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薬院法律事務所

企業法務

職場・店舗で盗撮が発覚した時の企業対応ガイドライン~被害者へのケア~(ChatGPT4.5作成)


2025年05月18日労働事件(企業法務)

はじめに:盗撮事件への企業対応と被害者保護の重要性

職場や店舗で盗撮(盗撮:本人の許可なく密かに人を撮影する違法行為)が発覚した場合、企業には迅速かつ適切な対応が求められます。更衣室やトイレなどプライベート空間に仕掛けられた隠しカメラの発見は、被害者のプライバシーを深刻に侵害し、企業の信頼も揺るがす一大事です。実際、盗撮事件は年々増加傾向にあり、全国での摘発件数は直近で約8,300件と過去最多を更新しています。被害を最小限に抑え二次被害を防ぐためには、初動対応から被害者ケア、その後の再発防止策まで一貫して適切に行うことが不可欠です。

本記事では、人事・法務担当者向けに、盗撮事件発覚時の正しい初動対応、被害者への手厚いケア、企業の法的責任や加害者社員への処分、再発防止策に至るまで、被害者の二次被害拡大防止の観点を貫いて詳しく解説します。専門用語は補足説明を交えつつ、読みやすい形で整理しています。万が一の備えとして、ポイントを順に確認していきましょう。

初動対応:発覚直後にまず取るべき行動

盗撮が発覚した瞬間の初動対応が、その後の被害拡大防止と捜査の成否を左右します。焦らず落ち着いて、以下のポイントを確実に実行しましょう。

  • 加害者の確保・隔離: 盗撮行為の現場を押さえた場合は、まず加害者(犯行を行った人物)がその場から逃げたり証拠を隠滅したりしないように確保します。店内で客が盗撮していた場合も、可能なら店員が声を掛けて引き留め、速やかに警察に引き渡せるよう対応します。社内の犯行であれば、加害者を別室に待機させるなど被害者と直接接触させない措置が重要です(※行為者と被害者を引き離す措置)。
  • 警察への通報・報告: 盗撮は各都道府県の迷惑防止条例違反や2023年施行の「性的姿態撮影等処罰法」(いわゆる撮影罪)に該当する明確な犯罪です。ためらわず110番通報し、速やかに警察に来てもらいましょう。警察への連絡は企業の社会的責任としても重要です。被害者本人が戸惑っている場合でも、後述のように二次被害を防ぐ配慮をしつつ、適切に説得して被害届の提出や捜査協力を得られるよう努めます。
  • 証拠の保全: 犯行に使われたカメラ機材や記録媒体(スマホ、隠しカメラ、SDカードなど)は貴重な証拠です。決して電源を切ったり中身をのぞいたりせず、そのままの状態で押収します。周囲の人が好奇心で触れてしまうと指紋やデータが消えてしまう恐れがあるため、速やかにビニール袋に入れるなどして保存してください。実際に社内トイレで発見された隠しカメラのケースでも、最初に見つけた従業員が上司に報告した際、周囲が騒然となり複数人がデバイスに触れてしまった例があります。こうした証拠の荒らされは後の犯人特定を困難にするため、「触らない・動かさない・その場を保全」が鉄則です。可能であれば写真撮影やメモで状況を記録し、警察に引き渡すまで厳重に保管します。
  • 被害者への配慮と対応: 初動段階から被害者への配慮を欠かさないことが、二次被害を防ぐ大前提です。盗撮被害に遭った従業員や顧客は強いショックを受けています。まず人目のつかない落ち着ける場所へ案内し、安心させてください。可能なら同性の担当者や信頼できる上司に付き添ってもらい、毛布や飲み物を用意するなど身体的にも精神的にもケアします。決して被害者を責めたり、無神経な質問をしたりしないよう注意し、「あなたのせいではない」ことを伝えましょう。プライバシー保護のため、必要以上に周囲に情報を広めないようその場の従業員にも伝達します(詳細は後述)。

以上が発覚直後の基本対応です。初期対応を誤ると、犯人に逃げられたり証拠が失われたりするだけでなく、被害者にさらなる苦痛を与える結果にもなりかねません。実際、ある企業では発覚後に適切な初動対応と真摯な被害者対応を行ったことで被害拡大を防ぎ、信頼回復に繋げた事例があります。反対に対応が遅れ事実関係の把握や処分が曖昧になると、後から企業の責任が問われる可能性もあります。まずは冷静に上記ポイントを実践し、被害者の安全確保と証拠保全を最優先してください。

