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薬院法律事務所

刑事弁護

私が収集している法律雑誌のリストと、データベースの構築について(弁護士業・雑感)


2024年12月18日刑事弁護

私は、6年前から、大量の法律書・法律雑誌、捜査機関向けの部内書・部内誌を、インターネットオークションや、フリマアプリで収集してきました。公刊されている法律雑誌は出来る限り収集しており、バックナンバーも購入して独自のデータベースを作成しています。

 

もともと、法律書を買いすぎて、事務所に置く場所がなくやむなくスキャンを始めたのですが、スキャンするとスペースが空くのでまた法律書を買ってしまう…ということを繰り返しているうちに、独自のデータベースというレベルになってしまいました。なお、自炊代行業者の利用は違法ですので、私は裁断からスキャンまで全て私自身の手で行っています。起案をしながら延々と続けています。現在も、このホームページの記事を作成している傍らで、裁断した古い判例時報をスキャンしているところです。

 

これは、半分以上は古書マニアとしての趣味なのですが(そのため、スキャンの画質が悪いという理由で再度本を購入することもしばしばあります)、残り半分は、お客様に役立つ存在になりたいという思いがあります。独自のデータベースを作成していることのメリットは、①オフライン環境でも文献を調査できる(警察署の接見室でも文献調査ができます)、②民間のデータベースには収録されていない書籍もアクセスできる、③裁判所、検察庁、警察署に文献資料を印刷して添付することが容易にできる(著作権法41条の2「著作物は、裁判手続及び行政審判手続のために必要と認められる場合には、その必要と認められる限度において、複製することができる。 ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及び態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。」)といったことがあります。

 

具体的にどのような文献を収集しているのか、一例として収集している法律雑誌を挙げます。

 

警察公論(定期購読)

https://keisatsukoron.com/

警察学論集(定期購読)

https://tachibanashobo.co.jp/products/list?category_id=202

捜査研究(定期購読)

https://www.tokyo-horei.co.jp/magazine/sousakenkyu/backs.php

月刊交通(定期購読)

https://www.tokyo-horei.co.jp/magazine/kotsu/backs.php

研修

https://ci.nii.ac.jp/ncid/AN00327540

季刊刑事弁護(定期購読)

http://www.genjin.jp/search/g9540.html

現代刑事法(廃刊)

https://ci.nii.ac.jp/ncid/BA50384032

刑事法ジャーナル(定期購読)

https://www.seibundoh.co.jp/pub/products/view/15253

刑法雑誌(定期購読)

https://clsj.jp/archives/22

罪と罰

https://jcps2021.org/category/bookintroduction/booksintroduction/

刑政(定期購読)

https://www.kyousei-k.gr.jp/keisei.html

警察政策(定期購読)

https://tachibanashobo.co.jp/products/detail/3910

判例タイムズ(定期購読)

https://www.hanta.co.jp/archive-hanrei/

判例時報(定期購読)

https://hanreijiho.co.jp/wordpress/category/book/

ジュリスト(定期購読)

https://www.yuhikaku.co.jp/static/jurist/jurist03.html

ジュリスト増刊 論究ジュリスト(廃刊)

https://www.yuhikaku.co.jp/books/series_search/3008

ジュリスト臨時増刊 重要判例解説(定期購読)

https://www.yuhikaku.co.jp/books/series_search/2091

民商法雑誌(定期購読)

https://www.yuhikaku.co.jp/static/minshoho.html

ビジネス法務(定期購読)

https://www.chuokeizai.co.jp/bjh/

家族<社会と法>(定期購読)

https://www.kajo.co.jp/c/magazine/003

家庭の法と裁判(定期購読)

https://www.kajo.co.jp/c/magazine/006?srsltid=AfmBOorpv7DY1PA1scw73cgTsmhG-CrUdgxCSYrmpBWvJdIN0dgz8f0l

家庭裁判月報(廃刊)

https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000000003971

会社法務A2Z

https://www.daiichihoki.co.jp/store/products/detail/100573.html

金融法務事情(定期購読)

https://store.kinzai.jp/public/item/magazine/A/H/

月刊登記情報

https://store.kinzai.jp/public/item/magazine/A/T/

月報司法書士(無料公開)

https://www.shiho-shoshi.or.jp/gallery/monthly_report/

司法研修所論集(定期購読)

https://hosokai-books.com/?pid=182867335

私法(私法学会学会誌)(定期購読)

https://japl.jp/publications/

私法判例リマークス(定期購読)

https://www.nippyo.co.jp/shop/search?series=233

時の法令(廃刊)

https://www.westlawjapan.com/solutions/products/westlaw-japan/tokinohorei/

速報判例解説(新・判例解説Watch)

https://www.nippyo.co.jp/shop/search?series=322

登記研究

https://www.teihan.co.jp/search/g17615.html

月刊不動産(無料公開)

https://www.zennichi.or .jp/magazine/

LIBRA(東京弁護士会)(無料公開)

https://www.toben.or.jp/message/libra/

NBL(定期購読)

https://www.shojihomu.co.jp/publishing/subscription_now?category=2&sub_category=7

