窃盗事件で、被害者が被害弁償を拒絶する場合の供託の手法(万引き、刑事弁護)
2025年05月17日刑事弁護
承知しました。初犯の窃盗事件で、被害者が被害弁償に応じない場合における法務局への供託手続について、法務局の公式ホームページも参照しながら、一般の被疑者向けに専門的かつ具体的に解説します。また、被害額の特定に関する問題(店舗主張額と本人認識額の相違)にも焦点を当て、ドラッグストアでの事例を踏まえた解説記事として構成します。
調査が完了しましたら、約5000字相当の構成案と本文案をご提案いたしますので、しばらくお待ちください。
被害者に弁償金を拒否された場合の供託による被害弁償
万引き事件と被害弁償の重要性
店舗で万引き(窃盗)をしてしまった場合、被害店舗への謝罪と被害弁償(盗んでしまった物の代金を支払うこと)は、事件後の処分を左右する重要な要素になります。特に、個人の財産が被害に遭う犯罪では、被害額の補填や被害者の感情の宥恕(ゆうじょ)が量刑上重視されるためです。通常、加害者(被疑者)が反省の意思を示して被害者に弁償金を支払い、示談が成立すれば、不起訴処分や執行猶予判決になる可能性が高まります。
しかし、本件のように被害者(店舗側)が謝罪や被害弁償の受取りを拒否するケースもあります。ドラッグストアで約3万円相当のサプリメントを盗んだ初犯の被疑者が、「お店の方針で弁償金は受け取れない」と断られてしまった場合、被疑者としては何とか自分の誠意を示し、被害額を弁償したいと考えるでしょう。このような場合に有効な方法として検討されるのが**「供託」という制度です。供託を利用すれば、被害者に直接お金を受け取ってもらえなくても、法務局に金銭を預けることで被害弁償と同様の法律効果**を生じさせ、被害額を用意した事実を示すことができます。以下では、供託の法的根拠や具体的手続、注意点について、法務局の公式見解も引用しながら専門的かつ分かりやすく解説します。
供託とは何か(法的根拠と効果)
供託(弁済供託)とは、債権者(被害者)が金銭の受領を拒んだり受け取れない場合に、債務者(加害者)がその金銭を法務局の供託所に預け入れることで債務を免れることができる制度です。民法第494条で定められた仕組みであり、供託をすると債務者が供託をした時に債権(損害賠償債務)は消滅します。つまり、被害者がその場でお金を受け取らなくても、法律上は弁済(支払い)があったのと同じ効果が生じるのです。
ただし、供託をするためには法律上いくつかの条件があります。最大の条件は「弁済の提供」と「受領拒否」です。すなわち、一度は被害者に対して債務の本旨に従った弁済(金銭の支払い)を申し出ていること、そして被害者がそれを拒絶したことが必要です。何の働きかけもなく一方的に供託することは認められません。「弁済の提供」とは簡単に言えば「お金を支払いますので受け取ってください」と申し出る行為です。被害者の連絡先が分からない場合には、警察・検察を通じて申し出る(検察官に依頼して被害者に受領意思を確認してもらう)方法もあります。いずれにせよ、被害者に支払いを申し出て拒否されるというプロセスを経て初めて供託手続に進めます。
もう一つ重要な条件は**「全額の提供」であることです。被害額の一部だけを支払う申し出**(例えば被害額3万円のところ1万円だけ差し出す等)では「債務の本旨に従った弁済」には当たらず、供託の要件を満たせません。したがって供託を行う際は、損害賠償債務の全額を用意する必要があります。さらに、不法行為に基づく損害賠償の場合は法定利息分も債務に含まれます。民法上、不法行為による損害賠償には事故の日の翌日から支払いまで年5%(2020年4月1日以降の事故は年3%)の遅延損害金が発生します。そのため供託時には元の被害額(元金)だけでなく、供託する日までの遅延損害金も合わせて納めなければ受理してもらえません。
以上の条件を満たして正しく供託を行えば、法的には加害者は被害額を支払ったのと同じ状態となり、被害者は後日供託所(法務局)から供託金の還付請求をすることでそのお金を受け取ることができます(逆に被害者が請求しなければ、供託金は一定期間後に加害者へ取戻しとして返還請求することも可能です。これについては後述します)。供託は被害者との直接の示談が成立しなかった場合のセーフティーネットとして、加害者ができる誠意の示し方の一つと言えるでしょう。
供託手続の流れ
それでは、実際に供託を利用して被害弁償をする場合、どのような手順を踏むことになるのか、順を追って説明します。手続の概略は以下のとおりです。
- 弁済の提供と受領拒否の確認:まずは被害者に対し、盗んでしまった物の代金(被害額)と遅延損害金を支払う申し出(弁済の提供)を行います。本件のように被害者と直接連絡が取れない場合、弁護士を通じて検察官に依頼し、**「○○円を支払いたいが受け取ってもらえないか」**と被害者に打診してもらう方法が考えられます。それでも被害者から「受け取らない」と拒否の回答があったら、その事実(受領拒否)が供託の前提条件となります。
