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薬院法律事務所

犯罪被害者

盗撮行為で被害者がPTSDとなった場合、盗撮犯は傷害罪にならないかという相談(犯罪被害者)


2021年08月10日犯罪被害者

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、私は、駅のホームで下着を盗撮される被害に遭いました。性犯罪に遭ったのは初めてのことで、それ以来心が落ち着かず、何をしても辛い気持ちが抜けません。精神科に行ったところ「PTSD」と診断されました。犯人は性的姿態等撮影罪で処罰されると聞きましたが、傷害罪にはならないのでしょうか。

A、現在の実務を前提とすると、残念ながら傷害罪での処罰は困難だと思います。

 

【解説】

 

PTSDについては、刑法上の「傷害」にあたることが一般的に認められています。

では、盗撮行為で被害者がPTSDになった場合、加害者は傷害罪の責任を負うことになるでしょうか。この点に触れた裁判例や文献はありませんが、私は、盗撮行為の内容次第だと思います。

傷害罪の成立には2パターンあり、暴行(人の身体に対する不法な有形力の行使)の結果傷害を負うものと、暴行ではなく傷害を与えるものがあります。後者の典型例は毒物を飲ませるような場合です。

PTSDは傷害のひとつにあたりますが、これが暴行により発生した場合には当然傷害罪が成立します。しかし、盗撮行為は暴行ではないです。有形力の行使(身体への接触を伴う物理力を行使する行為)ではないからです。そうすると、盗撮行為が傷害(PTSD)を発症させるほどの危険性を持つ行為であるか(実行行為といえるか)がまず問題になります。それだけの危険性を持つ行為でなければ、そもそも傷害罪の構成要件にあたらないからです。例えば、コンビニの店長が万引き犯人をみつけて、「こらっ」と怒鳴ったとします。それで万引き犯人が恐怖心を持ちPTSDになったとしても、店長が怒鳴ったことは傷害罪にあたりません。正当行為として刑法上正当化されるという側面もありますが、通常その行為によりPTSDが発生する危険性がないからです。

そこで、例えば公共の場所でスカート内を盗撮したといった行為の場合、現状ではPTSDを発症させるほどの危険性はないとされるでしょう(社会的意識や医学的知見の変化によりこういった認定は変わることがあります)。したがって、実行行為性が否定されます。しかしながら、例えば部屋の中に侵入して各所に盗撮カメラを仕掛けて長期間監視していた、といった場合であれば、PTSDを発症させるほどの危険性があるとされるでしょう。あとは、その上で実際に盗撮行為と因果関係があるといえるのか、その発症の可能性について犯人に認識があったのか、といったことになります。

 

【参考文献】

 

裁判所職員総合研修所監修『刑法総論講義案(四訂版)』(司法協会,2016年6月)62頁

【行為が特定の構成要件に真に該当していると認められるためには,その行為が各構成要件要素を形式的に満たしているというだけでは足りず, さらに,その行為が当該構成要件の予定している実質を備えたものでなければならない。前述のとおり,すべての構成要件はそれぞれ何らかの法益の保護を目的としているから, ここにいう構成要件の実質とは,すなわち,保護法益を侵害することの現実的な危険性を有していることにほかならない。このようにして,法益侵害の現実的危険という実質を有し,特定の構成要件に形式的にも実質的にも該当すると認められる行為を,実行行為という。】

 

【参考判例】

 

最高裁判例としては、自宅から隣家の被害者に向けて連日連夜ラジオの音声等を大音量で鳴らし続け被害者に慢性頭痛症等を生じさせた行為が傷害罪の実行行為に当たるとされた事例があります。

最判平成17年3月29日 刑集第59巻2号54頁

判示事項
自宅から隣家の被害者に向けて連日連夜ラジオの音声等を大音量で鳴らし続け被害者に慢性頭痛症等を生じさせた行為が傷害罪の実行行為に当たるとされた事例

裁判要旨
自宅から隣家の被害者に向けて,精神的ストレスによる障害を生じさせるかもしれないことを認識しながら,連日連夜,ラジオの音声及び目覚まし時計のアラーム音を大音量で鳴らし続けるなどして,被害者に精神的ストレスを与え,慢性頭痛症等を生じさせた行為(判文参照)は,傷害罪の実行行為に当たる。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=50079

 

