犯罪をした後、警察官に監視されているような気がするという相談(万引き、盗撮、痴漢等、刑事弁護)
2024年09月20日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は、福岡市内に住む40代の主婦です。サラリーマンの夫と、子どもが2人います。自分でもどうしてなのかわからないのですが、ある時からスーパーマーケットで万引きをすることを繰り返していました。先日、店員さんから不審な目で見られた気がするので、それ以来行かなくなったのですが、最近、自宅の周りで警察官を良く見かけるような気がしています。もしかして監視されているのでしょうか。
A、住居侵入窃盗を繰り返しているような場合は「行動確認」と「ようげき捜査」がなされることはあります。もっとも、少額の万引き事件についてそういった捜査がなされたという事例は知りません。「注意バイアス」ではないかと思われます。とはいえ、不安が消えないのであれば自首についても検討すべきです。
【解説】
常習的な窃盗罪や薬物事犯などでは、「行動確認」といって、被疑者を警察官が監視し、被疑者が犯行に及んだところを現行犯逮捕する手法がとられることがあります。盗撮、痴漢事件でもあり得る手法で、特に違法な捜査とはされていません。手間がかかるので、常習事犯以外では取られていないと思われますが、これは確定的なものではないです。なお、逮捕の準備としての「行動確認」が行われることもあります。
注意バイアスが気分維持 に及ぼす効果
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsre1993/7/1/7_1_1/_pdf/-char/ja
【参考文献】
藤永幸治編集代表『シリーズ捜査実務全書2 財産犯罪(3訂版)』(東京法令出版,2008年6月)123頁
【2 事例② -(単独、否認)
(1) 事案の概要
本件は、被疑者が、被害者(女性)方にベランダ側窓ガラスを破って侵入した上、現金及び女性下着を窃取したものである。
警察官は、かねてから被疑者を別件侵入窃盗事件の容疑者として内偵し、本件当日、この別件侵入窃盗事件の関係で被疑者の行動確認をし、かつ、同人が新たな窃盗事犯に及ぶようなことがあれば現行犯逮捕するため、同人を尾行していたものである。そして、本件当時、警察官は、被害者方付近で一時被疑者を見失い、その約10 分後に被疑者が付近アパート1階の被害者方居室から出てきたのを発見し、しかもそれまでの尾行中には所持していなかった買い物用ビニール袋を携行しているのを現認したことから、被疑者が被害者方に侵入して財物を窃取したも
のとの嫌疑を抱いたが、侵入窃盗の現行犯人であるとの判断を確実にするため、直ちに被害者方の被害確認を試みたところ、そのすきに被疑者が逃走したものである。】
https://www.tokyo-horei.co.jp/shop/goods/index.php?358
城祐一郎『捜査・公判のための実務用語・略語・隠語辞典』(立花書房,2011年9月)
【行動確認(こうどうかくにん) (実務用語)
被疑者の所在や,その動向を確認しておくこと。被疑者を逮捕する前提として欠かせない捜査の一つ。】
https://library.bengo4.com/books/cbfad680b79008f6d00219dff74e08ef07725dffde53b3625bfbe08e70b7c6ff
捜査書類実務研究会編箸『特別法犯違反別 一件書類早見ノート〔改訂版〕』(警察時報社2016年2月)128頁
【森林法違反(法第202条第1項) 一山林の枯葉や枯枝を集めてライターで放火 現行犯逮捕
【事案のあらまし】管内でA所有の山林にボヤが散発的に発生していた。Aは町内に住むBの仕業ではないかと警察に相談があったことから、Bの行動確認を継続的に行っていたところ、ある日にの夕方、BがA所有の山林に入って行ったので尾行したところ、山林の枯葉や枯枝を集めてライターで点火したので現行犯人と認め逮捕した。火は約2メートルの高さに燃え上がり約2平方メートル燃焼していたのを消火した。(余罪は省略)】
http://www.k-jiho.com/templates/shows/office/ikken2.html
ニューウェーブ昇任試験対策委員会『合格面接の答え方〔2訂版〕』(東京法令出版,2017年3月)85頁
【女性・子どもを守る施策について
問 女性や子どもが被害者となる犯罪の現状を述べよ。
答 はい、女性・子どもが被害者となる強制わいせつ事案が増加傾向にあるとともに、ストーカー事案やDV事案、子どもに対する声かけ事案や児童虐待事案に関する相談件数が増加傾向にあり、中には凶悪事件に発展するものも少なくありません。
(略)
問 情報の収集や分析はどうやって行うのか。
はい、
〇教育委員会や学校等と緊密な連携を図ることで、声かけ、つきまとい等の事案が発生した段階で、これらを遅滞なく警察が把握するシステムの構築
〇必要に応じて捜査員等を発生現場等に派遣し、被害児童や保護者からの事情聴取、現場周辺における聞き込みや防犯カメラのチェック等、行為者特定のための詳細かつ網羅的な情報収集
を行います。
問 情報の分析結果からどうするのか。
はい、情報分析の結果に基づき、効率的かつ効果的なよう撃捜査や行動確認を実施し、行為者の特定に努めます。
問 行為者を特定したらどうするのか。
はい、特定した行為者に対し、所要の捜査を行った上で、法令違反がある場合は、確実に検挙措置を講じます。法令違反に該当する事案の把握が困難な場合であっても、さらなる事案発生の未然防止のため、声かけ、つきまとい等の言動をとらえて指導・警告を行い、防犯効果を上げます。】
https://homutosho.com/products/detail/149140
青木健剛(前東京地方検察庁検事)「犯人性が問題となる住居侵入・窃盗事件について、丁寧な行動確認及び的確な証拠化により被疑者の犯人性を立証できるとして起訴した事例」捜査研究2018年4月号64-71頁
64頁
【本稿で紹介する事例は,住居不定・無職で,侵入窃盗等の前科を有する被疑者について,同種犯行に及ぶことを見越した警察官が,数か月間に及ぶ行動確認を実施し,侵入窃盗に及んだところをビデオカメラによって撮影するなどした上,被疑者を逮捕して,起訴した事例である。
本件のように,常習的に侵入窃盗を敢行している被疑者について,警察官が行動確認をすることによって犯行を立証するという捜査手法は,汎用性があり,今後も同種の捜査手法が採られることも見込まれるため,参考事例として紹介する次第である。】