被害者へのケア:プライバシー保護とメンタルサポート

盗撮事件の被害者へのケアは、企業が最も重視すべき対応のひとつです。被害者は自分の知らないところでプライバシーを侵害され、大きな不安や怒り、羞恥心に苛まれています。企業として被害者の心身のケアに万全を期すことで、二次被害(最初の対応不足によって生じるさらなる被害)を防ぎ、被害者が安心して働き続けられる環境を整える責任があります。

プライバシー保護と言葉の配慮

まず、被害者のプライバシー保護を徹底します。盗撮被害の内容や映像データは極めてセンシティブであり、漏えいすれば被害者に計り知れない二次被害を与えます。警察の捜査範囲以外で映像を安易に視聴・複製しないのは当然として、社内においても知る必要のない人に情報が広まらないよう厳重に管理してください。例えば、「○○部署で盗撮事件発生」と社内メールで全社員に周知するのは避け、被害者特定につながる情報は限定的に扱います。懲戒処分の周知などが必要な場合でも、被害者名は伏せるなど匿名化に努めましょう。

被害者への聞き取りや報告対応の際も、言葉選びに細心の注意を払います。決して「なぜ気付かなかったのか」「大げさに騒がないで」など被害者を責めるような発言をしてはいけません。被害者の感じている恐怖や不安に共感し、「あなたに非はない」「会社として全力でサポートする」と伝えることが重要です。社内調査で事実関係を確認する場合も、何度も被害状況を語らせることがないよう配慮します。必要な聞き取りは一度で済むよう工夫し、女性被害者であれば女性の担当者が同席するなど、心的負担を軽減する取り組みをしてください。

メンタルヘルスケアと就業上の配慮

被害者の心のケアにも力を入れましょう。盗撮被害は精神的ショックが大きく、PTSD(心的外傷後ストレス障害)や適応障害などメンタル不調を引き起こす恐れがあります。必要に応じて専門のカウンセリングを受けられるよう手配したり、企業の産業医やカウンセラーとの面談機会を設けたりします(※産業保健スタッフ等によるメンタルヘルス相談対応)。被害者が希望すれば、信頼できる家族や友人の同席も検討してください。

また、就業環境の配慮も欠かせません。被害直後は心身の負担から仕事を続けるのが難しい場合もあります。医師の診断書が出れば労災(後述)や有給休暇の取得も含め休業を認め、休職制度の活用も検討します。復職にあたっては短時間勤務や業務内容の配慮、在宅勤務の許可など柔軟に対応しましょう。特に加害者が社内の人間だった場合、被害者と加害者が顔を合わせないような配慮が必要です。例えば加害者を別部署へ異動・出勤停止にする、被害者が安心できる部署へ配置換えする、といった措置を速やかに講じます。加害者が既に退職・逮捕され社内にいない場合でも、被害者が職場で居心地の悪さを感じないよう周囲の社員への啓発や見守りも大切です。

復職支援と職場復帰へのサポート

被害者が一定期間の休養を経て職場復帰する際には、周囲のサポート体制を万全に整えます。復帰面談を実施し、働くうえで不安な点や希望を丁寧にヒアリングしましょう。必要に応じて業務量を段階的に戻す、席替えや配置転換で心機一転できる環境を用意するといった配慮も有効です。被害者が「また盗撮されるのでは」という不安を感じる場合には、更衣室やトイレの安全対策(後述)について説明し、安心感を持ってもらうよう努めます。

周囲の社員にも、復帰する被害者を温かく迎え入れるよう事前に周知します。ただし具体的な被害内容に触れたり無闇な気遣いを強要したりすると、かえって被害者が居づらくなる恐れがあります。「○○さんが安心して働けるよう皆で協力しよう」といった趣旨を伝え、普段通りの接し方で接するよう促します。万一職場で心ない噂話や好奇の目が向けられるようであれば、人事担当者が厳正に注意・指導し、被害者がセカンドハラスメント(二次被害)を受けないよう保護してください。

**以上のような被害者ケアを徹底することが、二次被害の防止に直結します。**企業の真摯な対応は被害者の心の救済につながるだけでなく、他の従業員にも安心感を与え、職場全体の信頼回復に資するのです。

二次被害の防止:配慮不足が招く落とし穴

二次被害とは、最初の犯罪被害そのものではなく、その後の対応や周囲の反応の不適切さによって被害者が新たに受ける精神的・社会的な被害を指します。盗撮事件において企業の配慮不足が二次被害を生む典型例として、以下のようなケースが挙げられます。