アディクションと家族(廃刊)

https://society.iff.or.jp/news23-12-01/

こころの科学(定期購読)

https://www.nippyo.co.jp/shop/magazines/backnumber/6.html

季刊Be!(定期購読)

https://www.ask.or.jp/article/619

 

 

ここでは具体的な書名はあげませんが、警察官向けに発行している部内用書籍も収集し続けています。

 

私が部内用資料を収集していたことが、捜査機関の捜査を違法と認定することに繋がった事例として、最高裁令和4年4月28日刑集第76巻4号380頁があります。私が第一審で国選弁護人を務めて違法捜査の認定を獲得し、高裁の弁護人には部内用資料を提供して無罪判決に繋げました。最高裁判所で逆転有罪となりましたが、重要な先例となっています。

 

最高裁判所判例集事件番号
令和3(あ)711

事件名
覚醒剤取締法違反被告事件

裁判年月日
令和4年4月28日

法廷名
最高裁判所第一小法廷

裁判種別
判決

結果
破棄自判

判例集等巻・号・頁
刑集 第76巻4号380頁

原審裁判所名
福岡高等裁判所

原審事件番号
令和3(う)25

原審裁判年月日
令和3年4月27日

判示事項
強制採尿令状の発付に違法があっても尿の鑑定書等の証拠能力は肯定できるとされた事例

裁判要旨
被疑者に対して強制採尿を実施することが「犯罪の捜査上真にやむを得ない」場合とは認められないのにされた強制採尿令状の発付は違法であり、警察官らが同令状に基づいて強制採尿を実施した行為も違法であるが、警察官らはありのままを記載した疎明資料を提出して同令状を請求し、裁判官の審査を経て発付された適式の同令状に基づき強制採尿を実施したもので、その執行手続自体に違法な点はなく、「犯罪の捜査上真にやむを得ない」場合であることについて、疎明資料において、合理的根拠が欠如していることが客観的に明らかであったというものではなく、また、警察官らは直ちに強制採尿を実施することなく被疑者に対して尿を任意に提出するよう繰り返し促すなどしていたなど判示の事情(判文参照)の下では、強制採尿手続の違法の程度はいまだ重大とはいえず、同手続により得られた尿の鑑定書等の証拠能力を肯定することができる。

参照法条
刑訴法1条、刑訴法99条1項、刑訴法102条1項、刑訴法218条1項、刑訴法222条1項、刑訴法317条

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=91131

(控訴審判決)

