救護・報告義務違反での完全黙秘戦略の妥当性※chatGPTo1pro作成(道路交通法違反、刑事弁護)
2025年01月25日刑事弁護
プロンプト
【先ほどのこの質問ですが、「出頭するけど完全黙秘をする」ということで捜査機関には供述証拠を与えないという弁護方針の妥当性についても検証してください。自動車を運転している人が、交差点を左折する際、左側にいた自転車に気づかずに進行し、自転車の前部と自動車の左後部を衝突させ、自転車を転倒させ、そのまま気づかずに走り去ったという事例で、後日警察から過失運転致傷罪(加療2週間)と救護・報告義務違反に問われたという場合に、弁護人として救護・報告義務違反の故意を否定して過失運転致傷罪のみの処罰にとどめること、運転免許取り消しの行政処分(救護義務違反35点)を免れるための弁護方針について、1万字以上で詳細に解説してください。】
以下に示す解説は、「自動車運転者が交差点を左折する際、左側の自転車に気づかず衝突させて転倒させ、そのまま走り去った」という事案において、「過失運転致傷罪(加療2週間相当の傷害)と救護・報告義務違反(いわゆるひき逃げ)に問われた」ケースを想定したものです。
もともとは「運転者が『事故には全く気づかなかった』として、救護・報告義務違反(故意犯)を否定し、過失運転致傷罪のみの処罰にとどめ、免許取消(35点)を回避する」という弁護方針を解説してきました。ここに加えて、「出頭はするが完全黙秘を貫き、捜査機関に供述証拠を一切与えない」という戦略の妥当性を検証して欲しいというリクエストがありましたので、その点についても踏まえて、1万字以上の分量をめざして詳細に解説します。
なお、以下の解説は日本法を前提とする一般的・抽象的な説明であり、実際の事案においては事実関係や証拠状況・地域の捜査慣行などにより結論が異なり得ます。個別ケースについては必ず専門家(弁護士)の助言を仰いでください。
第1章 事案の概要と前提
1-1. 典型事例の要約
- Aさん(自動車運転者)は、交差点で左折する際に左側を並走していた自転車Bさんに気づかず進行。
- 自動車の左後部と自転車の前部が接触し、自転車Bさんは転倒。Bさんには加療2週間程度の怪我。
- Aさんは接触の事実に気づかないまま(または「何かに当たったかもしれないが、人ではない」と思って)そのまま走り去ってしまった。
- 後日、防犯カメラ映像や目撃者の通報などからAさんの車が特定され、警察から「過失運転致傷罪および救護・報告義務違反」の疑いで呼び出しを受けている。
1-2. 問題となる罪名・処分
(1) 過失運転致傷罪
- 交通事故で人を怪我させた場合、運転者に過失があれば「過失運転致傷罪」(自動車運転死傷処罰法5条)が成立。
- 刑事処分としては「7年以下の懲役もしくは禁錮、または100万円以下の罰金」。
- 現実には初犯・軽傷であれば「罰金」で処理されることが多い。
(2) 救護・報告義務違反(いわゆるひき逃げ)
- 道路交通法72条1項前段で定められる義務(事故の際、運転者は直ちに停止し、負傷者の救護措置・警察への通報をしなければならない)。
- 故意犯であり、「事故を起こしたと認識しながら救護などをせず逃げた」場合に成立する。
- 刑事処分としては1年以下の懲役または10万円以下の罰金(道路交通法117条の5第1号等)に問われる。
- 行政処分上の違反点数が35点となり、免許が一発取消(欠格期間2年)になる重大処分。
1-3. 本来の「気づかなかった」弁護方針との関係
通常、この種の事故では「Aさんが本当に事故(人を怪我させた可能性)を認識していなかった」と主張し、救護・報告義務違反(故意犯)を否定することが中心となる。
- 「故意がなければ不成立」という構成要件を突く。
- 事故を起こした自覚があれば救護・報告をしなかったのは悪質とされ、免許取消+重い刑事処分となる。
- 他方、「過失運転致傷」は争いにくい(交差点で左折する際の注意不足が明白なため)のでこれを認め、過失運転致傷のみで済ませることでダメージを最小化する。
1-4. 今回の追加論点:完全黙秘の是非
ここに新たな要素として、
「呼び出しを受けたら出頭はするが、警察・検察の取り調べに対しては一切黙秘する。捜査機関に供述証拠を与えない。」
