犯罪捜査規範の裁判上の位置づけ(ChatGPT4.5作成)
2025年03月09日刑事弁護
了解しました。犯罪捜査規範が裁判でどのように扱われるのかについて調査します。具体的には、裁判所が犯罪捜査規範をどの程度参照するのか、判例での言及例、法的拘束力の有無、証拠能力や捜査手続きの適法性への影響などを調べます。
調査が完了したらお知らせします。
犯罪捜査規範と裁判での取り扱い
犯罪捜査規範の概要と法的性質
「犯罪捜査規範」は、警察官が刑事捜査を行う際の心得や方法・手続を定めた内部規則です。昭和32年に国家公安委員会規則として制定されたもので、警察官が捜査活動で守るべき基本ルールを示しています (犯罪被害者等施策ホームページ – 警察庁 / 犯罪捜査規範(被害者対策関係部分))。たとえば法律に明文の規定がない事項について、犯罪捜査規範が細則を設けており、適正な捜査の基準となっています。実際、刑事訴訟法や他の法律で直接定めのない手錠使用の方法についても、犯罪捜査規範127条は「逮捕の際の手錠の使用は過度にならず、衆目に触れないよう努めること」と規定しています (被疑者留置規則(ひぎしゃりゅうちきそく)とは? 意味や使い方 – コトバンク)。このように犯罪捜査規範は警察内部の訓令・規則として、捜査の適正さや被疑者・被害者の人権配慮に関する具体的指針を提供しています。
もっとも、犯罪捜査規範は法律ではなく行政規則であり、その法的拘束力は限定的です。刑法や刑事訴訟法といった国会制定法に規定されたものではなく、あくまで警察組織内で遵守すべき基準という位置づけです (犯罪被害者の刑事告訴・被害届けと捜査機関の対応 – 新銀座法律事務所)。そのため、犯罪捜査規範に違反したからといって直ちに刑事手続上違法となったり、捜査が無効になるわけではありません(警察官に対する内部的な指導・懲戒の問題となります)。犯罪捜査規範や被疑者留置規則など警察内部規則の対外的効力については議論がありますが、一般にこれらは直接には国民の権利義務を規律するものではないと解されています (被疑者留置規則(ひぎしゃりゅうちきそく)とは? 意味や使い方 – コトバンク)。
裁判所による参照と判例での言及例
裁判所が犯罪捜査規範を参照することはありますが, それは主に捜査の経緯を評価する際の参考として行われます。犯罪捜査規範そのものに法的根拠があるわけではないため、判決の結論を導く直接の法規範とはなりません。しかし、警察官の行動が適正であったかを判断する材料として、犯罪捜査規範の規定内容に触れられる場合があります。
判例の具体例として、警察官が取り調べの際に作成した「取調べメモ」(備忘録)の証拠開示をめぐる最高裁決定があります。最高裁第三小法廷平成19年12月25日決定では、刑事訴訟法316条の26第1項に基づく証拠開示の対象について判断する中で、「犯罪捜査規範13条に基づき作成された取調べ経過のメモ」は、個人的メモの域を超えて公的な捜査文書であり、公判でその取調状況に関する争点がある場合には証拠開示の対象となり得ると判示しました (第3回刑弁でGO! 「取調べメモについての最高裁決定」「性犯罪での刑事弁護を経験して(2009年1月号))。このように裁判所は、犯罪捜査規範上作成が義務付けられた書面の存在や性質を踏まえて、それが公的証拠として扱いうるかを判断しています。また別の最高裁決定(平成20年6月25日)では、そうしたメモが犯罪捜査規範13条に該当するか否かの判断は裁判所が行い、必要に応じて裁判所が検察官に提示を命じ得ることも示されました (裁判例結果詳細 | 裁判所 – Courts in Japan)。これらの判例は、犯罪捜査規範そのものを法規範として適用したわけではありませんが、規範に基づく捜査書類の性質や取扱いを判断するために言及しています。
他にも、警察の怠慢な捜査による被害拡大が問題となった国家賠償請求訴訟(栃木リンチ殺人事件国賠訴訟・東京高裁平成19年3月28日判決など)で、警察の捜査上の注意義務を論じる際に犯罪捜査規範の趣旨が参照されることがあります。このような場合、犯罪捜査規範は警察官の注意義務の内容を測る基準として考慮され、不適切な捜査対応の判断材料とされることがあります。ただし、これも犯罪捜査規範違反自体に法的効果があるわけではなく、あくまで警察の過失の有無を評価する上での参考基準です。
犯罪捜査規範の法的拘束力の有無
