犯罪者を恐喝する目的で、私人逮捕することは合法か(刑事弁護)
2024年08月11日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は東京都に住む30代の男性です。最近、女性の下着を盗撮する卑劣な犯罪者が多いと見て、憤っています。気がつかないままの女性もいると思います。そこで、駅のエスカレーターを見張って、盗撮をしている男性を見かけたら、捕まえて説教することにしました。ただ、警察に突き出すと前科がついて可哀想ですので、被害者の代わりに私が示談金を受け取って、犯人に二度としないように反省させるつもりです。良いアイデアだと思いますが、何か問題になることはないでしょうか。
A、示談金を受け取る権利がありませんので、恐喝罪と、逮捕・監禁罪が成立する可能性が高いと思います。逮捕したのであれば、警察に通報しましょう。
【解説】
参考裁判例からすると、恐喝目的の私人逮捕については、「逮捕罪」が成立するようです。あまり知られていない裁判例ですので紹介いたします。
※刑法
https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045
(逮捕及び監禁)
第220条
不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、3月以上7年以下の拘禁刑に処する。
(恐喝)
第249条
人を恐喝して財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
仙台高判昭和26年2月12日高等裁判所刑事判決特報22号6頁
恐喝、同未遂、逮捕監禁被告事件
〔抄録〕
弁護人の控訴趣意第三点について。
現行犯人は何人でも逮捕状なくしてこれを逮捕することができることは刑事訴訟法第二百十三条の規定するところであつて、被害者田中善蔵の米の輸送が食糧管理法に違反して為されたことが窺知されるのであるから、被告人が当時同人を検察官又は司法警察職員に引渡す目的で逮捕したものであつたとすれば、被告人の行為は罪とならないとする主張は容認されるところ、当時の被告人としては、毫も前示田中善蔵を検察官又は司法警察職員に引渡す考はなく、却つて大内文太郎の依頼に基き、同人を逮捕して脅迫し、場合によつては金員を喝取できるかも知れないという気持から逮捕したのであることが記録上認められる本件においては、被告人の判示所為を以て刑事訴訟法第二百十三条にいわゆる現行犯人の逮捕を以て論ずることはできないのである。
(後略)
【参考文献】
ニューウェーブ昇任試験対策委員会『実務 SAに強くなる!イラスト解説刑訴法』(東京法令出版,2016年8月)
130頁
【(4) 私人による現行犯逮捕
現行犯逮捕は、何人にも認められている(刑訴法213 条)ので、私人でも現行犯逮捕ができる。私人の逮捕は義務ではなく、逮捕するかしないかは自由である。
しかし、金員要求の目的で逮捕するなど、不法な目的で逮捕したときは、刑訴法第213 条にいう現行犯逮捕とはいえず、不法逮捕となる(仙台高判昭26. 2. 12) 。】
https://www.tokyo-horei.co.jp/shop/goods/index.php?12727
前田雅英ほか編『条解刑法〔第4版補訂版〕』(弘文堂,2023年3月)824頁
【恐喝の目的で人を監禁した場合でも,監禁罪と恐喝罪とは併合罪である(最判平17・4・14集59-3-283参照。220条注5(I)参照)。】
https://www.koubundou.co.jp/book/b618733.html
最判平成17年4月14日
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=50078
- 判示事項
- 恐喝の手段として監禁が行われた場合の罪数関係
- 裁判要旨
- 恐喝の手段として監禁が行われた場合であっても,両罪は,牽連犯の関係にはない。