という方針を採るのはどうか。その妥当性・メリット・デメリットを検証する必要がある。
第2章 完全黙秘権行使の基本原則
2-1. 憲法および刑事訴訟法における黙秘権
- 黙秘権とは
- 日本国憲法38条1項は「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」と定める。
- 刑事訴訟法198条2項も、被疑者には黙秘権がある旨を告知すべきと規定している。
- つまり、捜査機関からの取調べに対して、被疑者は自分を守るために黙秘できる権利がある。供述を強制されない。
- 行使の結果
- 黙秘権を行使しても、そのこと自体を不利に評価する(不利益推定する)ことは許されないとされる(判例上および憲法上の原則)。
- しかし、実務的には「何も話さない」ことで、捜査機関や裁判官にマイナスの心証を与えるリスクがないわけではない。
- 完全黙秘と部分黙秘
- 完全黙秘:どのような質問にも一切答えない態度。
- 部分黙秘:特定の事項だけ回答を拒否し、それ以外は説明する。
- 通常、弁護士の助言に基づき、必要最小限の供述はするが、リスクの高い点については黙秘するという方針が多い。
2-2. 完全黙秘が妥当とされる典型例
- 身に覚えのない冤罪であり、警察が誘導尋問や強制的手段で自白を取ろうとしている場合。
- 余罪の追及が想定され、迂闊に話すと別事件で不利になるリスクが大きい場合。
- 捜査機関が違法捜査を行っている疑いがあり、不当な自白を強いられる恐れがある場合。
一方で、過失運転致傷のような交通事故事案では、現場の状況や当時の運転態度をある程度説明しないと「まったく反省していない」と捉えられる可能性がある。とりわけ「事故に気づかなかった」と主張するには、具体的な説明がなければ成立しないという面がある。
第3章 黙秘方針のメリットとデメリット
3-1. メリット
- 捜査機関に不利な証言を与えずに済む
- 例えば「実は衝撃音を聞いてバックミラーを見た」とか「転倒している人影が見えた気がした」といった不用意な自白をしてしまえば、救護義務違反の故意の証拠になり得る。
- 完全黙秘ならば、そういった「不利な供述調書」が作られる恐れはない。
- 矛盾・変遷を突かれない
- 途中で供述が変わってしまうと「信用できない被疑者だ」と裁判所に評価される。黙秘なら最初から何も語らないため、供述変遷のリスクはない。
- 捜査機関の立証責任が重くなる
- 刑事裁判では検察官が「被告人に故意があった」ことを立証しなければならない。
- 被告人が何も話さなければ、検察側は目撃証言や物的証拠だけで「故意」を証明する必要がある。これを困難にさせる可能性がある。
3-2. デメリット
- 事故状況や「気づかなかった」事情を積極的に説明できない
- 「左後方で小さな接触だった」「道路がうるさく衝撃音に気づかなかった」「後方視界が悪かった」など、故意を否定する事実は被疑者本人が一番詳しい。
- しかし黙秘を貫くと、そういった弁解材料を捜査段階で示せず、検察・裁判所も「隠れている事実があるのでは?」と疑念を抱く恐れがある。
- 反省・謝罪の意が伝わらない
- 過失運転致傷を認める場合は、通常「申し訳ない」「被害者に謝罪したい」という供述が量刑上有利に働く。
- 黙秘していると「まったく反省していない」とみなされるリスクがあり、処分が重くなる可能性がある。
- 身柄拘束が長引く・厳格化する可能性
- 黙秘中は捜査機関が真相解明のため拘留を継続しようとする動機が強まる。
- 実務上は「態度が悪い」と見られ、逮捕・勾留のリスクが高まるともいわれる(本来は黙秘権を理由とする不利益取り扱いは禁じられるが、現実には影響は否定できない)。
- 行政処分の段階でも不利に
- 警察の記録では「事故を起こして逃走し、取り調べにも応じず黙秘を続けた」と記載されるかもしれない。
- 免許センターの聴聞手続などで不誠実と評価され、取消の回避がますます難しくなる恐れがある。
第4章 「故意を否定する」ための立証との関連
4-1. 救護義務違反の否定に必要な論点
前述のとおり、救護義務違反は事故(人身事故)を起こした認識を前提とする。