  • 事実のもみ消し・隠蔽: 企業が事件の公表を恐れるあまり、被害者に「外部に言わないでほしい」と過度に圧力をかけたり、内密に処理しようとしたりすることがあります。確かに懲戒解雇処分は通常社内外に公表しないのが通例で、盗撮事件でも加害者の処分を社内公表しなかったこと自体は違法ではないとされた判例もあります。しかし、被害者にとって「会社が自分の受けた被害を軽視している」「事実を揉み消そうとしている」と映れば大きな精神的ショックとなります。実際にある事件では、会社が加害者を即時解雇せず様子見の対応をしたため、被害者が不信感を募らせ訴訟に発展したケースもあります。企業は透明性と誠実さを持って対応し、被害者に対しては経緯や再発防止策を適切に説明して信頼を得ることが大切です。
  • 不用意な言動・対応の遅れ: 被害者への配慮に欠けた言動(例:「大したことなくて良かったね」「早く忘れて仕事に集中して」など)は被害者を深く傷つけます。また、内部調査や懲戒処分が遅れたり曖昧になったりすると、被害者は「この会社では自分は守られない」と感じてしまいます。前述のとおり、ある企業では発覚から8日後に加害者を懲戒解雇とし適切に対処したため、裁判でも企業の対応の適正さが認められました。逆に対応が遅れることは被害者に「二次被害」を与えるだけでなく、企業が安全配慮義務を怠ったと見なされるリスクもあります。
  • 社内での噂・詮索: 事件が社内に知れ渡った場合、好奇の目で見られたり詮索の対象になったりすること自体が被害者への二次被害となります。例えば「被害映像が流出したらしい」「○○さんが盗撮されたらしい」といった噂が一人歩きすれば、被害者は職場に居場所がなくなるでしょう。こうした事態を防ぐためにも、情報管理を徹底し不要な噂話をしないよう社員に注意喚起することが必要です。

**二次被害を防止するため、企業が取るべき基本姿勢は「被害者ファースト」の徹底です。**被害者の気持ちに寄り添い、何が安心につながるかを常に考えて行動します。会社の損得や世間体よりも被害者の心のケアを優先する姿勢が、結果的に企業の信頼も守ることになります。また必要に応じて、社外の専門機関(労働局の相談窓口や弁護士等)とも連携し、適切な助言を仰ぐことも検討してください。二次被害を出さないことこそ、薬院法律事務所が強調する「被害者の尊厳を守る」企業対応の要諦なのです。

労災認定と企業の法的責任:安全配慮義務違反・使用者責任とは

盗撮事件は被害者の心身に深刻なダメージを与えるため、場合によっては労災認定(労働災害として公的補償を受けること)の対象になり得ます。職場で受けた強い精神的ショックによってうつ病などの精神障害を発症した場合、労働基準監督署に申請して労災補償を受ける道があります。厚生労働省の労災認定基準でも、盗撮やセクハラ被害は「業務による強い心理的負荷」として精神疾患の労災認定事例に含まれています。実際、セクハラ被害に起因する精神障害の労災認定件数は近年増加傾向にあり、2004~2008年度の累計で22件が業務上と認められています。盗撮被害も業務中に起きたものであれば、この強い心理的負荷に該当し得るでしょう。

労災認定された場合、被害者は治療費や休業補償等の給付を受けられます。ただし労災保険から給付が出ることは、企業の民事上の責任追及とは別問題です。被害者は労災給付と別に、企業に対して安全配慮義務違反(労働契約上、従業員が安全・安心に働ける環境を整える義務の違反)を理由に損害賠償を求めることも可能です。

例えば、以前発生した土木建築会社の更衣室盗撮事件では、被害女性が「会社は盗撮を防止する義務を怠った」として慰謝料を請求しました。結果的にこのケースでは「犯行は予測困難で防止義務違反はない」と判断され請求棄却となりました。判決では、上司による隠し撮りという悪質な行為であっても、業務とは無関係な個人的欲望に基づくものであり会社の事業執行の範囲外と判断されています。また会社は発覚後直ちに調査を行い8日後に懲戒解雇する適切な対処をしたため、不誠実な対応とも言えないとされました。

