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薬院法律事務所

刑事弁護

警察から取調べを受けているが、証拠を見せてくれないという相談


2026年01月28日刑事弁護

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

Q、私は、福岡市に住む40代男性です。最近、ある事件で警察から呼び出しを受けて取調べを受けているのですが、警察がどの程度の証拠を持っているのかわかりません。証拠がないのであれば否認し続ければ逮捕や処罰を免れることができるのではないかと思っているのですが、警察に「証拠があるなら見せて」といっても見せてくれません。どうすればいいでしょうか。

A、警察は、基本的に取調べの際に証拠を見せることはないです。言い逃れを防ぐための手法であり、犯罪捜査規範にも定められています。知識と経験がある弁護士であれば一定程度「こういう証拠を収集しているだろう」という見立ては立てられますが、確実なものではないです。とはいえ、一般の人よりも精度が高い見通しは立てられると思います。そして、大事なことですが嘘は良くないです。黙秘権は嘘をつく権利ではありません。弁護士も、普通の弁護士であれば嘘と分かれば協力いたしませんし、嘘が発覚した際には供述の信用性が大きく損なわれます。

 

【解説】

 

警察官は、取調べの際に証拠を突き付けるということはまずいたしません。防犯カメラに犯行映像がしっかりと残っている場合であっても、逮捕・勾留後に勾留期間満期近くにならないと見せないということは良くあります。本人からすれば、「最初から見せてくれれば認めたのに。」ということなのですが、警察は言い逃れを防ぐために見せないのが基本です。犯行時に酔っ払っている事件では実際に記憶がなくなっていることもあるので、そういう事案では見せてもらって良いのではないかということもありますが、警察としては見せずに「自白」を取ろうとするのが一般的です。

ただ、経験と知識がある弁護士であれば、「この種の事件では一般的にこういう捜査が行われて、こういう証拠が収集されているだろう。」という目安は立てられますので、まずは弁護士の面談相談を受けるべきでしょう。例えば、痴漢行為をして被害者に腕を掴まれたので、振り払って駅から逃亡したといった事例では、suicaなどの履歴や防犯カメラ映像をつなぎ合わせての追跡捜査が行われますので、逃亡しても無理ということはいえます。そういった場合では、身元引受人をつけて弁護人とともに出頭する、といったことの方が良いこともありますし、出頭した上で黙秘をするのか、それとも自白をして在宅事件として進められる可能性を高めて示談交渉をするのか…このあたりは本人の選択になるわけですが、いずれにしても素人判断は危険です。

 

※犯罪捜査規範

(証拠物の呈示)
第171条 捜査上特に必要がある場合において、証拠物を被疑者に示すときは、その時期及び方法に適切を期するとともに、その際における被疑者の供述を調書に記載しておかなければならない。

https://laws.e-gov.go.jp/law/332M50400000002/#Mp-Ch_8-At_171

 

※弁護士職務基本規程

(偽証のそそのかし)
第七十五条
弁護士は、偽証若しくは虚偽の陳述をそそのかし、又は虚偽と知りながらその証拠を提出してはならない。

https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/jfba_info/rules/data/rinzisoukai_syokumu.pdf

 

痴漢・盗撮事件、現場から逃走したけど出頭すべきかという質問(盗撮、刑事弁護)

警察から、防犯カメラを見られて逮捕されないか心配という相談(刑事弁護、万引き、盗撮、痴漢等)

 

【参考文献】

 

吉戒太一「基礎から学ぶ取調べ(第16回)証拠の提示」捜査研究2022年8月号(862号)93-97頁

【A教授:特に否認をしている被疑者に証拠をいつ示すかというのは、とても難しい問題なんだけど、捜査実務を経験した人で最初から証拠を示すべきだっていう人は、いないんじゃないかな。
例えば、諸先輩の論稿でも、「証拠や資料を被疑者に呈示する時期については、もっとも慎重な検討を要する。実際の場合でもその期時(ママ)が適切でなかったため、自供が得られなかったばかりでなく、調官の手のうちを見抜かれ、取調べが失敗したという事例は少なくない」(綱川政雄『被疑者の取調技術』〔立花書房・1977 年〕154 頁)とか、「証拠物の呈示は時期を誤らないように慎重に行わなければならない。証拠物を不用意に被疑者に示してしまうと、被疑者に捜査官側の手の内をさとられ、適当に弁解されてしまうので、真に自己の体験に基づいた自白を得るどころか、事件そのものを潰す結果となりかねない」(梶木壽=寺脇一峰=稲川龍也編著「新捜査書類全集第4巻取調べ』〔立花書房・2006 年〕18 頁)などと指摘されている。】(93頁)

https://www.tokyo-horei.co.jp/magazine/sousakenkyu/202208/

 

