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薬院法律事務所

刑事弁護

文献紹介 松本俊彦「専門医でなくてもできる薬物依存症治療-アディクションの対義語としてのコネクション-」精神科治療学(32巻11号,2017年11月号)


2024年01月13日刑事弁護

精神科治療学(32巻11号)が刑事弁護人にとって非常に良い内容でしたので、ご紹介します。

 

http://www.seiwa-pb.co.jp/search/bo01/bo0102/bn/32/11index.html

《今月の特集:薬物依存症に対する最近のアプローチ》
薬物依存症の最近の治療法をわかりやすく解説した決定版!薬物依存症は、治療継続とリハビリテーション、社会復帰支援、家族支援が何よりも大切である。本特集では、最近の臨床実践やさまざまな治療的取り組みを第一線の執筆者が紹介する。専門医療施設が圧倒的に不足している中で、一般精神科医も薬物依存症を診る機会が増えるが、本特集はこれから薬物依存症治療に取り組む精神科医療関係者にも最近の情報をわかりやすく解説。本特集で学べば、明日からの薬物依存症の臨床が格段に良くなる特集。

 

依存症は「孤立の病」とのことで、精神科医に最低限心がけて欲しい9つの要素というのが解説されています。盗撮事件などの性依存症の弁護活動にも参考になる記事でした。「犯罪者だ~」と排除することや、「矯正してやる」とすることが、却って本人の依存を深めることになるのでは、と思っています。

1.受診をねぎらう
2.安全を保証する
3.否認や抵抗と戦わない
4.依存症であるか否かの診断にこだわらない
5.共感しながら懸念を示す
6.「強くなるより賢くなる」ことを提案する
7.通院継続を積極的に提案する
8.性急な変化を求めない
9.大事なことは断薬よりも治療関係の継続

「抄録:薬物依存症は「否認の病」と呼ばれ,かつては,その治療にあたっては, まずは患者の否認を打破し,依存症であるとの病識を獲得させるところから始まるといわれていた。
しかし近年では,否認打破を目的とする直面化や対決的な治療態度による介入は,共感的,支持的な姿勢で臨む介入に比べて,治療中断率が高く,最終的な治療成績が悪いことが指摘されるようになった。(略)」

「必要とされる問題意識は, 「アルコール・薬物はその患者に何を与えてくれていたのか」というものである。
何らかの行動をとることによって快感を得るという体験をし,その快感を求めて同じ行動を繰り返すようになる-これは,行動分析学や実験心理学でいうところの「正の強化」である。しかし,人間の特徴は「飽きっぽさ」にあり,いかなる快感や刺激にもすぐに馴化し,通常であれば学習効果は消去されてしまうはずである。それにもかかわらず,なぜ一部の者だけがその物質摂取を飽くことなく繰り返すのか。おそらくそれは,その行動によって快感が得られるからではなく,苦痛-それまで続いてきた悩みや痛み,苦しみ-が一時的に緩和される(=「負の強化」)からではなかろうか。そうであれば,飽きるどころか,生き延びるために物質は手放せないものとなろう。
筆者は, まさにこの「負の強化」こそが依存症の本質であると考えている。実は, どのような重篤な依存症患者でも簡単にアルコールや薬物をやめている-もっとも,数日ないしは数時間単位の話だが。むずかしいのは, 「やめること」ではなく, 「やめ続けること」である。それがかくもむずかしい理由は,アルコールや薬物が,一時的には,患者にとっていわば「こころの松葉杖」として機能していたからである。したがって,やめ続けるには, アルコールや薬物の代わりとなる,安全で健康的な別の松葉杖が必要なのである。そしておそらくどの薬物依存症患者にも当てはまる,安全で健康的な松葉杖とは,人とのつながりなのではなかろうか。」

 

松本 俊彦(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部 部長)

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/contributors/k-matsumoto-toshihiko