- Aさんが「人に衝突したかもしれない」と認識していた→停止・救護しなければならない→故意の不作為となる
- Aさんが全く気づいていなかった→そもそも義務違反にならない(道路交通法72条1項前段は故意犯)
裁判所や検察を納得させるには、「それほど軽微な接触であった」「車内で気づけるだけの衝撃や音がなかった」「周囲が騒音でかき消されていた」「ミラーや視界で確認できなかった」など、具体的事実の説明が必要になる。
4-2. 黙秘していると「気づかなかった」ことを証明できない
- 完全黙秘を貫いた場合、捜査機関や裁判所は「被疑者が事故を認識していたのかいないのか、証言が一切ない」となる。
- 一方、検察官は「普通に考えれば衝撃があったはず」とか「被害者が大声を上げたかもしれない」「現場にブレーキ痕や回避操作の形跡がないのは不自然」と主張してくる。
- 被疑者本人が一切反論しないままでは、「やはり知りながら逃げたのでは」と推認されるリスクが高い。
4-3. 供述証拠がなくても、ほかの客観証拠で対抗できるか
- 仮にドライブレコーダーや防犯カメラの映像で「車両がごく僅かに接触しているだけで、大きな衝撃がなさそう」などが確認できれば、黙秘していても故意を否定できるかもしれない。
- しかし、現実には多くの場合、映像だけでは「運転者が気づいたか否か」の内心は断定できない。
- むしろ被疑者本人が「当時こう感じた」「こういう理由で気づかなかった」と説明しないと有利な評価を得にくい。
第5章 行政処分(35点)を回避する観点
5-1. 救護義務違反成立で35点→取消
- 道路交通法の運用において、救護義務違反が付されると35点が加算されて免許取り消し(欠格期間2年)がほぼ確定する。
- これを避けるには「そもそも救護義務違反が成立しない」と警察に判断させる、または検察・裁判所で不問とするしかない。
- つまり「故意がなかった→義務違反を構成しない」ことを明確に主張・立証する必要がある。
5-2. 聴聞手続での主張
- 免許取消が見込まれる場合、運転者には聴聞手続の機会が与えられる。
- ここで「事故を認識しなかった」「軽微な衝撃で気づきようがなかった」という主張を行い、救護義務違反と認定しないよう求める必要がある。
- 完全黙秘だと、聴聞手続でも具体的説明を一切しないことになるが、それでは警察庁・免許センターは「反論なし」として救護義務違反を認定しやすくなる。
5-3. 黙秘戦略との相性
- 交通違反の行政処分では「黙秘権」という制度的保証が刑事手続ほど厳格ではない。
- 仮に刑事手続で黙秘して無罪を得ても、行政処分は独自に行われ得る。
- したがって、行政面でも「気づかなかった」という具体的な説明が必要になるが、黙秘方針ではそれが困難になる。
第6章 黙秘戦略の具体的影響をシミュレーション
以下、仮にAさんが「出頭するが完全黙秘」と決めた場合にどうなるか、捜査と裁判の流れを想定してみる。
6-1. 警察取り調べ段階
- Aさんは呼び出しを受けて警察署に出頭
- 「名前と住所、生年月日は言うが、事故の内容については一切黙秘します」と宣言。
- 警察官は当然、様々な質問をするがAさんは答えず、供述調書は作成できないか「拒否」と記載される。
- 警察側のリアクション
- Aさんが一切応じないため、目撃証言や防犯カメラ映像、車両の損傷状況など客観証拠を収集する。
- 自転車Bさんの証言が「はっきり衝突音がした。転倒したら車は一瞬減速したかに見えたが、そのまま逃げた」というようなものであれば、「Aさんは気づいていた」と強く推定される可能性がある。
- Aさんが黙秘することで「被疑者の反省態度がない」と評価され、逮捕・勾留されることも考えられる(必ずではないが、身柄拘束リスクが増す)。
- 送検と検察官の判断
- 警察は黙秘が続いても、「救護義務違反(故意あり)」を疑う形で検察に送検する。
- 検察官もAさんを呼び出し、取調べを行うがAさんは黙秘を貫く。
- 結果として「被疑者の主張が不明だから、客観証拠で事足りる」として公判請求や略式起訴を検討する。
6-2. 検察段階での可能性
- もし検察官が「故意立証が微妙」と感じれば、不起訴または起訴猶予になるかも?
