高齢の株主が、同族企業の株を第三者に売却したという相談(企業法務)
2024年09月10日企業法務
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は会社を経営しています。会社の株は私以外に叔父が20%を持っているのですが、先日、知らない人から「叔父から株式を買い取った」と言われて、株式譲渡の承認請求をされました。弁護士に相談したところ、断ったら高額で買い取りを請求してくるだろうということでした。しかし、叔父は認知症で介護施設に入院しており、譲渡するといった判断ができるとは思えません。どうすれば良いでしょうか。
A、意思能力がない状態での譲渡は無効ですので、会社としては譲渡の効力を争うことができます。もっとも、会社の立場から意思能力がなかったことを立証することは困難です。介護認定調査票、介護施設の記録や、ケアプランの作成資料、株式譲渡の対価の有無などから判断する必要がありますが、これらは会社の立場では入手することが困難です。弁護士会照会で入手できる可能性もありますが、基本的には成年後見人の選任申立をすべきだと思います。
【解説】
時折あるタイプの相談です。閉鎖会社で、親族同士で株を持ち合っていたところ、知らないうちに高齢の株主が第三者に株式を譲渡したというものです。この場合、株式譲渡の効力を否認できれば良いのですが、「判断能力」が低下していたことの立証は一般に困難です。弁護士会照会で資料が入手できない場合は、成年後見人を選任して調査してもらう必要があります。実務的には、叔父の子どもなどに申立をしてもらうことになるでしょう。設問の事例では弁護士が後見人として選任されると考えられます。なお、あくまで後見人は「本人」のために動きますので、株式譲渡をすることが資産管理として適切と判断したり、あるいは譲渡当時に十分な判断能力があり無効ではないと判断した場合などは、譲渡無効とならない可能性もあります。
※民法
第三条の二 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089#Mp-Pa_1-Ch_5-Se_2
【参考文献】
愛知県弁護士会編『事件類型別弁護士会照会 第2版』(日本評論社,2020年4月)173-174頁
【5 被相続人の意思能力
被相続人の生前に、被相続人の財産を相続人の 1人に相続させる旨の公正証書遺言が作成されていた場合、被相続人名義の銀行口座から推定相続人の 1人に対して資金移動があった場合等、被相続人の生前の特定の日における被相続人の意思能力の立証が問題となる場合があります。
被相続人が要介護認定を受けていた場合、問題となる日の直近になされた介護認定審査の結果について照会することで、被相続人の意思能力の立証に必要な事項の報告を求めることができます(介護認定には有効期間があり、新規認定の場合は原則として 6か月〔最大12か月〕、更新認定の場合は原則として12か月〔最大24か月〕です)。介護認定調査では、認知機能、精神・行動障害、金銭の管理や日常の意思決定といった、社会生活への適応等についても、調査が行われます。問題となる日の直近になされた介護認定の調査内容や審査・判定の資料等について報告を求めることは、被相続人の意思能力の立証について、極めて重要な証拠となりえます。要介護認定は市町村が行いますので、照会先は、被相続人が住民登録を行っていた自治体の担当課となります(担当課の名称等は自治体によって異なりますので、事前に照会先にご確認ください)】