福岡県迷惑行為防止条例第6条第1項(卑わいな行為等の禁止)の解説・第1回痴漢行為
2025年01月04日刑事弁護
下書きはchatGPTo1 proに作成してもらいました。加筆した部分を赤字にしています。
以下では、福岡県迷惑行為防止条例(正式名称:「福岡県公衆に著しく迷惑をかける行為等の防止に関する条例」)のうち、第6条第1項(本文)と同項第1号の条文を、これまでの**「条文解説スタイル」**に則って区切りごとに解説します。今回の対象は、いわゆる「痴漢」や「卑わいな行為」に関する規定の一部です。
条文該当部(福岡県迷惑行為防止条例 第6条1項本文・1号)
(卑わいな行為等の禁止)
第六条
何人も、公共の場所又は公共の乗物において、正当な理由がないのに、
人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で
次に掲げる行為をしてはならない。
一 他人の身体に直接触れ、又は衣服その他の身に着ける物(以下この条において「衣服等」という。)
の上から触れること。
二 前号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること。
※以下、2項・3項も続きますが、今回は1項本文と1項1号が中心対象です。
1. 第6条1項本文の大きな構造
1.1 「何人も、公共の場所又は公共の乗物において…次に掲げる行為をしてはならない」
- 「何人も」
- すべての人に対して、年齢・性別問わず、行為が禁止されるということ。
- ただし、少年がこの行為をした場合は、少年法の手続きに回されるが、いずれにせよ「禁止行為」として処罰対象になり得る。
- 「公共の場所又は公共の乗物において」
- 「公共の場所」とは、通路、道路、駅構内、商業施設の共用通路、公園など、不特定または多数の人が利用し又は出入りする場所をいう。
- 第2条2項に定義があり、「道路、公園、広場、駅、空港、ふ頭、興行場、飲食店その他の公共の場所(以下「公共の場所」という。)」とされている。
- 「公共の乗物」とは、電車、バス、船舶、タクシーなど不特定または多数の者が利用する乗物。
- 第2条2項に定義があり、「汽車、電車、乗合自動車、船舶、航空機その他の公共の乗物(以下「公共の乗物」という。)」とされている。
- これらの空間で行われる行為を取り締まるのが1項の特徴。
- 迷惑防止条例において重要な要件であり、坂田正史「迷惑防止条例の罰則に関する問題について」判例タイムズ1433号(2017年4月号)21-43頁は「「公共の場所」該当性の判断は,施設ないし場所の類型的な属性ではなく,その種類,性質用途,行為当時の管理・利用の状況,構造,開放の程度を,特定の区画が問題となっている場合は,その区画部分について以上のような諸要素を実質的,個別的に考慮して,不特定かつ多数の人が自由に出人り又は利用が可能な状態にあるかどうかを検討しているといえよう。」とする。
- 後で解説される2項は「公衆の目に触れるような場所」に拡張し、3項は「住居等の私的領域」を対象にしている。そうした住居や便所、更衣室等での盗撮は3項で、公共空間での盗撮は2項で、それぞれ規制する仕組み。
- 重要なポイントとして、「公共の場所」にあたるかはその時の「状態」で決まるということがある。【イ「その他の公共の場所」とは、例示したもののほか、不特定かつ多数の者が自由に出入し、又は利用しうる施設及び場所をいう。例えば、公会堂、商店、遊技場、デパート、ホテルのロビー等がこれに当たる。しかし観念的には、これらに当たる場所又は施設であっても、現に不特定かつ多数の者が出入し、又は利用し得る状態におかれていないものは含まれない。すなわち、公共の場所とは、場所の属性でなく状態なのである。したがって、公開の時間以外の興行場、飲食店、デパートなどの一部又は全部を借り切って区画閉鎖し、現に利用中の者以外の者は利用できない状態にある場所は、公共の場所とは言えないことになる。】福岡県警察本部『生安部報特別号 福岡県迷惑行為防止条例逐条解説』(福岡県警察本部,2019年5月)13頁。
- 「正当な理由がないのに」
- 刑事法令の多くの規定で用いられる文言。正当な業務目的などがない限り、ここで禁止される行為は処罰対象となる。