- これはあくまで「客観証拠が乏しい場合」のみ起こりうる。
- 仮に自転車Bさんが「激しい衝突音があった」と証言し、防犯カメラでも車が大きく揺れている様子が映れば、検察官は「気づいたに違いない」と判断して起訴に踏み切る可能性が高い。
- 黙秘が逆に「逃げている印象」を与えて厳しく扱われるリスク
- 法的には黙秘を理由に不利益扱いはできないが、実務上、検察官・裁判官が「被疑者には有利な説明がないし、反省もない」と感じる恐れがある。
- 結局、公判請求される可能性が高まり、さらに救護義務違反を含む内容で正式裁判になりやすい。
6-3. 公判の展開
- 被告人質問を拒否?
- 公判でも黙秘を貫くなら、裁判官に対して「気づかなかった」という弁解が一切示されない。
- 弁護士が「被告人は当時気づかなかったはずです」と主張しても、被告人自身がまったく証言しない以上、説得力が乏しい。
- 結果として有罪認定が濃厚
- 救護義務違反は故意犯だが、検察官が客観証拠を積み上げれば裁判所は「当然気づいたはず」と推認するおそれが大きい。
- 黙秘だとその推認を覆す対抗証拠を出せず、「過失運転致傷+救護義務違反」の両方で有罪判決が出るリスクが高まる。
- 量刑・処分も重く
- 飲酒運転や無免許運転などの悪質要素があるわけではないが、「救護義務違反あり」とされれば罰金や執行猶予付き判決など刑事処分が重くなり、かつ免許取消(35点)も確実。
- 被告人が開き直り、何も語らない態度と判断されれば、情状面で不利に働く。
第7章 黙秘戦略が有効になる稀なケース
黙秘戦略が役立つ可能性があるのは、**「客観証拠を踏まえても故意を認定できないほど接触が軽微だった」「目撃者もいない」**など、検察側の証拠が決定的でないときに限られる。
- 例えば防犯カメラもなく、自転車Bさんが「軽く接触した気がするが、音は小さかった。車が行ってしまったので、気づかなかった可能性もある」と曖昧に証言している。
- 車両にも傷がなく、捜査機関が「本当に気づけるレベルの衝撃だったか?」と断定できない。
- このように捜査側の立証が薄弱な場合は、被疑者が下手に話して突っ込まれるより「何も言わないで立証不十分を狙う」という手段はあり得る。
ただし、実務でそこまで「捜査側が何も掴めていない」ケースは少なく、防犯カメラ、ドライブレコーダー、目撃者などがあることが多い。しかも「加療2週間程度の怪我」がある以上、一定の衝撃が想定されるため「全く気づかないのは不自然」と判断されがちである。
第8章 弁護士の実務的提案:黙秘と供述のバランス
8-1. 完全黙秘より、部分的・選択的供述が実効的
交通事故事件では、下記のような選択的黙秘を採る場合が多い。
- 事故の基本的事実(日時・場所・自車の関与)は認める
- 「事故を起こした現場にいた車両の運転者である」といった、争いにならない基本事項は認める。
- 「気づいていなかった」という弁解部分は詳細に説明
- どうして気づかなかったのか、具体的に事情を述べる。
- ここを黙秘すると故意否定ができない。
- 余計な情報(余罪の可能性、他の違反歴など)は黙秘
- もし他にも盗撮行為など何か別の余罪を抱えている場合は、その点は黙秘する等、事件関連以外の部分だけ黙秘する戦術はある。
8-2. 弁護士が供述内容を十分に調整
- 依頼者が「つい本当のことを全部喋ってしまいそう」「不利な認め方をしそう」な場合、弁護士が事前に打ち合わせを綿密に行い、どの範囲まで話すかを決める。
- 「実は一瞬バックミラーで人が倒れるのを見た気がした」など、故意を裏付ける情報は迂闊に言わない。
- ただし虚偽供述を指示するのは弁護士倫理に反するため、事実を正確に把握した上で、表現方法や説明の仕方を慎重に検討する。
第9章 結論:本事案における「完全黙秘」の妥当性
ここまでの検討を踏まえると、本事案(交差点で自転車を転倒させて走り去った疑い)で完全黙秘を貫くという戦略は、
- 大きなメリットは得にくい
- 救護義務違反の故意を否定するためには「本当に気づかなかった」と主張・立証する必要がある。
- 黙秘しては何も説明せず、立証不十分に持ち込むのはかなり難しい。
