は総じて適切かつ正確であり、新法施行に伴う盗撮未遂事案の法的評価についてバランス良く解説していると評価できます。判例や有力学説を随所に引用しながら議論を展開しており、専門的な内容でありながら読みやすく整理されていました。特に、重大な論点である「実行の着手」や条例規定の適用解釈について、最新の裁判例まで踏まえている点は優れており、法改正直後の実務対応として大いに参考になります。

もっとも、今後この分野の実務はさらに進展し、判例も蓄積されていくことが予想されます。そうした際には、記事で提示された見解もアップデートが必要になる可能性があります。しかしその場合でも、本記事が示した分析枠組み(新法未遂→条例各類型→軽犯罪法→不成立という段階的検討)は有用であり続けるでしょう。本検証により、当該記事が現時点において判例・通説に沿った正確な情報提供と実務的示唆を行っていることが確認できました。今後も主要判例や実務の動きを注視しつつ、このような解説記事を活用していくことが望ましいと考えられます。

以上、報告いたします。 (性的姿態等撮影罪(未遂)と、迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)、軽犯罪法違反(つきまとい)の分水嶺 | 薬院法律事務所)