- 供託所(法務局)の選定:供託は債務の履行地を管轄する供託所で行う必要があります。一般に金銭債務の履行地は債権者(被害者)の住所地とされます。そのため、被害者の住所地を所管する法務局の本局または支局が供託を取り扱う「供託所」となります。例えば被害店舗が福岡市内にあり被害者(法人)の本店所在地が福岡市であれば、福岡法務局が管轄となる可能性が高いでしょう。被害者の詳細住所が不明な場合でも、市区町村名まで判明していればその地域を管轄する法務局に供託できます(住所の番地以下不明の場合は供託書に「○○市○○区以下不詳」と記載し、事件番号等で被害者を特定する方法があります)。
- 供託書(供託申請書)の入手と作成:供託手続に必要な用紙類は供託所(法務局)で入手できます。近年はオンライン申請も可能ですが、一般の方であれば窓口で用紙をもらって記入するのが確実でしょう。記入すべき主な事項は以下のとおりです。
- 供託者:加害者(被疑者)の氏名・住所
- 被供託者:被害者(被害店舗担当者等)の氏名・住所
- 供託の原因となる事実:損害賠償が発生した経緯(事件の概要)、供託者が相当と考える損害賠償額、そして**「〇年〇月〇日に現実に弁済を提供したが被害者に受領を拒絶された」**という事実を具体的に記載します。
この「原因たる事実」欄の記載は非常に重要で、民法494条の定める受領拒否の要件を満たしたことを明確に示す必要があります。例えば「〇年〇月〇日、被害店舗店長Aに対し本件被害額○○円を支払う申し出をしたが、店舗方針により受領を拒否されたため」といった具合に、いつ・誰に・いくら支払おうと申し出て拒否されたかをはっきり書きます。
なお、金額については被疑者である自分が「相当と考える損害賠償額」を書くことになります。多くの場合は被害者が主張する被害額と一致するでしょうが、詳細は後述する「被害額の確認」の項で解説します。
- 供託金の納付:供託書が作成できたら、実際に供託金(被害額+遅延損害金)を納めます。納付方法は供託所によって若干異なるため、受付窓口で指示を仰いでください。多くの場合、供託所の窓口で供託書を提出し審査を受けた後、その場で現金を納付するか、あるいは指定の金融機関で振込等の手続きをする形になります。事前に法務局に問い合わせておけば、どの供託所で手続すべきか、供託金は窓口で支払えるのか銀行振込になるのかなど詳しく教えてもらえます。納付すべき金額は、被害額の全額+遅延損害金です。遅延損害金は日割り計算になりますので、供託所で計算方法を確認して正確な額を用意しましょう。供託金を納付すると、後日「供託書正本」や供託金の領収証書(金銭の預り証)が交付されます。
- 供託完了後の対応:供託が完了したら、その旨を捜査機関・裁判所に伝えることが肝心です。具体的には、警察や検察官に対して供託書の写し(コピー)や領収証書を提出し、「〇月〇日付けで○○法務局に○○円を供託した」ことを証拠として示します。これにより、「被疑者が被害弁償の意思と実行力を示した」ことが客観的に証明できます。供託をした事実は示談成立と同様、検察官や裁判官が処分を判断する際に考慮されます。そのため、できれば弁護士にも依頼して供託の経緯や趣旨をまとめた意見書を作成・提出してもらえると尚良いでしょう。
供託する際の注意点
上記の手順を踏めば供託自体は可能ですが、実務上いくつか注意すべきポイントがあります。
- 供託書の記載の厳密さ:前述のとおり、供託書の「原因たる事実」欄には受領拒否の状況を具体的に書く必要があります。記載不備があると供託所で受理されない可能性もあります。また、被害額と遅延損害金は区別して明記し、合計額を供託します。例えば被害額が30,000円で3ヶ月遅延(年3%の場合約225円の利息)なら、「損害賠償額30,000円、遅延損害金225円」のように内訳を記載します。書き方に不安がある場合は、法務局の担当者に事前に草案をFAX等で送ってチェックしてもらうことも可能です。
- 供託先の法務局の事前確認:どの法務局(供託所)に供託するか、供託金の納付方法(現金持参か銀行振込か)などは局によって運用が異なる場合があります。遠方の供託所だと不備があった際に出直しになるリスクもありますから、提出予定の供託所に事前に電話で確認・相談しておくことを強くお勧めします。法務局の窓口も供託の相談には慣れていますので、丁寧に教えてくれるでしょう。
- 被害者の住所が不明な場合:加害者側から被害者の詳しい住所が分からないと供託できないのでは、と不安になるかもしれません。しかし上記のように、事件を担当する検察官経由で被害者の市区町村までの住所を教えてもらえるケースがあります。市区町村名さえ分かれば供託書には「〇〇市〇〇町以下不詳」と書いて受理してもらえる例もあります。さらに供託書の備考欄に「被供託者は〇〇事件の被害者である」等と事件番号などを書き添えることで、被供託者(被害者)の特定を補助します。このように工夫すれば被害者の詳細住所が不明でも手続可能な場合がありますので、弁護士に相談しつつ対応しましょう。