- デメリットが大きい
- 反省や謝罪の意思を示せず、捜査機関・裁判所・行政から「悪質」「反省なし」と見られかねない。
- 結果的に公判請求されて、救護義務違反まで有罪と判断される確率が高まる。
- 行政処分では警察が「悪質ひき逃げ」として35点加算を強く主張。免許取消が不可避となる恐れ。
よって実務的には、**「過失運転致傷は認めるが、救護義務違反については故意がなかった旨を具体的に供述し、説得的な説明を行う」**方が最善策とされることが多い。
- ただし、被疑者が本当は「気づいていた」事実を抱えている場合は嘘がつけない。もし警察に突っ込まれるリスクが高ければ、下手に供述するより黙秘の方がマシなケースもある。
- それでも完全黙秘ではなく「ノーコメントとする部分を限定」する形で、故意否定に必要な最小限の説明は行うことが、弁護士としては望ましいと考えられる。
第10章 その他の弁護活動とまとめ
10-1. 被害者との示談交渉
- もし被害者(自転車側)が転倒しケガを負っているなら、示談を成立させることが過失運転致傷での処分軽減に有効。
- 救護義務違反の故意については示談が直接影響しないが、「加害者が誠意をもって謝罪・補償した」という事実は裁判所・検察の心証を多少なりとも良くする。
- 黙秘を貫くと示談の場でも「何も言わない」わけにはいかず、被害者側から「あなたは何も言えないのか」と不信感を抱かれる可能性があるので注意。
10-2. 再発防止策の提示
- 裁判や捜査官に「被疑者が真摯に交通安全を意識し、再発防止のために何をしているか」を示すのは量刑や処分にプラス要素。
- 例えばドライブレコーダー設置、サイドミラー・後方確認を徹底する、ステッカーを貼るなど具体的対策をアピール。
- 黙秘方針だと、そういった前向き態度を示せなくなるジレンマがある。
10-3. 運転免許の維持・復帰
- 行政処分で取消を回避するためには、警察段階で救護義務違反を外してもらうのがいちばん効果的。
- そのためには取り調べで「気づいていなかった」旨を主張・説明し、警察報告書に「救護義務違反なし(または故意は不明)」と書いてもらう必要がある。
- 黙秘を貫くと警察は「悪質な逃走」と扱い、加点35点の報告を上げる公算が高い。
10-4. 最終的な処分シナリオ
- 理想: 救護義務違反は嫌疑不十分か不起訴 → 過失運転致傷のみで在宅処分(罰金または不起訴)。
- 行政処分でも「人身事故(軽傷)」分の点数(数点〜)だけになり、免停程度で済む。
- 現実: 救護義務違反も含め公判請求 → 有罪 → 免許取消35点。
- 黙秘方針をとると、後者に転じるリスクが格段に上がる。
10-5. まとめ
- 交通事故における「救護義務違反」を否定するためには、被疑者の供述(弁解)が最も重要な証拠になりがち。
- 完全黙秘戦略は、よほど検察側の証拠が乏しい場合か、あるいは別の重大事由(余罪の隠蔽など)がある場合を除き、得策とは言い難い。
- むしろ、弁護士と綿密に打ち合わせをしながら「事故には気づかなかった」という事実を具体的かつ一貫して述べる方が、救護義務違反の故意を否定する現実的なルートといえる。
第11章 1万字規模での詳細補足
ここではさらに論点を深掘りし、合計1万字以上のボリュームをめざす形で補足解説を行う。
11-1. 救護義務違反の法的構造
救護義務違反(道路交通法72条1項前段違反)は、しばしば「ひき逃げ」と呼ばれ、社会的制裁の程度が大きい犯罪である。
- 車両を運転する者は、人身事故を起こした際には直ちに停止し、負傷者救護を行い、警察へ通報する義務を負う。
- これを怠る場合、「被害者を見殺しにする」「事故処理を放棄して逃げる」という非常に悪質な行為とみなされる。
- ゆえに刑事罰だけでなく、行政処分の点数が非常に高く設定されている。
しかし、法文上や判例上、故意がなければ成立しない点が重要だ。
- 「人を怪我させたかもしれない」という認識がないまま走り去ったなら、違反は構成しない。
- 一般には「そんな軽い衝撃で気づかないはずがない」と推定されやすいが、実際に気づかないケースもあり得る。
