記事紹介 田村正博「”警察学”のこれまでとこれから」(刑事弁護)
2021年10月11日刑事弁護
少し古い警察学論集(67巻2号)を読んでいます。
“警察学”のこれまでとこれから
元警察大学校長
京都産業大学社会安全・警察学研究所副所長
田村正博
が興味深かったです。
昭和23年に警察学論集が創刊された頃は研究者と警察幹部の交流が活発だったのが、昭和29年の現行警察法の制定によって断絶が出来、警察の研究といえば、警察の組織と対立する者が反警察の主張のために専ら行うものになってしまったそうです。
状況の変化の先駆けが「昭和55年の犯罪被害者等給付金支給法(現在の犯罪被害者支援法)の制定です。同法の制定の背景には、宮澤浩一らによる被害者学研究、取り分け大谷實による研究の成果がありました。」だったようです。その後警察政策当局の警察行政研究会に藤田宙靖、小早川光郎、高橋和之といった公法系の最も有力な研究者が参加して、警察庁の刑事局でも、宮澤浩一、渥美東洋を中心とする刑事法研究者との勉強会、そして松尾浩也らとの勉強会も始まったとのこと。平成3年の暴力団対策法の制定にも繋がっているとか。警察の組織管理研究や実証的研究の活性化を呼び掛けており、興味深く読みました。
最後に引用
【さらに、近年では、心理学的知見、あるいは精神医学的研究結果の実務への導入が行われています。 『取調べ基礎編」が作成、公表されていますし、ストーカー行為に係る危険性判断チェック票の導入が図られています。人間の心理や行動に関する科学的な知見を譽察実務に反映させるというのは、ずいぶん前から言われながら、実際には行われてきませんでした。厳しい批判を受けている中だからこそ、新たな導入がなされたものといえます。取調べの心理学的基礎を明らかにしたことは、昭和20年代初頭の「警察実務の科学化」がやっと始められたものとも言えるでしょう。】
良く警察関係の本でお名前をお見かけしますね。意外に警察に批判的で興味深かったです。
【国政の場では、一貫して統治を担う政治勢力が存在する一方で、統治の共同責任意識を持たない恒常的な野党勢力が存在する、野党勢力は少数ではあるが、徹底的に反対すると法案が通らない、という状況が現れました。
昭和33年の警察官職務執行法改正案が成立しなかったことはその典型です。昭和35年の日米安全保障条約の改定による内閣退陣以後、統治勢力の側は、野党が徹底的に反対する案件を無理に通そうとすることはせず、専ら自らの統治を永続させることに主眼を置くようになりました。
このため、警察政策当局は警察権限に関する新規立法をほぼ諦めます。
交通対策の分野だけは、頑強な反対者が存在しなかったために、さまざまな施策展開がなされますが、その他の治安対策の分野では、立法はごく例外的にしかなされませんでした。同時に、運用に関しては、警察政策当局が決定権をほぼ完全に独占していました。他の行政機関もそうでしたが、実質的な政策決定が、政治過程ではなく、霞が関の中央省庁で行われていました。警察政策当局としては、批判を浴びないようにする観点から、情報を出さないことを重視することになります。
そして、警察政策当局にとっては、研究者との開かれた議論は、制度論においても組織運用論においても無用なものとされました。制度を変えることはできないし、組織の運用は自分たちが決めることができたからです。運用上の本質的な問題はないとすることで、議論自体を拒否することになりました。】