略式命令での罰金、示談したので起訴を取下げてもらえないかという相談(万引き、刑事弁護)
2024年11月18日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は福岡市に住む20代の会社員女性です。悪いことだとはわかっているのですが、万引きをするようになってしまいました。自分でも止めることが出来ずに繰り返してしまい、警察に一度捕まった時にもう止めようと思ったのですが、止められずにまたしてしまいました。前回は微罪処分ということで前科がつかなかったのですが、今回はお店の方が赦してくれずに検察官から罰金だといわれました。略式命令という形で裁判には行かないで良いということでしたので、同意し、裁判所から罰金30万円の命令書が届きました。その翌日、お店の方から気が変わったということで、示談して被害届を取り下げて良いといわれたのですが、示談すれば今からでも起訴はなかったことに出来るのでしょうか。
A、理屈としては、確定前であれば検察官が公訴取消ということで起訴を取り下げることはできます。しかしながら、示談していれば不起訴(起訴猶予)という案件であっても、実務上一旦起訴した事件は取り下げられません。
【解説】
略式命令が発令された場合には、原則として裁判所でもその取消や変更はできません。もっとも、略式命令の確定前であれば、検察官は公訴取消をすることができます。もっとも、実際に取消がなされることはないようです。もちろん、えん罪であることが発覚したといった場合には公訴取消がなされるでしょうが、示談していれば起訴猶予の案件が、略式命令発令後に示談したからといって、実務上、公訴取消はなされていません。示談をするのであれば、できれば起訴状が裁判所に提出される前、遅くとも略式命令が発令されるまでにする必要があるでしょう。なお、示談成立後に、正式裁判の申立をすることで、罰金額が減るという可能性はあります。略式命令が発令された段階では、示談が存在しない前提で量刑が定められているからです。
https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000131
第六編 略式手続
第四百六十一条 簡易裁判所は、検察官の請求により、その管轄に属する事件について、公判前、略式命令で、百万円以下の罰金又は科料を科することができる。この場合には、刑の執行猶予をし、没収を科し、その他付随の処分をすることができる。
第四百六十一条の二 検察官は、略式命令の請求に際し、被疑者に対し、あらかじめ、略式手続を理解させるために必要な事項を説明し、通常の規定に従い審判を受けることができる旨を告げた上、略式手続によることについて異議がないかどうかを確めなければならない。
②被疑者は、略式手続によることについて異議がないときは、書面でその旨を明らかにしなければならない。
第四百六十二条 略式命令の請求は、公訴の提起と同時に、書面でこれをしなければならない。
②前項の書面には、前条第二項の書面を添附しなければならない。
第四百六十三条の二 前条の場合を除いて、略式命令の請求があつた日から四箇月以内に略式命令が被告人に告知されないときは、公訴の提起は、さかのぼつてその効力を失う。
②前項の場合には、裁判所は、決定で、公訴を棄却しなければならない。略式命令が既に検察官に告知されているときは、略式命令を取り消した上、その決定をしなければならない。
③前項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。
略式裁判について(検察庁)
https://www.kensatsu.go.jp/gyoumu/ryakushiki.htm
【参考文献】
裁判所職員総合研修所監修『略式手続(第七版第二補訂版)』(司法協会,2017年9月)
6頁
【略式手続が,通常手続と同じく.公共の福祉の維持と基本的人権の保障との調和及び公平・迅速を指導原理とする刑事訴訟手続であるという点では,両者は共通の基盤に立つ。したがって.その面からいえば,総則以外の規定であっても.通常手続に関する一般の規定が,その性質に反しない限り,略式手続に適用ないし準用される部分が少なくないはずである。例えば.公訴の提起及びその取消しに関する規定(法247~258), 弁論の分離・併合に関する規定(法313I), 証拠裁判主義(法317) や自由心証主義(法318) を宣言した規定, 自白の証拠能力や証明力の制限に関する規定(法319) 等。】
59頁
【2 告知の効果
略式命令は.告知によって対外的に効力を生ずる。当事者の一方,例えば検察官だけに告知された場合でもその者に対する関係においては同様である。したがって,その後においては.裁判所も原則としてその撤回取消し又は変更をすることができない(例外,法463 条の2II) 。】
http://www.jaj.or.jp/wp/wp-content/uploads/pdf/books_no040.pdf
河上和雄ほか編『大コンメンタール刑事訴訟法第二版第10巻〔第435条~第507条〕』(青林書院,2013年9月)287-288頁
【なお, この場合,検察官は正式裁判申立ての前後を問わず略式命令確定前であれば,公訴を取り消すことができると解される。すなわち,略式命令を「第一審判決」(257条)に準ずるものとして,略式命令が発せられた後は公訴取消しができないとする立場もありうるが,検察官は略式命令に対し何ら理由がなくても正式裁判の申立てをすることができるし(465 条),正式裁判の申立てがあれば略式命令に拘束力はなく(468条3項),判決があれば略式命令は失効するのであるから(469条),裁判所の一応の判断があったとはいえ, これを第一審判決に準ずるものとみるのは妥当でないからである(略式手続執務資料55 -56 頁)】
https://www.seirin.co.jp/book/01606.html
最高裁判所事務総局編『略式手続執務資料』(法曹会,1992年7月)38-39頁
【30 正式裁判申立後の公訴取消
〇交通事故を内容とする業務上過失致傷事件の略式命令があった後に,被告人及び検察官の双方から正式裁判請求があったが,通常手続のもとで審理中,被告人が身代わりであることが明らかになり,検察官から公訴の取消がなされた。
裁判所は,右公訴取消を有効とみて,公訴棄却決定をしてもよいか。
[協議結果]
(1) 協議においては,論点として,①略式命令が発せられた後,検察官は公訴を取消すことができるかという点と,②公訴取消が有効とした場合,裁判所はどのように処理すべきかという点が問題とされた。
(2) まず①の点については,当事者は略式命令に対し何ら理由がなくとも正式裁判の申立てをすることができる上,同申立があれば略式命令に拘束力はなく,判決があれば略式命令は失効するのであるから,裁判所の一応の判断があったとはいえ,略式命令を第一審判決に準ずるものとみるのは行き過ぎであり,したがって,刑訴法257 条の準用はなく,略式命令の確定前であれば検察官は公訴を取消すことができると考えられるとの意見で一致した。】
https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000039-I12726065