須藤典明・深見敏正・金子直史著『民事保全 四訂版 リーガル・プログレッシブ』
2019年08月07日企業法務
はしがきが興味深いです。
http://www.seirin.co.jp/book/01769.html
【また,今回の改定では,上記のほか,随所で民事保全事件の審理の在り方についても意識的に注意を喚起した。民事保全については,債権者による将来の執行保全や債権者に生じる回復し難い損害を避けるため,迅速かつ適切な保全措置をとる一方で,不当な保全処分によって債務者とされた者に不必要な不利益が生じないように,両者の調和を図ることが重要である。しかし,民事保全事件を担当する裁判官の知識や経験には大きな幅があり,被保全権利や必要性の考え方や疎明の程度などについて違いが生じやすい。裁判官は,もともと厳格な法解釈が身に付いているため,一般的に,被保全権利や必要性の判断が厳格になりがちである。しかし,債権者は,必ずしも債務者側の事情を熟知しているわけではないから,例えば債権の仮差押えの際に保全の必要性を厳格に考え,常に債務者に不動産がないことの疎明を求めたりすることは,債権者に酷で,裁判所がずる賢い債務者の味方をする結果になってしまうことも少なくない。
いずれにしても,個別事件ごとに事情はさまざまであるのに,特定の前提を置いた形式的な論理性にこだわり,保全の必要性などを厳格に要求するのは,民事保全の迅速性・暫定性にかんがみて適切ではなく,その補完として,発令後の債務者からの保全異議や保全取消の申立てによって改めて厳格な審査を行うシステムが用意されていることも十分に意識されるべきであろう。】