11-2. 過失運転致傷との関係性
- 過失運転致傷は「人を怪我させた」ことに対する過失責任。
- 救護義務違反は「事故後に取るべき行動を取らずに逃げた」ことに対する故意責任。
- 事故前・事故中の過失と、事故後の対応における故意という、まったく異なる要素が問われる。
- 同じ事故でも両罪が併発することで、刑事処分が重くなる。
11-3. 黙秘権の思想的意義と実務の乖離
黙秘権は無辜の者を自白強要から守るための基本的権利であり、尊重されるべきである。
一方、日本の捜査実務では「容疑を否定する→取り調べが厳しく長期化する」「反省を示さない→厳罰化」といった流れが存在し、実務運用上の乖離が指摘されてきた。
- 交通事故の場合でも、「黙秘している=逃げている」と捉えられ、心証が悪くなるというのが現実。
- このギャップは理論と実務の問題であり、黙秘権行使が不利益評価されるのは本来違法だが、実際にそういう影響が生じる恐れを無視できない。
11-4. 被疑者・被告人の精神的負担
- 交通事故の場合、加害者としての罪悪感を抱える被疑者が多い。
- 「黙秘を貫く」ことは心理的に大きなストレスであり、警察の取り調べで無言を貫くのは相当に困難。
- 証言しないことで余計に憶測を呼び、「本当は気づいていたのでは」と周囲から疑われ、職場や家族にも説明しづらい。
11-5. 「気づかなかった」供述の具体例
救護義務違反を否定するためには、こんな供述をするのが典型的パターン:
- 「自転車が死角に入り、ミラーにも見えなかった」
- 「交差点周囲が騒がしく、衝撃音が小さかったので気づかなかった」
- 「車の後輪付近での軽微な接触で、自分の体感としては段差を乗り越えたか何かに擦った程度の違和感しかなかった」
- 「まさか人が転倒しているとは思わず、そのまま進行してしまった」
これらを証言することで初めて、**「事故の存在を認識し得なかった理由」**が理解される余地が出てくる。
11-6. 黙秘に代わる「書面提出」戦略
一部の弁護士のやり方として、取り調べに対しては黙秘に近い態度を取りながら、「弁護士名で意見書・書面」を捜査機関や裁判所に提出するという手段がある。
- 被疑者本人が口頭で供述すると、微妙な質問に引っかかったり、誘導尋問で不利な答えを引き出されかねない。
- 書面だと、弁護士と十分に推敲してから提出できるため、リスクを管理しやすい。
- ただ、これを全面的に認めてくれる捜査官ばかりではなく、取り調べで話さないと心証が悪いという実務的問題は残る。
11-7. 「完全黙秘」か「一部黙秘」かの弁護士判断
弁護士は、事件の客観証拠や依頼者の供述内容を総合的に判断して、「どの程度まで話すか」をアドバイスする。
- 完全黙秘:リスクが非常に高いため、基本的には推奨されない。
- 一部黙秘:有利な点や言うべき弁解をしつつ、不用意な自白を避ける。
- 全面的供述:事実をすべて認め、反省を示すが、故意を否定する核心部分は慎重に表現。
11-8. 実務的に想定される処分例
- (A) 救護義務違反が否定される場合
- 過失運転致傷のみ:罰金10〜30万円程度(示談有無・過去歴等による)。行政処分では人身事故の点数(4〜6点)などで免停数十日。
- (B) 救護義務違反が成立する場合
- 過失運転致傷+救護義務違反:合算で罰金数十万円以上、または執行猶予付き判決。行政処分は35点で免許取消(欠格2年)。
- 社会的に「ひき逃げ」と報道や記録に残り、失職や社会的信用喪失の恐れも。
11-9. 家族・雇用主への説明
- 交通事故で「人を怪我させたあげく逃げた」とみなされると、周囲の印象は非常に悪い。
- 黙秘をすることで誤解を受け、家族や会社も詳細を知らないまま「逃げたんだね?」と理解し、さらに立場が悪くなることが多い。
- 弁護士が調整役となり、適切な範囲で事情を説明して信用を確保する必要がある。
11-10. 最終的なアドバイス集約
- 黙秘権は重要な権利だが、交通事故(救護義務違反)事案では完全黙秘はデメリットが大きい
- 「気づかなかった」と主張するなら、その理由を具体的・詳細に供述しなければ成功の見込みが薄い