岡慎一・神山啓史『刑事弁護の基礎知識 第2版』(有斐閣,2018年12月)26頁

【弁護士職務基本規程(日本弁護士連合会会規) 75 条は.「弁護士は.偽証若しくは虚偽の陳述をそそのかし.又は虚偽と知りながらその証拠を提出してはならない」と定めている。
ここで,偽証,虚偽の陳述とは,主観的事実に反する事実を述べることとされる(解説職務基本規程209 頁)。そして,虚偽の証拠という場合の「虚偽」とは,作成の真正を偽った書面等,主観的事実に反する陳述を記載した書面等.証拠価値を偽った証拠物(例えば.被告人のアリバイを証明する証拠として,犯行日時に別の場所にいた旨を書き加えた手帳や日記を.当時から記載があったものとして証拠請求すること)を含むものと解される。
* ABA法律家職務模範規則3.3 は「自ら虚偽であることを知っている証拠を申請すること」を禁止しているが,原文は, Ala wyer shall not knowingly(3) off er evi dence that th e la wyer knows to be false であり,false には,「①間違った,②偽の,偽造」の意味がある。】

https://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641139367

 

刑事法令研究会編『全訂版 逐条解説犯罪捜査規範』(東京法令出版,2013年7月)282頁

【捜査の過程において押収した証拠物を被疑者に提示して確認しておくことは重要なことであるが、その時期や方法を誤らないように留意しなければならない。その時期や方法を誤ると、誘導尋問のそしりを受けたり、被疑者の供述が真実かどうか分からなくなるおそれがある。一般的には、証拠物を提示する時期は、被疑者が自白した後に、被疑者からその特徴や数量等を詳細に聞き取った上で、その証拠物と一致していることを確かめてからにしたほうがよいものと思われる。被疑者が否認している場合に手元の証拠物を提示すると、かえって取調べ官の手の内を見透かされて、取調べを長引かせたり、将来における言い逃れの余地を与えたりすることが予想されるから、否認の被疑者には可能な限りこれを示さないことが必要である。】

 

橋本雄太郎編著『刑事訴訟法入門』(八千代出版,2011年4月)

【黙秘権と嘘をつく権利
被疑者・被告人は、刑事手続において、黙秘権を超えて、より積極的に「嘘をつく権利」まで認められるか。
この問題は、憲法・刑訴法に明示の手掛かりはない。他方、刑法をみると、被疑者・被告人は、偽証罪や証拠隠減・偽造罪の主体から除外されている。つまり、これらの規定が保護する刑事司法の利益は、被疑者・被告人との関係では保護されないことになっている。このことから、被疑者・被告人が嘘をついても、それは法が許容するところであり、その結果、彼らに嘘をつく権利が保障されていると考えることもできそうである。
しかし、刑事被告人が偽証罪の主体から除外されているのは、わが国の刑事訴訟では被告人に宣誓義務を伴う証人適格が否定されていることが理由であり、また、証拠隠滅・偽造罪から除外されているのは、期待可能性の欠如という責任阻却に不処罰の根拠を認める見解が多数である。このことから、刑事司法の適正な運営という利益は、被疑者・被告人との関係でも保護されているのであり、彼らがこれを侵害する場合、法的には違法であるとの評価が妥当する。それゆえ、被疑者・被告人には、「嘘をつく権利」はないといわなければならない。】(辻本典央)

https://www.yachiyo-net.co.jp/archives/books/%E5%88%91%E4%BA%8B%E8%A8%B4%E8%A8%9F%E6%B3%95%E5%85%A5%E9%96%80