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薬院法律事務所

犯罪被害者

犯罪被害者代理人弁護士が意識すべき「事件評価」の話(犯罪被害者)


2025年02月22日窃盗(犯罪被害者)

警察には「事件評価」という行動基準があります。

 

捜査指揮にあたる警察幹部が「どの事件に対して重点的に捜査力を配分するか」ということを評価する行為です。

 

神奈川県警察本部刑事部刑事総務課編『全訂捜査幹部必携(部内用)~的確な捜査管理と事件指揮のマニュアル~』(東京法令出版,2004年3月)81頁

【事件評価とは、発生認知した犯罪を検討し、当面捜査し検挙する目標にどの事件を選定するかの価値判断である。日常生起するすべての犯罪を網羅的に捜査することは現在の捜査体制からみて困難である。そこで限られた捜査力をより有効に運用するため、事件の軽重、緩急、悪性の度合い、社会的影響などを考慮し、市民が真に検挙を期待している事件を選択した上、いつ、どれだけの捜査力で着手し、その捜査手続と処理方法をどうするか等を決定することである。】

 

これは、弁護士が犯罪被害者代理人側で行動するときに知っておくべきことです。私は、交通事故や企業内での従業員の犯罪行為について犯罪被害者の代理人をすることがしばしばあるのですがその時には「事件評価」の視点を重視しています。特に「被害届を受理してもらえない」場合には、この点で引っかかっていることがありますので、それが警察目線でも捜査力を配分するにふさわしい事件であることを説明できないといけません。

 

この事件評価の考慮要素については、警察大学校特別捜査幹部研修所編著『新版 捜査学-捜査指揮総論-』(立花書房,1994年12月)3~11頁に詳しい考慮要素が書いてあります。

 

同書では、「反社会性が強い事件」、「社会の公正を害する事件(贈収賄等)、「組織的背景,計画性がある事件」、「空き巣等の生活に密着した事件」、「国際化を反映する事件」、「原因不明の行方不明事件」、「年少者を対象とするわいせつ,つきまとい事犯」、「身体犯に移行する危険性が高い犯罪」、「組織的犯罪あるいは組織が背景に絡んでいる犯罪」、「常習犯・連続犯」、「起訴相当事件」、「ー罰百戒的効果がある事件」、「二次犯罪の発生が懸念される事件」、「他の重要事件の端緒となる事件」があげられています。

 

事件評価の考慮要素、考慮要素の軽重は、時代によって変わっていきますので、警察庁の通達や所轄の警察署のホームページ、県警本部の捜査目標などをしっかり調べておくことが大事でしょう。一般的にいえば、今であれば暴力団・半グレ・トクリュウが背景にあると疑われる事案、女性・子どもが被害者になる人身安全関連事案(性犯罪含む)については重点的に対処されやすいと思います。

 

弁護士が犯罪被害者代理人として行動するときは、時代背景を踏まえて警察の捜査が期待される事案であることを説明することはもちろんとして、上記の要素を可能な限り弁護士で積み上げていくことが必要です。 そのためには、警察に被害届を出した後でも、関係者の陳述書を作成して、表面上の被害に留まらない精神的被害なども供述化することや、捜査の先回りをして弁護士が収集可能な証拠は集めておくといった行為をするとよいでしょう。