しかし、これはあくまで一例であり、企業の責任が一切問われないという意味ではありません。他の判例では、会社が盗撮被害を把握しながら適切な調査・処分を怠った場合に、安全配慮義務違反として損害賠償責任を負う可能性が指摘されています。特に加害者について以前から問題行動の報告があったのに放置していた、被害者からの相談を黙殺していた、といった事情があれば企業の責任は免れ難くなるでしょう。

また使用者責任(民法715条)という法理にも触れておきます。これは「事業の執行中」に従業員が第三者に加えた損害について、使用者(会社)が代わって賠償責任を負う制度です。盗撮行為が「事業の執行中」に行われたと認められれば、被害者(第三者)が会社に損害賠償請求できる可能性があります。もっとも前述の判例のように、社内で起きた盗撮でも業務とは無関係な私的行為と判断されれば使用者責任は成立しません。例えば、従業員が勤務時間外に駅や商業施設で盗撮した場合などは会社業務との関連性が乏しいため、基本的には使用者責任は問われないでしょう。

しかし、被害者が同じ従業員の場合(社内のハラスメント)には、使用者責任ではなく職場環境配慮義務の問題として会社の責任が問われる傾向にあります。セクシュアルハラスメント防止法制上、企業は職場での性的被害を防止し、発生時に適切な措置を講じる義務があります。この義務を怠れば、労働局から是正指導を受けたり企業名を公表される可能性もあります。たとえば被害社員が社内相談窓口に訴えたのに会社が放置していた場合などは、安全配慮義務違反として慰謝料支払い命令が下ることも考えられます。

まとめると、盗撮事件に関する企業の法的責任はケースによって異なりますが、

  • 労災:被害者の心身の障害が労災認定される可能性がある。
  • 安全配慮義務:ハラスメント防止措置を怠った場合、企業が損害賠償責任を問われ得る。
  • 使用者責任:従業員の盗撮行為が業務と関連すると評価されれば、会社にも賠償責任が及ぶ(もっとも通常は業務外の私的行為と判断されることが多い)。

企業としては、何よりも被害者救済と再発防止に全力を尽くすことが結果的に法的リスクの軽減にも繋がります。誠実な対応を取った企業では、裁判でも責任なしと認められた例がある一方、不誠実な対応は企業の信用失墜と多額の賠償負担を招くおそれがあります。法律面を十分理解しつつも、まずは被害者を守るという原点を忘れないことが肝要です。

加害者への対処:懲戒処分・刑事告発と法的基準

盗撮の加害者が自社の従業員だった場合、企業内での懲戒処分と刑事手続への対応という二つの側面から対処する必要があります。社内秩序の維持と再発防止のため、厳正かつ適法な対応を取りましょう。

社内調査と懲戒処分の検討

まずは社内規程に則り、事実関係の調査を行います。警察の捜査と並行して、社内の聞き取りや押収物の確認(警察と協力し可能な範囲で)を進めます。加害者とされる社員にも弁明の機会を与えつつ、証拠が揃い事実が確認できた段階で懲戒委員会等の社内手続きを経て処分を決定します。

盗撮は就業規則違反の中でも極めて悪質なセクシュアルハラスメント行為に該当しますので、多くの場合**懲戒解雇(社則に基づく懲戒処分としての解雇)**が検討されます。懲戒解雇は最も重い処分であり、退職金不支給や解雇予告手当不要といった厳しい扱いになります。そのため労働契約法上、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当と認められなければ無効となるという制約があります。就業規則に盗撮等の不法行為が懲戒事由として明記されていることはもちろん、処分の重さが妥当かどうか慎重に判断しなければなりません。

一般に、職場内での盗撮であれば「勤務中に職場の秩序を乱し、職務遂行を妨げた重大な非行」と評価でき、懲戒解雇相当とされるケースが多いでしょう。実際、前述の更衣室盗撮事件でも取締役会で「セクシャルハラスメントにより就業環境を害した行為」として加害者を懲戒解雇処分としています。一方で、勤務時間外の盗撮(例えば通勤途中や休日に起こした犯行)の場合は、処分の判断が難しくなります。社業と直接関係ない私的行為であっても、逮捕・報道によって会社の社会的評価を著しく下げたり職場の信頼関係を損なったりする場合には懲戒処分の対象となり得ます。しかし、そうした影響が軽微な場合や前科が付かず示談で解決した場合にまで即懲戒解雇とすることは、裁判で無効と判断されるリスクがあります。