裁判年月日 令和 3年 4月27日 裁判所名 福岡高裁 裁判区分 判決
事件番号 令3(う)25号
文献番号 2021WLJPCA04276008

【3 当裁判所の判断
原判決の前記2(1)の事実認定については,括弧書きで指摘した点を除き誤りはない。しかし,本件鑑定書等の証拠能力についての原判断は是認することができない。
(1) 本件強制採尿令状発付の要件充足性について
警察官らは,被告人に覚醒剤譲渡の嫌疑があることから,覚醒剤自己使用の嫌疑もあるという考えの下,被告人と接触せず,任意採尿の説得等を行うことなく,事前に本件強制採尿令状の請求をしているところ,原判決は,覚醒剤自己使用の嫌疑は肯定した上で,犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められる場合には当たらないことを理由に,本件強制採尿令状が発付の要件を欠く違法なものであったと判断している。しかし,そもそも被告人に対し覚醒剤自己使用の嫌疑があったとはいえないから,まず,この点において,本件強制採尿令状は発付の要件を欠いていたというべきである。以下,所論も踏まえて述べる。
ア A警部の原審証言によれば,本件において被告人方等の捜索差押許可状及び強制採尿令状請求の疎明資料として提出されたものは,前記捜査報告書(原審甲14,甲6ないし12)のほか,令和元年10月11日付け「覚せい剤取締法違反被疑事件捜査報告書」(被告人方等の捜索差押えの必要性に関するもの。原審甲13〔参考人の特定事項,供述要旨,譲受場所等を除く抄本〕),被告人から覚醒剤の譲渡を受けたという参考人の供述調書(被告人の面割りに係る供述調書を含む。),譲受場所についての参考人の引き当たり捜査報告書,医師に対する採尿依頼の電話筆記等であったと認められる。
イ A証言によれば,参考人は,令和元年7月26日に大麻取締法違反で現行犯逮捕された後,覚醒剤の自己使用を自認し,その尿から覚醒剤も検出されたこと,参考人は,被告人からその覚醒剤を買ったと供述し,写真面割りにおいて被告人を抽出し,引き当たり捜査において譲受場所を特定したこと,参考人の携帯電話機に被告人の登録があったこと,被告人に覚醒剤取締法違反の前科が多数あることが確認されたことが認められる。したがって,被告人には,参考人への覚醒剤譲渡の事実につき,被告人方等を捜索場所とする捜索差押許可状を発付するに足りる嫌疑があったと認められ,その旨の疎明もなされたものと認められる(なお,譲渡の時期については,前記のとおり証拠上明らかでないが,参考人が逮捕された同年7月26日よりは前である。)。
所論は,被告人に覚醒剤譲渡の嫌疑があるのであれば当然に行われるべき捜査等が行われた形跡がないから,覚醒剤譲渡の嫌疑は覚醒剤自己使用について強制採尿令状を取得するための口実にすぎず,そのような嫌疑はなかったという。しかし,上記のとおり参考人の供述について一定の裏付け捜査は行われている。また,A警部は,押収した被告人の携帯電話機の解析ができず,被告人方等から密売を裏付けるような証拠品も発見されなかったことなどから,覚醒剤譲渡について事件送致をしなかったと供述している。そうすると,被告人が同年10月16日に原判示の覚醒剤自己使用の事実によって逮捕された後,覚醒剤譲渡の事実について本格的な捜査がされておらず,事件送致もされていないからといって,警察官らにおいて,覚醒剤譲渡の嫌疑を有していないのに,それを強制採尿令状を取得するための口実にしたという疑いがあるとはいえない。
ウ 一方,原判決は本件強制採尿令状の請求書に記載された犯罪事実について具体的に説示していないが,それは,「被告人が,令和元年10月上旬頃から同月15日までの間に,福岡県内又はその周辺において,覚醒剤若干量を自己の身体に摂取して使用した」旨の事実である(同日付け捜索差押許可状請求書〔原審甲15〕。以下,この事実を「本件覚醒剤使用の犯罪事実」という。)。そして,A証言によれば,同警察官らが本件覚醒剤使用の犯罪事実の嫌疑があると認めた根拠は,被告人から何度か覚醒剤を買ったという参考人の供述によれば,被告人は覚醒剤の密売人であり,令状請求日(令和元年10月15日)の時点でも覚醒剤を取り扱っていることが強く推認されること,覚醒剤の密売人は,覚醒剤を自ら使用して,商品として販売できることを確認する(いわゆる「味見」をする)のが通常であること,また,被告人は覚醒剤取締法違反の前科を多数有していることから,被告人が覚醒剤を自己使用している蓋然性が高い,というものであり,犯行日については,令状請求日を基準とし,覚醒剤の体内残存期間を考慮して設定したものであると認められる。疎明資料もこれに対応しており,前記捜査報告書(原審甲14)には,「『味見』をしなければ密売人として活動することはできないことから,被疑者が自己使用している蓋然性が高い。」との記載があり,犯行日についても,上記のようにして特定した旨記載されている。これに対し,所論は,被告人は覚醒剤の密売人ではないし,密売人は「モルモット」と呼ばれる覚醒剤常習者に味見をさせるのであって,取り扱っている覚醒剤を密売人が自ら使用しているという経験則もないという。