- 供託金の取戻しと放棄:一旦供託が受理されると、法的には債務は消滅していますが、被害者が供託金を引き出さない限り、お金は法務局に預けられたままです。加害者(供託者)は後日になって供託金を取り戻す(返還請求する)ことも可能ですが、通常は刑事処分が決まるまでは取戻請求はしません。処分確定前に引き上げてしまっては「結局返してもらうのか」と心証が悪くなるためです。むしろ、加害者側が「供託金を自分はもう受け取らない」つまり取戻請求権を放棄することもできます。放棄しておけば、被害者が受け取らない限り供託金はずっと法務局に保管され、加害者は引き出せなくなります。そこまでしておけば一層、加害者の真摯な姿勢が伝わるかもしれません。ただし放棄してもしなくても、被害者が供託金を受け取るかは被害者の自由であり、放棄したから自動的に被害者に振り込まれるわけではない点には注意が必要です。
被害額の確認と供託金額の設定
供託を行うにあたって最も肝心なのは、正確な被害額を把握し、その全額を供託することです。前述のとおり、一部のみの弁済提供では供託は認められません。しかし現実には、「被疑者が認識している被害額」と「被害者(店舗側)が主張する被害額」が食い違うケースもありえます。例えば万引きの場合、被疑者は「定価で合計3万円くらいだろう」と思っていても、店舗側は防犯ゲートの記録等から「実際は3万5千円相当の商品が盗まれていた」と主張するかもしれません。こうした食い違いを放置したままでは、供託すべき金額を正確に定めることができません。
対応策として、被害額の根拠をしっかり確認することが重要です。防犯カメラの映像で盗まれた商品の点数や種類をチェックしたり、レジの販売記録から該当商品の価格を調べたりして、客観的な証拠に基づく被害額を確定させましょう。警察もそうした証拠は押さえているはずなので、弁護士を通じて捜査機関に確認してもらうのも有効です。被害品が全部返品されている場合は実損がないようにも思えますが、通常は商品の販売価格(税込)を基準に賠償額が算定されます。店舗によっては防犯の費用等を含め請求してくることも考えられますが、一般的には商品の価額相当額が被害額となるでしょう。
万一、被害者側の請求額が実際より高すぎると感じる場合、供託者としては自分が「相当」と考える金額を供託することも法的には可能です。しかしその金額が明らかに低すぎると、被害者の感情を逆なでして逆効果になるおそれがあります。示談交渉であれば金額の折衝もできますが、供託では一方的に金額を積むしかありません。刑事事件における供託金額にはある程度の相場もありますから、著しく不十分な額では誠意が伝わらず、むしろ被害者を憤慨させてしまう可能性もあります。したがって、多少自分の認識より高いと感じても、被害者が主張する額を満たす金額を供託しておく方が無難です。後で過剰だった分を返してもらうことも一応できますが(供託金の一部取戻し手続きはあります)、刑事事件においては少し多めでも十分な金額を供託する方が情状的に有利になると考えられます。迷った場合は弁護士と相談し、適切な供託額を決定すると良いでしょう。
供託による情状への影響
供託によって被害額相当の金銭を預けることは、被害者と直接示談が成立した場合と近い意味を持ちます。すなわち、加害者が反省し、経済的な償いを果たそうとしている事実が客観的に示されるため、検察官や裁判官に与える印象は確実に良くなります。実際、被害者に賠償金を受け取ってもらえれば、不起訴処分や執行猶予判決の可能性が上がるのは間違いありません。供託は被害者が受領を拒んだ場合の次善策ではありますが、供託という形でも被害弁償がなされたことは情状面で大いに評価されるでしょう。特に初犯で盗んだ物の金額も大きくないケースでは、供託により被害回復の意思を示せれば不起訴や起訴猶予(起訴されずに済む)につながる可能性も十分あります。
もっとも、供託をしたからといって絶対に不起訴や減刑になると保証されるわけではありません。にもあるように、最終的な処分判断では被害弁償の有無以外にも犯行の悪質性や動機、前科の有無、反省状況など様々な事情が考慮されます。供託はあくまで「情状を良くするための一材料」ですが、それでも重要な事情であることに変わりはありません。供託を行った事実はしっかり証拠として提出し、併せて反省文や上申書を用意するなど、他の情状面のアピールも行うことが大切です。
まとめ
万引きなどの事件で被害者が示談や被害弁償に応じてくれない場合でも、法務局への供託という方法で加害者の弁償意思と準備した賠償金を形に残すことができます。で示された民法の要件を満たす必要はありますが、正しく供託が完了すれば法律上は弁済と同じ効果が認められ、加害者に有利な情状として考慮され得ます。にあるように供託による被害弁償は刑事弁護上有効な活動の一つです。実際の供託手続には細かな書式の記載や管轄の確認など注意点も多く、慣れない方にはハードルが高いかもしれません。迷った場合は早めに弁護士に相談し、供託の手続やその他の示談交渉も含めた対応策について助言を受けることをお勧めします。被疑者の真摯な行動と適切な法的手続きによって、少しでも有利な結果を導けるよう準備しましょう。