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薬院法律事務所

企業法務

裁判例紹介 解雇無効=賃金請求できるわけではないという話(労働事件)


2018年07月20日労働事件(企業法務)

解雇無効となれば、それまでの賃金を請求できる、こう考えられている方がいますが、一概にそうとはいえません。

解雇紛争となった場合、通常、労働者側は復職を求め、使用者は解雇を主張します。解雇が無効であれば、その間の賃金については「債権者の責めに帰すべき事由がある」ということで、賃金支払い義務を負います。但し、その間に事故で労働者が働けなかったとか、別の職場に転職して専念している、といった場合は例外です。使用者の責めに帰すべき事由で働けないわけではない、ということで賃金支払義務を負いません。働く意思と能力が必要と言われています。民法536条2項は「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行する ことができなくなったときは、債務者は、反対給付を 受ける権利を失わない。」と定めています。

※理論的には、解雇は無効だけど使用者の責めに帰すべき事由による債務不履行ではない、とうこともあり得ますが、実例は知りません

表面的には解雇撤回を要求していても、実際には働く意思も能力もないといった場合があります。この場合が難しい。

それは、使用者が「じゃあ復職して」といった場合には先鋭化する問題です。本来は、「はい。分かりました。」で復職となるはずなのですが、、、

この論点については、ナカヤマ事件という裁判例があります。

福井地方裁判所 平成28年1月15日
判例時報2306号127頁
労働判例1132号5頁

会社は配転命令を撤回し、出勤命令を発令し、前記従業員を従前の処遇で復職させ、時間外労働を支払う誓約書を提出したものの、他方で訴訟上は争うなど、矛盾のある行動を取っており、前記会社が権利を濫用して配転命令を発令したことにより破壊された前記従業員との間の労働契約上の信頼関係は回復したものとは認められず、前記従業員が出勤していないのは、前記会社の責めに帰すべき事由によるものといえると判断され、民法536条2項により、前記従業員に対し、本件配転命令の撤回後も、現在まで賃金支払義務を負うとして、前記従業員が一時、他社から受けた賃金を中間収入として控除した額について請求が認められた事例

ちなみに解雇でなく問題となった事例です。
パワハラがらみの裁判例で参照されそうな気もします。

東京地裁昭和57年12月24日判決(判例時報1071号142頁 ,労働判例403号68頁 )

一 労働者が労務を提供しようとすればその生命、身体等に危害が及ぶ蓋然性が極めて高く、そのため労働者が労務を提供することができないときは、使用者の責に帰すべき履行不能として労働者は民法536条2項によりその間の賃金請求権を失わない。
二 臨時従業員らが、同人らの組織する労働組合の組合活動を抑制する目的で臨時に雇入れられた右翼団体系の者から密閉した会社事業場内で木刀、ヌンチャク等により集団的に暴行・傷害を受け、その後も暴行を受ける危険が除去されず労務提供等の安全が確保されないことを理由に労務を提供しなかった場合において、右不就労は、会社が安全配慮義務を尽くさなかったことによるものであり、使用者はその間の賃金(一時金を含む)支払義務を負うと解した事例。