そこで検討すると,警察官らは,本件強制採尿令状を請求する前に被告人と接触するなどしておらず,異常な挙動や新しい注射痕等,被告人が近接した時期に覚醒剤を使用したことを疑わせる徴表があったのかは全く確認されていない。また,参考人の供述は,被告人から何度か覚醒剤を買ったというにとどまっており,参考人への譲渡から少なくとも3か月程度は経過した令状請求の時点においても,なお被告人が密売等をして覚醒剤を取り扱っていることを疑わせる根拠としては薄弱である。仮に被告人が覚醒剤の密売を続けている疑いを認めるとしても,自己使用もしているかどうかは更に不確実になる。原審検察官は,密売人が覚醒剤を自己使用していることは周知の事実であると主張しているが,原審・当審各弁護人は,密売人は「モルモット」に味見をさせると主張して争っており(原審弁護人は,その旨の隠語があるとする文献も援用),周知の事実とはいえない。A警部は,覚醒剤の密売人を14,5人検挙したことがあり,そのうち覚醒剤の自己使用を立件しなかったのは1人だけであると証言しているが,それは個人の捜査経験にとどまる。仮に密売人は自らも使用するという一般的な傾向があるとしても,それは,密売人である被告人は自己使用することがあるだろうという抽象的な疑いを基礎づけるにとどまり,令和元年10月上旬頃から令状請求日(同月15日)までの間に使用したという,具体的な本件覚醒剤使用の犯罪事実の嫌疑を基礎づけるものとはいえない。
以上によれば,被告人が3か月程度前までに参考人に何度か覚醒剤を譲渡した事実に,被告人が多数の覚醒剤前科を有している事実を加えても,本件覚醒剤使用の犯罪事実について,強制採尿令状を発付するに足りる嫌疑があったとは到底認められず,もとよりその疎明もなかったというべきである。このことは,強制採尿が身体への侵入行為であり,屈辱感等の精神的打撃をもたらし得るものであること(その令状によって被疑者を採尿場所に強制的に連行することも可能である。)に鑑みると,一層明らかである。
これと異なる原判断は不合理であって,是認することができない。
エ さらに,強制採尿は,原判決も説示するように,犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められる場合に,最終的手段として許されるものであり,この最終的手段としての強制採尿の必要性も強制採尿令状発付の要件である(前掲最高裁昭和55年決定参照)。具体的には,覚醒剤使用の嫌疑のある被疑者に対し,尿の任意提出を求めて説得を試みたものの,被疑者が頑なに拒否している場合など,任意の提出が期待できず,強制採尿によらなければ尿を採取できない状況にあることが必要である。
被告人については,平成20年から平成31年4月の間に,4回尿の任意提出を拒否して強制採尿に至っており,今まで任意採尿に応じたことがないと発言したことや,職務質問の場から立ち去ったこともあった。原審検察官は,これらの事実によれば,本件当時,被告人が任意採尿の説得に応じる見込みは乏しく,逃走のおそれもあったから,上記の要件が認められると主張している(A警部が令状請求に当たって参照した北海道警察本部薬物銃器対策課編著「四訂版覚醒剤事犯捜査のためのQ&A」〔当審検1=弁1〕にも,事前に強制採尿令状を請求することの是非という問いに対する回答として,「被疑者には前刑の捜査においても任意採尿に応ずることなく強制採尿を行った経緯があり,その結果,被疑者の尿から覚醒剤反応が証明されたこと」,「情報提供者等の供述により,『警察の採尿に応じなければ科刑されない。』あるいは,『家の捜索に入られても令状がなければ絶対に尿は出さない。』等と公言している状況があること」等,事前に強制採尿令状の発付を得ていなければ被疑者が捜査を免れてしまい,使用事実を証明することができない者であることを具体的に疎明した上で,令状請求を行うべきである旨の記載がある。)。
しかし,強制採尿が屈辱感等をもたらすこともある身体への侵入行為であることや,その令状の執行に当たり任意提出を促すことなく執行される事態も生じ得ることに照らすと,被疑者の意思が確認できる場合には,現に任意提出に応じる意思のないことが確認されたことを令状発付の要件とすべきであり,その例外を許容するかどうかの判断は厳格になされるべきである。
