友人からもらったサプリメントが、違法薬物だったという相談(大麻、刑事弁護)
2024年01月27日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は福岡市に住む20代会社員です。大学時代の友人と再会して盛り上がったのですが、その時、友人から「並行輸入したサプリメント」ということで錠剤をもらいました。友人は特に変な仕事をしているわけではないですし、ダイエット効果もあるということで飲んでみたところ、体調が良い感じなので、私から売って欲しいといって買いました。ところが、先日警察が自宅に来て、サプリメントの中に大麻成分が入っていて、違法薬物だったと聴きました。違法薬物であれば絶対に手を出していなかったです。どうすれば良いでしょうか。
A、弁護人をつけて、違法薬物という故意がなかったことを示すことが有用と考えます。
※大麻施用罪は令和6年12月12日施行です。
【解説】
大麻施用罪が新設されたことにより、今後、大麻事案についても覚醒剤取締法違反事件と同様の取扱いがなされることが予想されています。相談事例は、良くあるパターンです。違法薬物所持案件については、所持した薬物が、違法薬物であるという「故意」があったか否かが問題になります。そして、この故意については、判例上きわめて広範に解釈されており、具体的な薬物名を知らなかったとしても「(当該薬物を含む)身体に有害で違法な薬物類」であることの認識があれば故意が認められています。そのため、警察は「違法薬物【かもしれない】と思った」という自白を取ろうとしてきます。
これに対しては、しっかりと反論していくことが必要ですし、故意がないことを示す事情を指摘していくことが大事です。下記論文では、故意の認定について、消極方向に働く事実、積極方向に働く事実を分析して、整理しています。警察や検察に提出する意見書、あるいは公判で述べる弁論要旨作成の参考になるでしょう。これは経験豊富な弁護人でなければ判断が難しいので、弁護人に依頼する場合は、薬物事犯の知識・経験が豊富な弁護士を選ぶことが大事です。
【参考リンク】
令和6年12月12日に「大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律」の一部が施行されます
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_43079.html
厚生・労働2024年06月19日
大麻草から製造された医薬品の施用等の可能化・大麻等の不正な施用の禁止等に係る抜本改正
~大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律~ 令和5年12月13日公布 法律第84号
法案の解説と国会審議
執筆者:木村歩
https://www.sn-hoki.co.jp/articles/article3567820/
【(2)大麻等の施用等の禁止に関する規定・罰則の整備
① 大麻等を麻薬及び向精神薬取締法上の「麻薬」に位置付けることで、大麻等の不正な施用についても、他の麻薬と同様に、同法の禁止規定及び罰則を適用する。
なお、大麻の不正な所持、譲渡し、譲受け、輸入等については、大麻取締法に規制及び罰則があったが、これらの規定を削除し、他の麻薬と同様に、「麻薬」として麻薬及び向精神薬取締法の規制及び罰則を適用する(これに伴い、法定刑も引上げ)。】
【参考判例】
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=57875
事件番号
平成1(あ)1038
事件名
覚せい剤取締法違反、関税法違反
裁判年月日
平成2年2月9日
法廷名
最高裁判所第二小法廷
裁判種別
決定
結果
棄却
判例集等巻・号・頁
集刑 第254号99頁
原審裁判所名
東京高等裁判所
原審事件番号
原審裁判年月日
平成元年7月31日
判示事項
覚せい剤輸入罪及び所持罪における覚せい剤であることの認識の程度
裁判要旨
参照法条
刑法38条1項,覚せい剤取締法41条1項1号,覚せい剤取締法13条,覚せい剤取締法41条の2第1項1号,覚せい剤取締法14条
【所論にかんがみ、職権により検討する。原判決の認定によれば、被告人は、本件物件を密輸入して所持した際、覚せい剤を含む身体に有害で違法な薬物類であるとの認識があったというのであるから、覚せい剤かもしれないし、その他の身体に有害で違法な薬物かもしれないとの認識はあったことに帰することになる。そうすると、覚せい剤輸入罪、同所持罪の故意に欠けるところはないから、これと同旨と解される原判決の判断は、正当である。】
※刑法
(故意)
第三十八条 罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。
2 重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない。
3 法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。
https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045#Mp-Pa_1-Ch_7
【参考文献】
粟田知穂「刑事事実認定マニュアル 第13回故意(その2)~錯誤論・薬物事犯の故意」警察学論集76巻7号(2023年7月号)169頁
171頁
【(1)違法性の認識
① 隠匿態様
② 入手形態(時刻・場所・相手・態様)、組織(共犯者)によ
る指示・依頼内容
③ 価格・報酬・費用
④ 発覚時の言動等
(2)薬物類との認識(①~④に加え)
⑤ 対象物の大きさ、重量、形状、感触等
⑥ 共犯者・入手先とのやり取り(説明内容、不審点等)
⑦ 職業・経歴
③ 被告人の弁解内容
⑨ その他(注射器等との一括所持、使用時の体感等)】
警察学論集76巻7号(2023年7月号)