- 例えば、緊急医療行為などでやむを得ず他人の身体に触れること等は「正当な理由」と評価される場合がある。
- 「人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で」
- 1項の中心要件。「著しく羞恥させる」「不安を覚えさせるような方法」であれば、規定違反となる。
- 具体的には、公共の乗物で他人を身体的に触る、スカート内を触る等が典型例。
- なお、「著しく羞恥」「不安を覚えさせるような方法」かどうかは、客観的・社会通念で判断される。
1.2 「次に掲げる行為をしてはならない」
- この「次に掲げる行為」が1項1号・1項2号です。
- ※条例自体は「痴漢」「盗撮」「卑わいな言動」等を広く網羅しているが、ここでは1項1号~2号に注目。
2. 第6条1項1号
一 他人の身体に直接触れ、又は衣服その他の身に着ける物(以下この条において「衣服等」という。)
の上から触れること。
(1) 「他人の身体に直接触れる」
- **いわゆる「痴漢行為」**を典型的に規制する文言。
- 公共の場所や乗物で、身体をわしづかみにする、撫で回す等。
- 当然、相手の同意や、業務上の正当な理由(例えば身体介助や緊急救護)などがなく、かつ「著しく羞恥・不安を与える態様」なら本号に該当。
- 裁判例・実務では「直接」に触れた部位がどこか、態様がどうかによって、「迷惑防止条例の卑わい行為」にとどまるのか、あるいは**「不同意わいせつ罪」**(旧「強制わいせつ罪」)に該当し得るのかが検討される。
- 例:「着衣の上から臀部をなで回す」行為が1項1号に該当して、警察が逮捕というのは十分ありうる。どこまで強度・執拗さがあるかで、「不同意わいせつ罪」になる場合もある。
(2) 「衣服その他の身に着ける物(以下この条において『衣服等』という。)の上から触れること。」
- 「衣服等」の上から触る → こちらも典型的な痴漢行為の範疇。
- “身に着ける物” なので、リュックサックや腕にかけたカーディガンなど、人が身に着けている状態であれば、それを通じて身体に触れる行為も含まれる、と解される。
- 福岡県警察本部『生安部報特別号 福岡県迷惑行為防止条例逐条解説』(福岡県警察本部,2019年5月)49頁では、【「衣服その他の身に着ける物」とは、着物又は衣装のほか、スカーフ、膝掛け等の身に着ける物やプールや温泉等で水着等の上からまとっているバスタオルのことをいう。】とされており、リュックサックなどの携帯品に触れる行為は含まれないと考えられる。もっとも、状況によっては、1項2号の「卑わいな言動」にあたる場合もあり得る。
- たとえば、コートの上から胸部をわしづかみにする、といった場合がここに該当。
警視庁や福岡県警などの内部資料でも、「衣服の上から触る」痴漢行為は迷惑防止条例違反として処罰されるとの記載がある。また、実務上も多くの痴漢逮捕が、この1号を根拠にしている。
実務上の留意点
- **「公共の場所・乗物」**という要件を満たしているか。
- 自宅や私的空間内で他人に触れた場合は、第6条1項1号の文言には当てはまらない。
- **「著しく羞恥・不安を与えるような方法」**であるか否か。
- 触る態様がわずかで、社会通念上「卑わいな行為」とまではいえない程度であれば、「迷惑防止条例違反には当たらない」という判断がなされることもあるが、実務では被害者が強く「嫌な思いをした」と訴えれば検挙されるケースが少なくない。
- 強度が激しく、身体的苦痛を伴うような触り方 → 刑法上の「不同意わいせつ罪(旧強制わいせつ罪)」(→ 6月以上10年以下の拘禁刑)の可能性。
- 迷惑防止条例違反よりも、さらに重い刑法犯罪として立件されるか否かは、警察・検察の評価しだいである。
3. なぜ「1項1号」が設定されているのか
- 狙い:「公共の場での痴漢行為」を取り締まるための、いわゆる**“迷惑防止”**規定の柱。
- 特に電車・バスなど人混みで起こりやすい身体接触型の痴漢行為から一般市民を守る、また公衆の場での卑わいな身体接触から被害者を保護する、というのが趣旨。
- 福岡県だけでなく、全国の都道府県迷惑防止条例でも同様の規定が置かれている。
4. 全体のまとめ
- 福岡県迷惑防止条例第6条1項は、「公共の場所や乗物での迷惑・痴漢行為」を規制する根幹条文。