本件についてみると,被告人が職務質問の場から立ち去ったのは4年前の平成27年であるし,直近の平成31年には覚醒剤は検出されていない。今回の令状請求に特に近接した時点で,任意提出には応じないという発言があったわけでもない(なお,A警部は平成20年より前については犯歴しか把握していなかったが,被告人は,原審において,平成9年と平成12年の覚醒剤使用時には任意提出に応じたと供述しており,反対証拠はない。)。結局,被告人に前記の拒否事例があったとはいえ,今回も拒否するかどうかは説得を試みてみなければ分からないのであり,そうである以上,逃走のおそれは問題とならない。したがって,現に被告人が任意提出を拒否していることが確認されていないのに強制採尿令状を発付することは許されず,最終的手段としての強制採尿の必要性の点でも,本件強制採尿令状の発付は要件を欠いており,これと同旨の結論を述べる原判決は正当である(原判決は「代替手段の不存在」ともいうが,これはカテーテルによる採尿以外の適切な採取方法の存否について用いるのが通例である。)。
(2) 令状執行の適法性について
所論は,本件強制採尿令状の執行に際して,事前の警察官らによる尿の任意提出の説得が不十分であったから,令状の執行にも違法があると主張するが,前記2(1)イの事実によれば,B警部補らによる令状の執行過程自体に違法な点は認められない。
(3) 本件鑑定書等の証拠能力について
ア 所論は,本件では令状主義の大前提である事前の司法的抑制が機能しておらず,本件強制採尿令状の発付の違法性は明白で著しいものであるなどとして,本件強制採尿の手続には令状主義の精神を没却するような重大な違法があり,これによって得られた本件鑑定書等及び前記写真撮影報告書を証拠として許容することは,将来における違法捜査抑制の見地からも相当でない,と主張する。
イ そこで検討すると,所論のうち,警察官らが存在しない覚醒剤譲渡の嫌疑を強制採尿令状を取得するための口実にしたという点,及び令状の執行過程に違法があったという点が採用できないことは,前述のとおりである。しかし,前記(1)のとおり,本件強制採尿令状は,嫌疑の点でも最終的手段としての強制採尿の必要性の点でも要件を欠いているのに発付された違法なものである。本件強制採尿令状につき,令状担当裁判官が実質的な審査をしたとはいえず(A証言によれば,同裁判官からの問合せ等はなかったと認められる。),所論のいうとおり,事前の司法的抑制が機能していないといわざるを得ない。
ウ 一方,令状請求をした捜査機関側に目を向けると,A証言によれば,A警部は,被疑者に接触することなく強制採尿令状を事前に請求しておくことは一般的な取扱いではないという認識であったため,福岡県警察本部薬物銃器対策課の指導係に問い合わせて,過去にそのような事例があるとの回答を得たほか,前記文献(Q&A)も参考にしたことが認められ,疎明資料とした捜査報告書(原審甲14)には,「現場において警察官が被疑者に対し任意採尿の説得を行い,やむを得ない場合に限り,被疑者の身体に対する捜索差押許可状を執行する。」という記載もしている。このように,警察官らは,令状の事前請求の点については,それが一般的な取扱いではないことを意識しつつ,文献等の根拠を求めて,本件ではそれが可能であると判断している。そして,疎明資料とした捜査報告書には,嫌疑の根拠及び事前請求をする理由等につき,ありのままを記載しており,警察官らに令状担当裁判官の判断を誤らせようとする意図はなかったと認められる。B警部補らも,本件強制採尿令状が有効に発付されたものという認識の下に,これを執行している。
しかし,本件では,令状の事前請求という点以前に,犯罪事実の嫌疑の点で問題があるところ,嫌疑についての警察官らの検討は余りにずさんである。前記のとおり,本件覚醒剤使用の犯罪事実の嫌疑があるとする警察官らの主張の中核は,覚醒剤の密売人は品質確認のために自ら覚醒剤を使用している蓋然性が高いという,明確な根拠のない一般論にすぎないし,前提となっている被告人が継続的に覚醒剤を取り扱っているという点についても,その根拠は,近いところでも3か月程度前までの間に参考人に覚醒剤を何度か有償で譲渡したことにとどまる。被告人の同種犯歴を考慮しても,本件覚醒剤使用の犯罪事実の嫌疑は甚だ抽象的なものにとどまることが明らかであり,同事実において,覚醒剤の使用時期を令状請求日から覚醒剤の体内残存期間を遡った期間内としたのは,具体的な使用事実についての嫌疑がないことから,正に便宜的に定めたものといえる。上記のような事情のみで嫌疑を認めて本件強制採尿令状を発付した令状担当裁判官の審査に問題があるのは当然として,そのような甚だ抽象的な理由で強制採尿令状を請求した捜査機関側にも,薬物事犯の捜査に携わる警察官に求められる専門性に照らし,看過し難い落ち度があったというべきである。