実例として、通勤途中に盗撮を試み逮捕された社員を懲戒解雇としたところ、一審の名古屋地裁は「不起訴で報道もなく会社への影響が小さい」として懲戒解雇を無効と判断しました。しかし控訴審の名古屋高裁では「電車内での盗撮は極めて卑劣で社会的非難を免れない行為であり、郵便事業の公共性も考慮すると解雇は相当」として有効と逆転判断しています。このようにオフ勤務中の犯行に対する懲戒処分は事案の具体性によって判断が分かれる難しい問題です。ポイントは、犯行による会社への信頼失墜の程度・職場への影響度・本人の前歴など総合的に勘案し、処分の相当性を見極めることです。不安な場合は、懲戒解雇ではなく諭旨退職(自主退職を勧告)や停職・減給処分等で対処する選択肢も検討し、最終判断は専門家と協議することが望ましいでしょう。

いずれにせよ、加害者社員は少なくとも発覚時点から**就業禁止(自宅待機)**とし、被害者や他社員との接触を断ちます。その後の懲戒手続では就業規則の定めに従い、本人の弁明機会を与えるなど適正手続きを踏んでください。処分を決定したら速やかに本人へ通知し、社内にも必要な範囲で周知します(この際も被害者のプライバシーには配慮)。もし懲戒解雇とした場合、後日訴訟となる可能性も見据え、処分理由や証拠を整理・保存しておくことも重要です。

刑事告発・被害届と捜査協力

刑事手続への対応については、基本的に警察が主体となりますが、企業としても積極的に協力します。前述のとおり発覚直後に通報するのが原則ですが、加害者が社員の場合、会社として警察に告発状を提出することも検討してください。盗撮事件自体は親告罪(被害者の告訴が必要な罪)ではないため、被害者の意思に関わらず警察・検察は起訴できます。しかし被害者が動揺して届け出を迷う場合など、企業が社会正義と職場秩序維持の観点から「告発」する意義はあります。もっとも、被害者が望まない無理な刑事手続きは二次被害につながりかねません。被害者の意思を尊重しつつ、必要な場合には会社が責任を持って警察に働きかける姿勢を示しましょう。

警察からの捜査協力要請(現場提供、関係者ヒアリング等)には全面的に応じます。社内で押収した証拠類も速やかに提出し、社員への事情聴取にも協力します。万一社内に他の被害者がいる可能性があれば、捜査状況に応じて社員への聞き取り調査も検討してください。被害が一人に留まらず複数に及ぶ場合、事件の重大性がさらに増すため、会社として把握した範囲の情報はしかるべき機関に伝えます。

刑事裁判への対応としては、公判が開かれる場合に備え社内で事実経過の記録をまとめ、必要があれば被害者の名誉とプライバシー保護の観点から傍聴制限や非公開を求めることも検討します(性犯罪系の事件では配慮される場合があります)。また加害者が有罪判決となった場合、その判決内容(前科)は社内処分の有力な根拠となります。逆に不起訴や無罪となった場合でも、懲戒の有効性自体は上記のように総合判断ですが、扱いを再検討する必要が出るかもしれません。いずれにせよ、企業として社会的正義に則った対応を取っていることが対外的にも示されるよう、記録と判断のプロセスを明確にしておきましょう。

再発防止策:安全な職場環境の構築に向けて

盗撮事件を一度経験した企業は、二度と同様の被害を出さないという強い決意で再発防止策に取り組む必要があります。これは被害者への償いでもあり、他の従業員や顧客の安心を守る企業の使命でもあります。犯罪白書によれば盗撮の再犯率は約36.4%にも上るとのデータもあり、加害者個人の問題として片付けず組織的な対策を講じることが肝要です。

物的対策:設備とセキュリティの見直し

まず物理的・技術的な防犯対策を検討しましょう。社内や店舗の更衣室、トイレ、バックヤードなどプライバシー空間の安全点検を実施します。定期的に怪しい機器が設置されていないか巡回チェックする仕組みを作り、必要に応じて盗撮カメラ探知機などの機器も活用します。特に不特定多数が出入りできる店舗等では、お客様用トイレや試着室に不審物がないかスタッフがこまめに確認するようにします。

防犯カメラの適切な設置も有効です。もちろん更衣室やトイレ内部にカメラを設置することはできませんが、その出入口や周辺に監視カメラを配置することで不審人物の出入りを抑止できます。実際、あるケースでは防犯カメラ映像から盗撮犯が発覚し逮捕に至った例もあります。映像データは一定期間保存し、怪しい動きがないか定期的に確認する運用も検討してください。ただし監視カメラの設置場所や目的は社内外に明示し、従業員のプライバシーを侵害しないよう十分配慮する必要があります。

