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薬院法律事務所

刑事弁護

私が、捜査弁護で勾留理由開示請求を行わない理由(刑事弁護)


2025年02月17日刑事弁護

刑事訴訟法には、勾留理由開示請求という制度があります。

被疑者・被告人が勾留中、公開の法廷で、裁判官に対して勾留した理由の説明を求めるというものです。

私は、否認事件の捜査弁護で一度だけ請求したことがあるのですが、それ以後はこの制度を利用していません。

それ自体で勾留が解除される効果があるわけではないということもありますが、一番大きな理由は「公開の法廷」で「人定質問」がされた上で、勾留の理由が説明されるという制度自体が、被疑者のプライバシーを侵害するからです。特に自白事件だとその弊害は大きいです。

具体的にいえば「私は、駅で女子高生のスカートの中を盗撮して勾留されています!間違いありませんが、勾留までするのはやりすぎです!」と全世界に発信し、歴史的事実として残したいか否かということです。一度流出した情報は、どこで浮上するかわかりませんし、いつまでもネットの海を漂い続けることにもなります。 被疑者やご家族に対して「将来どこかで誰かがネット上に実名と併せて公表されるかもしれない」と思わせたくないので、私は原則として勾留理由開示請求をしていません。

これ、憲法上の問題があるのですが、被疑者・被告人が公開の法廷で行うか否かを選択できる制度にできないかなあと思っています。

 

憲法

https://laws.e-gov.go.jp/law/321CONSTITUTION/

第三十四条 何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。

 

刑事訴訟法

https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000131#Mp-Pa_1-Ch_8

第八十二条 勾留されている被告人は、裁判所に勾留の理由の開示を請求することができる。
② 勾留されている被告人の弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族、兄弟姉妹その他利害関係人も、前項の請求をすることができる。
③ 前二項の請求は、保釈、勾留の執行停止若しくは勾留の取消があつたとき、又は勾留状の効力が消滅したときは、その効力を失う。
第八十三条 勾留の理由の開示は、公開の法廷でこれをしなければならない。
② 法廷は、裁判官及び裁判所書記が列席してこれを開く。
③ 被告人及びその弁護人が出頭しないときは、開廷することはできない。但し、被告人の出頭については、被告人が病気その他やむを得ない事由によつて出頭することができず且つ被告人に異議がないとき、弁護人の出頭については、被告人に異議がないときは、この限りでない。
第八十四条 法廷においては、裁判長は、勾留の理由を告げなければならない。
② 検察官又は被告人及び弁護人並びにこれらの者以外の請求者は、意見を述べることができる。但し、裁判長は、相当と認めるときは、意見の陳述に代え意見を記載した書面を差し出すべきことを命ずることができる。
第八十五条 勾留の理由の開示は、合議体の構成員にこれをさせることができる。
第八十六条 同一の勾留について第八十二条の請求が二以上ある場合には、勾留の理由の開示は、最初の請求についてこれを行う。その他の請求は、勾留の理由の開示が終つた後、決定でこれを却下しなければならない。

 

【参考リンク】

LIBRA2019年12月号 刑弁でGO! 勾留理由開示公判の活用

toben.or.jp/message/libra/

 

※2025/2/17 chatGPT o1 proで検証してもらいました。

1 問題の所在

ご質問にある弁護士の見解は、勾留理由開示手続(刑訴法公開法廷での勾留理由開示)を請求すると、被疑事実等が公になってしまい、被疑者・被告人のプライバシーが不必要に暴露されるおそれがあるので、よほどのことがない限り利用しないというものです。さらに「憲法上、本人の選択で非公開にできないのか」という点にも言及しています。

この見解を、**(1)法的観点(憲法・刑事訴訟法上の制度設計)と、(2)実務・政策的観点(弁護活動・被疑者保護の実際)**の両面から検証すると、以下のように整理できます。


2 勾留理由開示の憲法・刑事訴訟法上の位置づけ

(1) 日本国憲法第34条

何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ、抑留又は拘禁されない。
又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。

後段が勾留理由開示請求の根拠規定とされます。「要求があれば」「公開の法廷で」と明示しており、憲法上「非公開での勾留理由開示」を想定しているとは読みづらい文言です。

(2) 刑事訴訟法の規定

刑事訴訟法(第82条以下)には、公判手続の公開原則や例外規定(例えば、淫行事件や公の秩序・善良の風俗を害するおそれがある場合など)が定められています。しかし、勾留理由開示請求については「非公開にできる」という規定はありません。手続の性質上、原則は公開の法廷で行うものとされています。

(3) 趣旨・目的

勾留理由開示請求は、旧司法保護制度下の「密行的・恣意的な拘禁」への反省から、公開の場で裁判所に勾留の正当性を説明させるという被疑者・被告人の権利保障が主目的です。「非公開」だと、当事者は知り得ても一般市民・社会が知り得ず、拘禁の適否チェックを社会的に行うという理念的意義が薄れてしまうという問題があります。