また,令状の事前請求の点についても,上記文献は,「強制採尿が許されるのは,覚醒剤を使用している蓋然性が極めて高く,かつ,任意の採尿に応じない被疑者について捜査上真にやむを得ないと認められる場合に限られる」とした上で,事前に強制採尿令状を請求することの是非を論じており,高い嫌疑が認められる場合を前提としたものであって,本件強制採尿令状の請求を許容するようなものではなかった。A警部の判断は,事前請求が一般的な取扱いではないことを認識しながら,上記文献の記載を都合良く解釈して,前記最高裁決定の求める発付要件を不当に拡張したものといわざるを得ない。
エ 被告人方において本件強制採尿令状の執行に着手した時点では,被告人の状況(痩せて頬がこけ,ろれつが回っていなかったことなど)は,近接した時期に覚醒剤を使用したことを示すものであったと認められ,覚醒剤取締法違反の多数の前科等も併せ考慮すると,その時点では,覚醒剤使用の具体的な犯罪事実について,強制採尿令状を発付するに足りる程度の嫌疑があったということもできる。しかし,これは結果論にすぎず,もとより遡って令状発付の要件が充足されることになるものではない。また,被告人方等の捜索中に別途強制採尿令状を請求したとすれば,発付された可能性はあるが(被告人は任意採尿を拒否していた。),必ずしも,その令状の執行までの間,被告人をその場に留め置くことができたとはいえないし(刑訴法112条によっても,被告人の着衣,所持品を捜索した後は,外出を拒むことはできない。),仮に執行できたとしても,採取された尿から確実に覚醒剤が検出されたともいえない。
オ 以上のとおり,本件強制採尿令状は,嫌疑の要件を明らかに欠いており,また,最終的手段としての強制採尿の必要性の要件も欠いていたにもかかわらず発付された違法なものであって,このような令状の執行としての本件強制採尿も違法である。本件強制採尿令状の法規範からの逸脱は甚だしく,かつ被疑者の人権保障の観点からみた上記各要件の重要性に照らせば,この違法は深刻なものである。もっとも,本件強制採尿は裁判官の発付した令状に基づいて,これを有効なものとして実施されており,捜査機関の側に令状主義を潜脱する意図もなかった。しかしながら,本件では,まずは捜査機関によるずさんな,また,不当に要件を緩和した令状請求があり,そこに令状担当裁判官のずさんな審査が加わって,事前の司法的抑制がなされずに令状主義が実質的に機能しなかったのであり,こうした本件一連の手続を全体としてみると,その違法は令状主義の精神を没却するような重大なものというべきである。そして,本件強制採尿手続に係る本件鑑定書等を証拠として許容することは,本件のような違法な令状が請求,発付されて,違法な強制採尿が行われることを抑止する見地からも相当でないと認められる。
(4) 結論
したがって,本件鑑定書等の証拠能力は認められず,これを認めて本件鑑定書等を証拠として採用した原審裁判所の訴訟手続には,刑訴法317条に反する違法がある。そして,前記写真撮影報告書の証拠能力について判断するまでもなく,本件鑑定書等が証拠として採用されなければ,原判示事実を認定することはできないから,この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。
訴訟手続の法令違反をいう論旨は理由があり,量刑不当の論旨について判断するまでもなく,原判決は破棄を免れない。
第2 破棄自判
よって,刑訴法397条1項,379条により原判決を破棄し,同法400条ただし書を適用して,被告事件について更に判決をする。
本件公訴事実の要旨は前記第1の1のとおりであるところ,前記のとおり,同事実については犯罪の証明がないことになるから,刑訴法336条により被告人に対し無罪の言渡しをすることとし,主文のとおり判決する。
福岡高等裁判所第3刑事部
(裁判長裁判官 半田靖史 裁判官 三芳純平 裁判官 設樂大輔)】

 

吉戒純一・法曹時報76巻4号(2024年4月号)161-197頁

173頁

【しかし、被疑者が尿の任意提出に応じ得る状態にある場合には、(例外的な場合を除き)被疑者に対する説得を尽くすことが必要であるとするのが一般的な見解である(注16)。他方、本件強制採尿令状の請求に当たりA警部が参照した(刑集76巻4号447頁参照)北海道警察本部薬物銃器対策課編著『四訂版覚醒剤事犯捜査のためのQ&A』には、被疑者に直接面接することなく事前に強制採尿令状を請求(事前請求)することにつき、昭和55年決定で付された条件に加え、当該被疑者が覚醒剤使用事実に関し、任意捜査では採尿に応じず、事前に同令状の発付を得ていなければ被疑者が警察の捜査を免れてしまい、使用事実を証明することができない者であることを具体的に疎明した上で令状請求を行うべきである旨記載されているが、部内用の資料であり、その他に事前請求の許否について論じた裁判例や文献等は見当たらない(注17)。】

 

ひと筆 私が古い法律書を買い集める理由(鐘ケ江啓司)自由と正義 2021年Vol.72 No.10[9月号]

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