民事訴訟において、伝聞証拠にはどの程度の証明力があるのか(一般民事)
2020年02月09日一般民事
伊藤眞・加藤新太郎編『[判例から学ぶ]民事事実認定』(有斐閣,2006年12月)84頁
松下淳一 15伝聞証拠と自由心証主義
【証拠力の評価は,受訴裁判所の裁判官が事案に応じて選択した経験則によるとするのが自由心証主義であり,伝聞証拠の証拠力についても一律の法則はない。しかし,一般的な法則はある程度抽出できよう。
(i) 伝聞証拠一般に証拠力が低い, との指摘がされている(高橋・前掲44頁)。反対尋問による検証を経ていないことを考慮するからであろう。
(ii) もっとも伝聞証言については,証人が期日外での供述を聴取した当時の周囲の状況やこれに符合する他の証拠等とあいまって十分な証拠価値を認めることができる場合がある(近藤完爾「証拠の証明力」民事訴訟法学会編『民事訴訟法講座(2)」(1954) 603頁。②判決の指摘するところである)。
(ⅲ) また伝聞証拠を採用することを相手方当事者が認めている場合には,伝聞証言を求める質問に対して相手方当事者が制限の申立て(民訴規115条3項)をしている場合と比べると,証拠力を相対的に高く評価できる場合が多いであろう。
(ⅳ)伝聞証言については,証言一般と同様に,当事者と証人との関係が証言の証明力に影響しうる。本件について言えば,証人AがXの言うようにYの伯父であるならば,親戚関係等のない第三者の証言よりも証明力を低く評価すべき場合もある。
(v)②判決は,当事者は訴訟上有利な事実を陳述する地位にあるから,訴訟提起後の陳述を聴取した証人の証言は実|際上信用するに足りないものが多く,他の証拠がない場合には,事実審裁判所は細心の注意を用いなければこれを採用すべきではない, と述べる。この判示から,第1に,期日外での供述をしたのが当事者(あるいは当事者となるべき者)なのか第三者なのかが問題であり,前者の場合には一般に証拠力は低く評価されることになる。第2に,期日外での供述を証人が聴取したのが訴え提起あるいは紛争発生の前なのか後なのかが問題であり,後者の場合には,紛争解決に有利に働くための供述である可能性が相対的に高いから,一般に証拠力は低く評価されることになる。】
①大判明治40.4.29 (民録13輯458頁)
②大判大正13. 12・24 (民集3巻548頁)