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薬院法律事務所

企業法務

抜粋して提出された証拠は、原本提出を求めることができます(一般民事)


2019年10月22日労働事件(企業法務)

証拠の一部を抜粋して提出するということは良く行われています。

しかし、この場合、民事訴訟法220条1号の「引用文書」として、抜粋していない原本の提出を求められることもあります。意外に知られていないかも?ということで紹介しました。

平成15年6月26日/大阪高等裁判所/第10民事部/決定/平成15年(ラ)115号
労働判例861号49頁

【第2 当裁判所の判断
1 文書提出命令は,書証申出人が証拠調べの対象とすべき文書(原本)を所持しないため,受訴裁判所に対し,その所持者に対し当該文書の提出を命じる決定を求めるものであるから,相手方らは,本件集計表(原本)を受訴裁判所に提出するよう命じる決定を求める趣旨と解され,したがって,原決定も本件集計表(原本)の提出を命じたものと解される。
2 抗告人は,本案において,本件写しを提出することにより,本件集計表が存在すること,本件集計表が抗告人の会社全体(あるいはグループ企業全体)の各部門の営業実績を示す信頼性のある文書であることを前提として,輸送技術課が不採算部門であることを示すため,本件集計表のうち輸送技術課に関する数字だけを抜粋する本件写しを作成し,その証拠調べを求めたものである。
したがって,本件集計表は,民事訴訟法220条1号所定の文書(引用文書)に該当することが明らかである。
3 抗告人は,その抗告の理由において,本件除外部分は引用文書に該当しないと主張するようであるから,その点について検討する。
引用文書が提出義務の対象文書とされているのは,訴訟の当事者の一方が,自ら訴訟を有利に展開するため,文書の存在を積極的に主張した場合には,当該文書を開示させ,文書の信頼性につき他方の当事者と裁判所の批判にさらすことにより,当該文書が存在することに起因して裁判所が不公正な心証を形成する危険を回避するためである。
したがって,抗告人は,本件抜粋部分を裁判所に提示した以上,本件集計表の信頼性が相手方及び裁判所によって吟味されることを拒否することは許されないのであり,本件集計表を開示する義務を負う。仮に,本件除外部分の開示が義務付けられないとすれば,当事者は,一個の文書のうち自己の都合の良い部分のみを先行的に開示し,それ以外の部分を引用文書でないと言い張ることが許されることになり,民事訴訟法220条1号の規定の上記目的を形骸化させることができることになり,相当ではない。
おそらく,抗告人の上記主張は,本件抜粋部分と本件除外部分とが別個の文書を構成することを前提としなければ成り立たない主張と思われるのであるが,本件写しを見る限り,本件集計表は前記第1の4のとおりであるから,本件集計表のうち本件除外部分だけが引用文書に該当しないということはありえない。
4 なお,抗告人は,その抗告の理由において,本件除外部分が民事訴訟法220条4号ニの除外文書に該当すると主張する。引用文書について同号ニの適用がないわけではないとしても,少なくとも,本件写しから明らかな本件集計表の体裁,本件抜粋部分の内容に照らせば,本件除外部分が同号ニに該当するとは到底認めがたい。
5 よって,原決定は結論において相当であるから本件抗告を棄却することとし,原決定の意味内容を疑義のないようにするため,職権で原決定の主文を更正することとして,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 下方元子 裁判官 水口雅資 裁判官 橋詰均)】

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