人的対策:社員教育と意識改革

従業員教育も再発防止の柱です。盗撮はれっきとした犯罪であり、決して「出来心」で許されるものではないことを全社員に周知徹底します。新人研修や全体研修でハラスメント防止教育を行い、その中で盗撮行為の違法性・処罰(迷惑防止条例違反で逮捕、懲役刑や罰金刑の可能性)や、被害者の受ける深刻な苦痛について具体的に教えます。過去の事例や判例も紹介し、「一度の過ち」が人生と職を失う結果になる現実を理解させましょう。特にスマートフォンの普及で誰でも盗撮に手を染める危険がある時代だからこそ、社員一人ひとりのモラル向上が不可欠です。

また職場風土の改善も重要です。社員同士が互いの人権に配慮し合い、不審な行動や怪しい機器を見かけたらすぐ声を上げられる雰囲気を作ります。「まさか同僚が…」と油断せず、誰もが安心して働ける環境づくりに協力するよう呼びかけましょう。万が一ハラスメントの兆候や噂を耳にした場合に黙殺せず、上長や相談窓口に報告する意識を根付かせます。管理職研修ではハラスメント発見時の対処法や通報を受けた際の適切な対応についても教育し、組織全体で早期発見・早期対応できる体制を整備してください。

制度的対策:相談窓口と匿名通報制度の整備

内部通報制度の強化も再発防止に有用です。従業員が匿名で不正行為やハラスメントを報告できるホットラインを設置し、盗撮を含むあらゆる職場の問題について気軽に相談・通報できるようにします(※セクハラに限らず全従業員は性的言動に関する相談を申し出られる旨の規定例)。社外弁護士によるハラスメント相談窓口を設ける企業も増えており、被害を早期にキャッチしやすくなります。実際、「最近更衣室で誰かがスマホをいじっているのを見た」「トイレに見慣れない機械があったが気になる」等の小さな声が上がれば、大事に至る前に調査できます。通報者や相談者が不利益を受けないよう守秘義務と報復禁止も明文化し、安心して利用できる制度運用を心がけましょう。

就業規則の見直しも忘れずに行います。懲戒事由に盗撮などプライバシー侵害行為を明示し、処分基準を社員に周知しておくことで抑止力を高めます。またセクハラ防止方針を社内規程に定め、「性的な嫌がらせや盗撮行為は絶対に許さない」旨のトップメッセージを発信します。こうした企業姿勢を明確に示すことで、従業員の意識も引き締まるでしょう。

最後に、被害者支援策も再発防止策の一環と位置付けます。万一被害が起きてしまった際にすぐ支援できるよう、関係機関(警察や専門カウンセラー、法律事務所など)との連携計画を作成し、訓練しておくことも検討してください。初動対応訓練や模擬通報のシミュレーションを行う企業もあります。いざという時に備えた準備が、被害拡大の防止と迅速な収束につながります。

おわりに:被害者の尊厳を守ることが企業の信頼を守る

盗撮事件への企業対応は、被害者の人生を左右すると言っても過言ではありません。だからこそ、人事・法務担当者は被害者の二次被害拡大防止を最優先に据えて行動する必要があります。初動での迅速かつ適切な対応(加害者隔離・証拠保全・通報)、被害者の心身への丁寧なケア、再発防止に向けた組織改革――これら一連の取り組みを通じて、被害者の尊厳と安全を守ることが企業の社会的責任です。

幸い、誠実な対応を行った企業では信頼を取り戻せた事例も多く報告されています。逆に対応を誤れば被害者だけでなく社員全体・顧客からの信頼を失い、法的責任も追及されかねません。**「社員の安心・安全を守るのが会社の務め」**という基本に立ち返り、万全の備えと覚悟を持って臨みましょう。今回解説したポイントを社内で共有し、有事の際には落ち着いて実践できるよう準備しておいてください。

被害者の心の傷に寄り添い、再び笑顔で働ける職場を取り戻すこと。それが薬院法律事務所として強調したい企業対応の姿勢であり、ひいては企業自身の未来を守ることにもつながるのです。被害者ファーストの対応を貫き、安心して働ける職場環境の構築に努めていきましょう。