犯罪捜査規範は警察内部の規則であり、対外的な法的拘束力はありません。警察官はその職務規律としてこれを遵守すべきですが、裁判所がこれを直接強制することは想定されていません (犯罪被害者の刑事告訴・被害届けと捜査機関の対応 – 新銀座法律事務所)。例えば、警察官が犯罪捜査規範に違反した手続を行った場合でも、そのこと自体で刑訴法上の違法が成立するわけではなく、刑事裁判で直ちに無効と判断されるものではないと解されています。犯罪捜査規範違反に対する制裁は、主に警察内部での懲戒や指導の問題となり、裁判所がその違反を理由に警察官を処罰したり、手続きを無効化したりする制度はありません。
ただし、「警察法12条に基づく国家公安委員会規則」である犯罪捜査規範は、広い意味では法律の委任による下位法規ともいえます。このため、「警察官に対しては内部的強制力を持つ規則」であり、警察官は遵守義務を負うものです (「犯罪捜査規範」の法律相談 – 弁護士ドットコム) (書類送検の際の、警察の「厳重処分」意見を回避できないかという質問(刑事弁護) | 薬院法律事務所)。現場実務上も、犯罪捜査規範を踏まえて作成された各種の捜査手続マニュアルや様式例が運用されています (書類送検の際の、警察の「厳重処分」意見を回避できないかという質問(刑事弁護) | 薬院法律事務所)。しかしながら、それでも国民一般や裁判所を直接拘束する法規範性はなく、犯罪捜査規範に違反したからといって被疑者側がそれ自体を根拠に法的救済を求めることは難しいというのが通説です。
要するに、犯罪捜査規範は「警察内部のルール」であり、裁判で適用される実体法・手続法とは位置づけが異なります。裁判所もそれを参考意見程度に扱うにとどまり (第166回国会 法務委員会 第22号(平成19年5月30日(水曜日)))、最終判断はあくまで憲法・法律にもとづいて行われます。この点については国会答弁などでも、「犯罪捜査規範は基本的な考え方を示したもので、法的拘束力はない」と明言されています (第166回国会 法務委員会 第22号(平成19年5月30日(水曜日)))。
犯罪捜査規範違反が証拠能力に与える影響
証拠能力の判断において、犯罪捜査規範に違反したこと自体は、直ちに証拠排除の理由にはなりません。日本の裁判所は、違法収集証拠の排除法則について「令状主義の精神を没却するような重大な違法」がある場合に限り証拠を排除すべきだとする立場を取っています ([PDF] 組織犯罪対策のための秘匿・仮装を 用いた警察活動の現状とニーズ)。これは、違法捜査によって得られた証拠であっても、その違法の程度が軽微で適正手続の核心を害さない限りは、証拠能力を認めることが多いということです。例えば、軽微な手続違反や内部規則(犯罪捜査規範)の逸脱のみでは、「重大な違法」とまでは評価されない場合がほとんどです。
したがって、犯罪捜査規範の違反を理由に証拠排除が認められるためには、その違反行為が刑事訴訟法や憲法上の重大な違反(例えば令状主義・黙秘権侵害・違法な強制手段の行使など)を伴っていることが必要です。内部規則違反だけでは不十分であり、実質的に被告人の権利を著しく侵害したり、司法の廉潔性を害するような場合に限って排除が検討されます。例えば、犯罪捜査規範107条は「女子の任意の身体検査は行ってはならない。但し裸にしない場合はこの限りでない」と定めています (実況見分(じっきょうけんぶん) 刑事事件用語集 | 私選弁護人)。仮に男性警察官が女性被疑者に対し任意の身体検査(所持品検査)を行った場合、これは規範違反ですが、それだけで得られた証拠(例えば隠し持っていた物)が直ちに排除されるわけではありません。裁判所は、その検査が実質的に任意協力の範囲を超えて身体の自由を侵害する強制捜査にあたるか否かを検討し、違法かどうかを判断します。その結果、違法な強制捜査と評価されれば証拠排除の可能性がありますが、単に内部規定に反しただけで任意捜査の範囲内と認められれば、証拠能力は否定されないでしょう。
実際の判例でも、犯罪捜査規範違反そのものを理由に証拠が無効とされた例は見当たりません。違法収集証拠の問題となった事例では、令状を示さずに住居に立ち入ったケースや、任意同行と称し長時間にわたり被疑者の自由を拘束したケースなど、憲法31条・35条に抵触するような重大な手続違反がある場合に限って、証拠の証拠能力が否定される傾向があります ([PDF] 組織犯罪対策のための秘匿・仮装を 用いた警察活動の現状とニーズ)。要するに、証拠排除は違法の質と重大性の問題であり、犯罪捜査規範のような内部基準からの逸脱は、それが同時に法律上の違法を構成しない限り、証拠能力に決定的な影響を及ぼさないのが裁判例の姿勢です。