- 一部黙秘(危険な質問だけ答えを控える)は戦術としてあり得るが、弁護士の指導が欠かせない
- 免許取消回避のためには、捜査段階から「故意なし」を警察に認めさせることが極めて重要
- 被害者との示談や再発防止策の提示も、最終的な処分を軽くするために有効
第12章 総括:完全黙秘方針の妥当性と最終評価
以上を総合すると、本事案で「出頭するけど完全黙秘」の方針は、一般的には妥当性に欠けるといわざるを得ません。理由は以下のとおりです。
- 救護義務違反の最大争点である「故意の有無」を、被疑者自身の言葉で説明しないと立証が極めて困難
- 黙秘すれば、検察・裁判所は「当時の認識について被疑者から何の説明もない」状態で判断する。
- むしろ「気づいていたのでは」と認定される危険が増す。
- 反省の欠如と見なされ、処分が重くなりやすい
- 交通事故では、過失が軽微でも「被害者を怪我させてしまった」事実は動かない。
- 少なくとも被害者への謝罪、過失を認める姿勢を示すことが、量刑や処分上、重要な情状。
- 完全黙秘によってその機会を放棄すれば、捜査官や裁判官の心証が悪くなる。
- 行政処分(免許取消)を回避する見込みがほぼゼロになる
- 道路交通法の運用上、警察は黙秘を「不誠実・ひき逃げの意思が強い」と評価する可能性が高い。
- 結果、35点加算されて取消となるのはほぼ避けられない。
- 例外的に黙秘が有効なケースはごく限定的
- たとえば捜査当局が証拠をほとんど持っておらず、被疑者の自白に頼りたい場合。
- しかしながら交通事故で被害者がいる場合、目撃証言や現場証拠がある程度揃うのが普通なので、黙秘で突破できる可能性は極めて低い。
したがって、合理的な弁護方針としては、むしろ「気づかなかった」旨をきちんと主張し、状況を具体的に説明しながら、救護義務違反の故意を否定するのが基本路線となります。
- その際、供述内容をよく整理し、矛盾や不要な自白を避けるために、弁護士との打ち合わせが欠かせません。
- 黙秘をしても有利にならないどころか、むしろ「故意あり」と認定されて免許取消・厳罰となるリスクが高まるため、本件においては完全黙秘は推奨されないのが結論です。
参考文献・参考判例
- 日本国憲法 第38条
- 刑事訴訟法 第198条2項
- 道路交通法 第72条1項前段(救護義務)、第117条の5(罰則)
- 自動車運転死傷行為処罰法 第5条(過失運転致傷)
- 実務書籍:『交通事故事件の実務(改訂版)』日本弁護士連合会 編
- 警察庁通達:道路交通法に関する運用基準
(上記はあくまで例示)
付言:実際の対応
実務では、出頭前に弁護士に相談し、
- 「事故には気づいていなかった」
- 「なぜ気づけなかったのか」(車内環境、後方確認の限界、周囲騒音等)
- 「被害者に申し訳ないと思い、賠償・示談を進めたい」
などを踏まえた供述の全体像を作り込みます。その上で、取り調べでどこまで話すかを決め、あらかじめ想定される質問への回答を準備します。
もし完全黙秘を希望する場合でも、「どうしても必要と判断される質問には短く答える」という形で、部分黙秘など柔軟な方針を考慮します。
最終まとめ(本稿の結論)
- 結論: 本件(自転車との接触事故後の走り去り疑惑)で完全黙秘をする弁護方針は、一般的には得策ではなく、救護義務違反を否定して免許取消を回避する上で不利となる。
- 理由: 救護義務違反(ひき逃げ)を否定するには「事故の認識がなかった」との事実を主張・立証する必要があり、被疑者本人の供述が重要な役割を果たすため。完全黙秘では弁解の機会を失い、立証不十分の可能性は低く、かえって悪質な逃走とみなされるリスクが高い。
- 推奨方針: 被疑者が口を閉ざすのではなく、必要最小限の供述(「気づかなかった」旨の具体的事情)をきちんと行い、過失運転致傷は認めつつ、救護義務違反の故意を否定して処分の軽減を図る。被害者への謝罪・示談、再発防止策の提示など、誠実な態度を示すことも重要。
以上が、本件での完全黙秘戦略の妥当性に関する検証と、過失運転致傷のみの処罰にとどめて免許取り消し(35点)を免れるための実務的弁護方針を、1万字規模で検討した結論となります。