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薬院法律事務所

刑事弁護

夫が不同意性交罪で逮捕されたが、否認しているという相談(性犯罪、刑事弁護)


2024年01月31日刑事弁護

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、私は福岡市に住む40代の専業主婦です。先日、夫が会社内で同僚に対して不同意性交をしたということで逮捕されました。当番弁護士さんの話では、夫は「指一本触れておらず、告白を断ったので逆恨みされたのだと思う。」とのことです。夫を信じたいのですが、どうすれば良いでしょうか。

A、経験豊富な弁護士に依頼して、積極的に相手の供述が信用できない事情を示す証拠を提示することで、不起訴処分を得ることが考えられます。この種の事案では、完全黙秘が常に有効とは限りません。

 

【解説】

不同意性交事件については、密室で行われることが多いので、証拠となるものが「被害者の証言」だけしかないということはあります。もちろん、それだからといって信用できないということはなく、大半は真実であると考えられますが…虚偽申告がなされることも一定程度あるというのが現実のようです。そのため、刑事弁護人は、否認事件については、虚偽の自白調書が作成されないように、徹底的に争う必要があります。

例えば、恩田剛「ある日の令状面接室~適正な令状請求を目指して~ 第25回不同意わいせつ罪・不同意性交等罪」警察公論2023年10月号では、虚偽申告であることが強く疑われる性被害の訴えに基づいて逮捕・勾留された事案をベースに、警察官や裁判官、弁護人や被疑者の言動が会話形式で紹介されています。この連載で初めて弁護人が出てきたのではないかと思いますが、積極否認を勧めて、最終的に不起訴処分となっています。【今回の事案は、私が実際に弁護人として弁護活動をして不起訴処分を得た事例をもとに作成したものです。】とのことですので、虚偽申告であることが強く疑われる性被害の訴えでも、逮捕・勾留・勾留延長までされてしまうことがある、それでもきちんと否認することで不起訴になることは期待できる、という意味で被疑者・被告人への説明にも使える内容だと思いました。

 

警察公論2023年10月号

https://tachibanashobo.co.jp/products/detail/3874

 

【参考文献】

 

石井一正『刑事実務証拠法 第5版』(判例タイムズ社,2011年11月)477頁
【被害状況に関する被害者の供述は、先ほど述べたように、細部はともかく大筋(たとえば、「どこそこで殴られた」とか「脅かされた」あるいは「ある品物を盗られた」とか「わいせつな行為をされた」)においてはその証明力にそれほど問題がない。とりわけ、犯人と被害者との間に事件前にまったくつながりがない場合、よほどの事情(たとえば、被害妄想、虚言癖)がない限り、被害者が犯罪の被害がないのにこれがあったように故意の虚偽供述をして被告人に無実の罪を着せるなどという事態は考えにくい。なぜなら、通常の場合、被害者がそのような事態を作り出す動機も利益もないからである。利益がないどころか現実的に考えてみると、被害者にとっても犯罪の被害を訴え、警察、検察庁で供述をし、法廷で被告人の面前で被害状況を述べるのは実は大変な負担を背負うことになるのである。いわんや性犯罪のような被害者にとっても、できることなら公にしたくない被害を公の場で供述しなければならない場合はそうである。そのような負担を負ってまで、虚偽の被害供述をする者は通常いないと考えるのが、経験則に合致している。】

https://www.hanta.co.jp/books/6420/

小笠原和美&泰三子「<新春特別対談>もっと伝えたい,警察のこと(後編)」警察公論2020年2月号10-16頁

12頁

【小笠原:連載の中で彼氏に二股がバレたから,浮気を強姦って申告してくることがあるってエピソードがあるじゃないですか。ああいう申告は現実にあるんでしょうか。
泰:はい。実際にもよくあります。
小笠原:なるほど。もし本当に, 山田みたいな若い刑事が被害者のために一生懸命頑張って捜査して,そうしたら,「ごめんなさい,実は嘘でした」ってなったら,それってやっぱり,ガクッとなりますね。でも,刑事は1件1件事件と向き合うしかない。(略)】

 

田中嘉寿子『性犯罪・児童虐待捜査ハンドブック』(立花書房,2014年1月)167頁

【被害者が,被疑者と交際して別れた,従前好意を抱いていたのに振られた後で被害申告したことが,被害者の被疑者宛てのメール・通話履歴・手紙等から疑われる場合(12), 恨みによる虚偽供述の可能性があり得る。】