最判平成24年7月24日刑集第66巻8号709頁

判示事項
不法に被害者を監禁し,その結果,被害者に外傷後ストレス障害(PTSD)を発症させた場合について,監禁致傷罪の成立が認められた事例

裁判要旨
不法に被害者を監禁し,その結果,被害者が,医学的な診断基準において求められている特徴的な精神症状が継続して発現していることなどから外傷後ストレス障害(PTSD)を発症したと認められる場合,同障害の惹起は刑法にいう傷害に当たり,監禁致傷罪が成立する。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=82462

 

※なお、PTSDの診断書があるからといって、刑事事件や民事事件で必ずPTSDと判断されるものではないです。

交通事故でPTSDとなったのに、保険会社が否定してくるという相談(犯罪被害者、交通事故)

 

※2025/1/7 chatGPT o1 proで検証してもらいました。

以下の文章は、

「盗撮によって被害者がPTSDを発症しても、現行の実務では傷害罪として立件・処罰されるのは極めて難しい」
という趣旨

を含んでいます。結論として、これは日本の刑法および実務運用に照らして真実性が高いといえます。以下、くわしく解説します。


1. 心的外傷後ストレス障害(PTSD)と「傷害」の関係

(1)PTSDが「傷害」にあたる場合

  • **刑法上の「傷害」**とは、人の生理的機能を害することをいいます。そのため、精神疾患が生じた場合(PTSDなど)も「傷害」と認められ得ることは判例・学説で一般的に肯定されています。
  • たとえば、最高裁判所平成24年7月24日決定(監禁致傷事件)などで、PTSDが刑法上の傷害にあたるとされた事例があります。

(2)盗撮でPTSDに至った事例

  • 盗撮が原因でPTSDになったとしても, それを「傷害罪」として評価するには、
    1. 被害者がPTSDを発症した事実(医学的診断)
    2. 盗撮行為が、それほどの危険性・心理的負荷を与える行為だったと評価できるか(実行行為性)
    3. 行為者が、その結果(PTSD発症)の具体的危険性を認識していた、あるいは認識しうる状態だった(故意または結果的加重犯の規定)
      などを立証する必要があります。

一般的な「駅のホーム等での一瞬の盗撮」では、身体的接触や暴行の介在がなく、行為自体にPTSDを生じさせるほどの危険があるとは通常考えにくいとみられ、実務上、傷害罪の成立は極めて難しいでしょう。


2. 傷害罪が成立しうる“精神的加害”の例

(1)暴行罪の拡張

  • 暴行(身体に対する有形力)や強度の脅迫・監禁などによってPTSDを生じさせる場合は、傷害罪(または傷害致死、監禁致傷などの結果的加重犯)が認定される余地があります。
  • たとえば、最高裁判所平成17年3月29日判決(ラジオ大音量事件)では、大音量の音によるストレスで被害者を精神疾患にしたケースが傷害罪と認定されています。

(2)盗撮の“程度”が極めて深刻な場合

  • 部屋に侵入して長期間・隠しカメラで日常を監視し続けるなど、「行為の継続性・計画性が甚大」でPTSDを誘発する危険性を明確に認定できる場合, 理論上は「傷害罪」を検討しうる余地があります。
  • もっとも、それでも**「盗撮行為=傷害罪」と認定されるハードルは非常に高い**と考えられます。

3. 現行法上の取り扱い

(1)通常は「性的姿態等撮影罪」あるいは迷惑防止条例違反

  • 2023年7月施行の「性的姿態等撮影罪」(いわゆる盗撮新法)や各都道府県の迷惑防止条例違反で処罰されるのが通例です。
  • さらに、建造物侵入や住居侵入などが付加される場合もあります。

(2)傷害罪を検討する実務の現状

  • 実務では、「盗撮行為」で被害者がPTSDになったとしても、行為の危険性(実行行為性)や因果関係の立証の問題から、傷害罪として立件するのは困難とみなされるケースが大半です。
  • よほど特殊な状況(前述のような長期間の侵入・監視など)でない限り、「盗撮でPTSDだから傷害罪」は成立しにくいのが現状です。

4. 結論

  • 本文が主張する「盗撮によるPTSDで直ちに傷害罪が成立するのは難しい」という点は、日本の刑法理論・判例・実務の運用と合致し、真実性が高いと言えます。
  • もちろん、個別事案で行為態様が極めて悪質・執拗・長期にわたるなどすれば、傷害罪の成立を検討しうる余地はゼロではありませんが、一般的な盗撮事案ではそこまで認定される可能性は非常に低いです。

したがって、本文の説明は刑事実務の現状に即した正しいものと評価できます。