犯罪捜査規範違反が捜査手続の適法性に与える影響
捜査手続の適法性についても、犯罪捜査規範は裁判所の判断を直接拘束しません。裁判所は捜査手続の適法・違法を判断する際、憲法や刑事訴訟法上の基準に照らして判断します。犯罪捜査規範はあくまで警察内部の手引きであり、その遵守状況は参考情報にとどまります。ただし、裁判所が捜査の適法性を審査する過程で、「犯罪捜査規範に照らして明らかに逸脱した捜査」が行われていれば、それは往々にして刑訴法上の強制処分規制や適正手続の原則にも抵触している可能性が高いため、結果的に違法と判断されるケースがあり得ます。
例えば、任意捜査の限界を超えて被疑者を事実上拘束したような場合です。犯罪捜査規範には、任意捜査を行う際には必要最小限の方法によるべきことや、手続の適正を害しないよう配慮すべきことが定められています(※具体的条文として任意捜査の原則を示す99条などがあります ([PDF] 2021 年度前期 東北大学法科大学院 基幹刑事訴訟法 第 1 回 強制捜査 …))。これに反して、長時間の任意同行や深夜に及ぶ取り調べなど、被疑者の意思を無視した捜査手法が行われれば、裁判所はそれを実質的に違法な強制処分(令状なき逮捕・監禁)とみなすことがあります。実際に、任意同行と称しつつ実質的に被疑者の自由を数時間以上奪ったケースで、その後の自白調書の任意性が否定され証拠排除となった例があります(最判昭和53年など)。このような判断は犯罪捜査規範違反を直接理由とするものではなく、憲法の人身の自由保障(憲法34条や31条)や刑訴法の強制処分法定主義に照らしたものです。しかし、犯罪捜査規範が予め示している「適正手続の基準」から著しく逸脱していれば、結果として違法と評価されやすいといえます。
また、犯罪捜査規範は被疑者や関係者の人権尊重を強調しており、違法・不当な取調べの禁止(例えば暴行脅迫の禁止や休憩時間の配慮など)も定めています。こうした規定に反する取調べ(例えば暴行による自白強要など)は、当然ながら刑事訴訟法上も違法(刑訴法319条の自白排除法則や憲法38条違反)となります。その意味で、犯罪捜査規範の内容は適法手続の指標にはなりますが、裁判所が最終的に見るのは憲法・法律違反の有無です。最高裁判例でも「捜査機関の行為が適法か否かは刑事訴訟法その他の法令の趣旨に照らして判断すべき」であり、内部規則の違反そのものは判断基準にはならないとする趣旨のものがあります。
総じて、犯罪捜査規範は裁判における間接的な考慮要素といえます。裁判所は必要に応じてその存在や趣旨に言及しますが、法的拘束力のない指針として扱い、それ自体で結論を左右することはありません (被疑者留置規則(ひぎしゃりゅうちきそく)とは? 意味や使い方 – コトバンク)。重要なのは、規範違反の背後にある実体的な違法の有無です。もし犯罪捜査規範に反する捜査が行われ、その行為が結果的に被疑者の権利を不当に侵害したり重大な手続違背を伴っていれば、裁判所は法令違反としてその手続の違法を宣言し、違法収集証拠の排除や公判手続への影響を検討します。一方、規範逸脱があっても法令上許容される裁量の範囲内であれば、手続自体は適法と判断されます。このように、犯罪捜査規範違反と手続適法性・証拠能力との関係は、「違反=違法」ではなく「違反+αの実質的違法」で問われるというのが実情です。
参考文献・判例
- 国家公安委員会規則「犯罪捜査規範」 (犯罪被害者等施策ホームページ – 警察庁 / 犯罪捜査規範(被害者対策関係部分))
- 昭和24年・32年の犯罪捜査規範制定経緯 (第1節 刑事警察の歴史)
- 国家公安委員会規則「被疑者留置規則」およびその法的効力に関する解説 (被疑者留置規則(ひぎしゃりゅうちきそく)とは? 意味や使い方 – コトバンク) (被疑者留置規則(ひぎしゃりゅうちきそく)とは? 意味や使い方 – コトバンク)
- 最高裁第三小法廷平成19年12月25日決定(取調べメモの証拠開示) (第3回刑弁でGO! 「取調べメモについての最高裁決定」「性犯罪での刑事弁護を経験して(2009年1月号))
- 東京高裁平成19年3月28日判決(栃木リンチ殺人事件国賠訴訟)判例時報No.1968掲載事項 (判例時報 No.1968〔判例評論 No.582〕 | 判例時報社)
- 刑事訴訟法における違法収集証拠排除法則の基準 ([PDF] 組織犯罪対策のための秘匿・仮装を 用いた警察活動の現状とニーズ)
- 警察大学校研究資料『犯罪捜査規範の話』金子仁洋(1973年) 等