置き引きがバレて、交番に連れていかれたが、前歴になるかという相談(置き引き、刑事弁護)
2024年11月30日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は、福岡県福岡市に住んでいる20代の会社員男性です。長期休暇が取れたので、東京観光に行くことにしました。浅草寺の仲見世通りを歩いていたところ、紳士用の財布が落ちている野を見つけました。「これだけ人が多いなら、持っていってもわからないかもしれない」と咄嗟に考えて拾って、バッグの中にしまいました。その後、浅草寺にお詣りをして、出て行こうとしたところで、警察官から「ちょっとお話訊かせて頂けますか。」と声をかけられて、財布を拾って着服するつもりだったことを認めました。交番に連れて行かれて、捕まるかと思ったのですが、しばらく座っていると、提出書というものに記載するように言われて、そのまま帰されました。「前歴」になるのでしょうか。
A、法律論としては、占有離脱物横領罪又は窃盗罪が成立する事案ですが、警察が遺失者の意向を確認した上で、事件として「立件」しなかったのだと思われます。その場合は、「前歴」としては残らないでしょう。早めに見つかったことは幸いでした。
【解説】
一般常識の部類ですが、警察は認知した全ての犯罪を捜査しているわけではなく、告訴・告発等がない事件については、捜査の必要性を考慮して、刑事事件として「立件」すべき案件か否かを判断しています。想定事例についていえば、犯人の自白があるといっても、短時間であり「届出をする意思」があったという弁解があれば窃盗罪又は占有離脱物横領罪としての事件化が困難ということがあったのかもしれませんし、あるいは被害者が被害届の提出までは望んでいないといったことがあったかもしれません。理由は色々と考えられるところですが、どちらにしても捜査に着手している案件ではありませんので「前歴」は残りません。地域警察官の職務質問技術は常に研究が重ねられていますし、浅草警察署では「地域課特命班」も発足したようですから、こういった事案もあり得るかもと思います。
令和06年度 第1回
令和06年06月13日 午後04時00分 午後05時10分
浅草警察署協議会 議事概要
https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/about_mpd/shokai/kyogikai/kyogikai.files/asakusa.pdf
4 地域警察活動状況について
(1)110番通報
人流増加の影響により、昨年同期と比較して増加
(2)特命班の成果
ア 本年2月「地域課特命班」発足
イ 薬物事犯、銃刀法違反等を連続して検挙
警察官職務執行法
https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000136
(質問)
第二条 警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる。
【参考文献】
刑事法令研究会編『刑事警察質疑応答集』(東京法令出版,2008年3月)5395頁
【刑訴法189 条2項は、「司法警察員は、犯罪があると思料するときは、犯人及び証拠を捜査するものとする。」と定めている。ここに「捜査するものとする」とは、捜査をしなければならないという意味でも、捜査をするかどうか自由であるという意味でもなく、捜査をする建前であるという意味であり、したがって捜査をしないことも特別の事情があれば許されるとされ(ポケット刑訴法、337 ページ)、いかなる軽微な犯罪であってもすべてこれを捜査しなければならないという絶対的義務を課している規定ではなく、そこに司法警察職員の合理的な裁量の余地を残している趣旨と解されている(宮下・遂条解説I 26 ページ、団藤・条解343ページ参照)。したがって古物営業法に規定する帳簿不記載等の犯罪は、特に悪質なものを除いては、これを刑事事件として立件するよりも、行政処分による方がより適切に法の目的に合すると認められるような場合には、その犯罪を発見しても、警察の合理的な判断によって捜査を行なわないことができると解される】
城祐一郎『捜査・公判のための実務用語・略語・隠語辞典』(立花書房,2011年9月)133頁
【立件(りつけん) (実務用語)
検察官等が事件を認知し.受理手続をすること。また.より一般的に捜査機関が刑事事件を発見し.捜査に着手することをも指す。】