- 1号は、他人の身体に直接触れたり、衣服等の上から触れたりする行為を処罰対象としている。
- 典型例:電車内での臀部・胸部への痴漢。
- 罰則は「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金(常習の場合、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金)」と規定されている(福岡県条例第11条参照)。
- “軽く触っただけ”と思っても被害者が「著しい羞恥・不安」を感じれば、十分検挙される可能性がある。
- もし態様が激しい場合や、強い力で抗拒困難な状態を作り出した場合、刑法上の不同意わいせつ罪(改正前の強制わいせつ罪)としての立件に発展し得るので、いずれにしても処罰は重くなりうる。
このように第6条1項1号は、公共空間での身体接触型の痴漢行為を規制する最も基本的な条文といえます。今後、続く2号・2項・3項では、**「卑わいな言動」や「盗撮」**等に対する取り締まりが規定されています。
福岡県迷惑行為防止条例(昭和39年福岡県条例第68号)
https://www.police.pref.fukuoka.jp/data/open/cnt/3/4139/1/meibo.pdf?20190620183453
【参考文献】※情報公開で入手した資料は一部マスキング有
福岡県警察本部生活保安課「迷惑行為防止条例の改正に関する福岡地方検察庁との協議(事務レベル)について(全28頁)」(2014年6月)
福岡県警察本部生活保安課「福岡地方検察庁に対する協議結果(第2回目)について(全3頁)」(2014年7月2日)
福岡県警察本部生活保安課「福岡地方検察庁に対する協議結果(第1回目)について(全3頁)」(2014年6月20日)
福岡県警察本部生活保安課「福岡県迷惑行為防止条例改正案に係る福岡地方検察庁意見(回答)について(全3頁)」(2014年10月15日)
福岡県警察本部生活保安課「福岡県迷惑行為防止条例の一部改正に係る検察庁協議について(全34頁)」(2014年9月11日)
福岡県警察本部生活保安課「福岡県迷惑行為防止条例の一部を改正する条例(案)に関する協議実施結果について(全23頁)」(2014年9月4日)
福岡県警察本部生活保安課「福岡県迷惑行為防止条例の一部を改正する条例(案)に関する協議実施結果について(全5頁)」(2014年10月9日)
福岡県警察本部生活保安課「知事部局法務班提出資料(全4頁)」(2014年9月5日)
福岡県警察本部生活保安課「条例の適用に関する検察庁協議について(全25頁)」(2014年8月14日)
福岡県警察本部生活保安課「検察庁協議について(全7頁)」(2014年9月5日)
福岡県警察本部生活保安課「検察庁協議について(全5頁)」(2014年9月10日)
福岡県警察本部生活保安課「検察庁意見に係る条例案文修正の会議(全6頁)」(2014年10月9日)
福岡県警察本部生活保安課「10月10日検察庁送付資料(全5頁)」(2014年10月10日)
福岡県警察本部『生安部報特別号 福岡県迷惑行為防止条例一部改正特集号』(福岡県警察本部,2015年5月)
福岡県警察本部「検察庁との協議結果について(報告)(全21頁)」(2018年7月19日)
福岡県警察本部「検察庁との協議(2回目)結果について(報告)(全63頁)」(2018年8月28日)
福岡県警察本部「福岡地方検察庁に対する協議書の作成について(伺い)(全72頁)」(2018年10月25日)
福岡県警察本部「検察庁との協議(3回目)結果について(報告)(全6頁)」(2018年12月5日)
福岡県警察本部「福岡地方検察庁に対する協議書の作成について(伺い)(全73頁)」(2018年12月20日)
福岡県警察本部「検察庁との協議(4回目)結果について(報告)(全6頁)」(2019年1月4日)
福岡県警察本部「福岡地方検察庁に対する再協議書の作成について(伺い)(全12頁)」(2019年1月8日)
福岡地方検察庁検事正堀嗣亜貴「罰則の定めのある条例の制定について(回答)(全1頁)」(2019年1月11日)
福岡県警察本部『生安部報特別号 福岡県迷惑行為防止条例逐条解説』(福岡県警察本部,2019年5月)