3 弁護士見解の妥当性に関する検討

(1) 「プライバシー侵害」への懸念は一定の合理性がある

弁護士が指摘するように、公開の法廷では、検察官や裁判官から勾留の「理由」に関し、犯罪事実の要旨が示されるだけでなく、人定質問や発言過程で被疑者が自らの行為をある程度述べざるを得ない場合もあり得ます。
その内容が、痴漢・盗撮・性犯罪、あるいは不名誉・社会的評価を大きく損ねる可能性のある事件であれば、確かにマスコミや傍聴人の目に触れる危険があります。また、裁判所が公式に開いた法廷ですから、手続で明らかになった情報がどこかで報道・SNSなどを通して拡散されるリスクがあるのも事実です。

→ 結論

  • 実際、多くの刑事弁護人の間でも、プライバシー保護逆効果(勾留解放が見込めないのに負の社会的烙印だけが残る)を懸念して、勾留理由開示請求を戦略的に見送ることはよくあります。
  • 従って「請求によるデメリットが大きい」と判断する弁護士の実務判断は、一応の合理性があり、珍しい見解ではありません。

(2) 「憲法上問題があるのではないか」の評価

弁護士は「本人が公開か非公開かを選択できない制度は憲法上問題があるのでは」と述べています。

しかし、憲法34条後段は「要求があれば、公開の法廷で示されなければならない」と明記しているため、現行解釈上、「非公開で行う手続を被疑者・被告人が請求する権利を憲法自体が保障している」とは解されていません。そもそも「公開原則」は、被拘禁者・被疑者の権利保護のための「公開」であって、必ずしも国家側だけが望む公開ではありません。

  • 反面、「プライバシー権」を中心に、公開による不利益をできるだけ本人に選ばせる仕組みを設けるべきだ、という政策論は十分に成り立ち得ます
  • 現行憲法の条文解釈では、公開であること自体を被疑者が放棄・排除できるかという点は明確ではなく、「秘密裁判の禁止」という大原則もあるため、現状立法や運用上は「勾留理由開示は公開が前提」という扱いになっています。

→ 結論

  • 実定法上(憲法解釈・刑訴法解釈)、「公開で行うかどうか」を被疑者が自由に選べる制度設計にはなっていないと考えるのが通説。
  • したがって、同弁護士が「憲法上疑義がある」と述べるのは、実務上少数意見(あるいは立法論・政策論)にとどまるといえます。裁判所や学説で公に「違憲」とされているわけではありません。

(3) 実際の弁護実務上の観点

  • 勾留理由開示公判を開いても、現行の運用では「即時に勾留取消しにつながる実益」はあまり見込めません。ただし、(1)裁判官に対して勾留決定がいかに不当かを訴える機会、(2)事案や被疑者の状況を第三者(傍聴人・報道機関)にもアピールする機能、(3)取調べの可視化が未だ十分でない中で捜査機関の対応をけん制する機能、などの戦術的なメリットを狙って請求する弁護人もいます。
  • しかし、上記弁護士のように「本人や家族の将来的社会生活へのダメージ」を重視して、特に自白事件や、表沙汰になれば大きな不利益が発生するような事件では、請求を見送るのも十分にありうる合理的戦略です。

4 総合評価

  1. 制度趣旨・憲法解釈
    • 憲法第34条が「公開の法廷での理由開示」を保障している以上、「非公開とするかを本人が自由に選べる制度を憲法上義務づけている」とは読めず、現行法は必ずしも違憲とは評価されていません。
    • そもそも公開原則は、被疑者の人権を守るためにも機能する反面、プライバシーが暴露されるリスクとトレードオフの関係にあります。
  2. プライバシーへの配慮と弁護活動上の是非
    • 勾留理由開示請求をすれば、実名や事件内容が公になる危険性は高まります。特に性的プライバシーや名誉に深刻な打撃を受ける可能性がある事件では、依頼者の意向や利益を第一に考えて、請求を回避する選択は実務上よく行われる判断です。
    • 一方で、否認事件・冤罪を主張する事件などでは、公開の場で裁判所に異議を唱え、不当な拘禁であることを訴える意義が大きいと判断すれば、あえて請求することがあります。
  3. 「憲法上問題」との評価
    • 上記のように、現行制度は憲法34条の文言に基づくものであり、直ちに違憲とはされていません。
    • ただし、「被疑者本人の意思で非公開・公開を選択させるオプションを設けてもよいのでは」という立法論・制度論は成り立ち得る余地があります。ただ、ここには「密行的拘禁を防ぐ」という公開原則の大きな趣旨との調和が必要となり、制度改正は容易ではありません。

5 結論

  • 弁護士の見解として、「勾留理由開示請求はプライバシーを侵害し得るため、被疑者・被告人の利益を慎重に考えたうえで控える」という方針は、刑事弁護の実務上しばしばとられる合理的な戦略判断です。
  • 「憲法上問題がある」という主張は、厳密な法解釈上は「現行憲法規定との抵触を理由に違憲」という意味ではなく、公開が一律強制される現制度にプライバシー保護の観点から疑問を呈する立法論・制度論と考えられます。これは理論的には一定の説得力を持ちますが、現行解釈・運用の下では少数意見ないし問題提起にとどまり、直ちに違憲とされるわけではありません。

したがって、同弁護士の見解(請求回避の実務方針)は、弁護活動として十分妥当といえます。同時に、「憲法上問題」との指摘自体は、あくまで現行制度の在り方に対する批判的提言・立法論の域を出ないものと評価できます。