警察に押収された証拠品を、郵送で還付してもらえないかという相談(犯罪被害者、刑事弁護)
2024年12月08日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は、福岡市に住む20代女性です。先日、東京に出張した際に、バッグのひったくり被害に遭いました。転倒して怪我をしたので、傷ついた洋服を警察に証拠品として提出しています。犯人は逮捕されたのですが、特に弁護士さんから賠償の打診がなされるということもありませんでした。1年後、警察から「犯人に強盗致傷罪で実刑判決が出たので、押収した証拠品を返したい。取りに来てもらえますか。」と尋ねられて、「行きます。」と回答したのですが、良く考えてみると郵送してもらえばいいのではないかと思います。でも、ネットを見ると郵送で返してもらえるという話がなく、警察にお願いしたら「非常識」と思われるのではないかと怖いです。頼んで良いのでしょうか。
A、証拠品の還付については、その方法を規定した法律がありません。通常は警察署に直接取りに行くということが一般的なのですが、遠隔地であれば費用が非常に嵩みますので、郵送してもらいたいところです。検察庁においては一定の場合に郵送還付をしていますし、警察においても被害者の方のお住まいの警察署まで送ってもらえることがあります。率直に要望をして良いでしょう。
【解説】
押収物で留置の必要性がないものは「還付」を求めることができますし、警察も自主的に還付しようとします。もっとも、郵送での還付請求を求められるかというのは一つの論点です。一定の場合には郵送での還付請求権が発生し得ると思うのですが、論じた文献は見当たりません。実務的な取扱いとして、警視庁においては刑事訴訟法197条2項を根拠に近くの警察署まで郵送還付をすることもありますし、検察庁においては直接の郵送還付をすることもあります。率直に相談されるといいでしょう。
刑事訴訟法
https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000131#Mp-Pa_2-Ch_1
第百二十三条 押収物で留置の必要がないものは、被告事件の終結を待たないで、決定でこれを還付しなければならない。
②押収物は、所有者、所持者、保管者又は差出人の請求により、決定で仮にこれを還付することができる。
③押収物が第百十条の二の規定により電磁的記録を移転し、又は移転させた上差し押さえた記録媒体で留置の必要がないものである場合において、差押えを受けた者と当該記録媒体の所有者、所持者又は保管者とが異なるときは、被告事件の終結を待たないで、決定で、当該差押えを受けた者に対し、当該記録媒体を交付し、又は当該電磁的記録の複写を許さなければならない。
④前三項の決定をするについては、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴かなければならない。
第百二十四条 押収した贓物で留置の必要がないものは、被害者に還付すべき理由が明らかなときに限り、被告事件の終結を待たないで、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、決定でこれを被害者に還付しなければならない。
②前項の規定は、民事訴訟の手続に従い、利害関係人がその権利を主張することを妨げない。
第百九十七条 捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる。但し、強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない。
②捜査については、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。
第二百二十二条 第九十九条第一項、第百条、第百二条から第百五条まで、第百十条から第百十二条まで、第百十四条、第百十五条及び第百十八条から第百二十四条までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第二百十八条、第二百二十条及び前条の規定によつてする押収又は捜索について、第百十条、第百十一条の二、第百十二条、第百十四条、第百十八条、第百二十九条、第百三十一条及び第百三十七条から第百四十条までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第二百十八条又は第二百二十条の規定によつてする検証についてこれを準用する。ただし、司法巡査は、第百二十二条から第百二十四条までに規定する処分をすることができない。
【参考文献】
警視庁刑事部刑事総務課「第7章 押収物の措置 〔事例6〕遠隔地に居住する被害者に対する証拠品の還付」『刑事資料 実務40 対話式質疑回答刑事訴訟法』(警視庁刑事部刑事総務課,2019年3月)356-360頁
○ 証拠品事務規程(平成2年3月30日法務省刑総訓第287号)
最終改正 令 和 6 年 6 月 1 9 日 法 務 省 刑 総 訓 第 7 号
(令和6年6月20日施行)
https://www.moj.go.jp/content/000110750.pdf
(郵便等による送付還付)
第50条 証拠品担当事務官は、証拠品を郵便その他の方法により送付して還付するのを相当と認める場合には、受還付人に対し、送付による還付の希望の有無を照会する。書面で照会するときは、証拠品の送付還付に関する照会書(様式第33号)による。
2 前項の照会に対し、受還付人から、送付による還付を希望する旨の回答があったときは、前条第1項の規定にかかわらず、証拠品を郵便の方法により送付する場合は書留郵便に付して還付し、郵便以外の方法で送付する場合は書留郵便に準ずる方法により還付する。受還付人から、出頭して受領する旨の回答があったにもかかわらず、出頭しないまま相当日数を経過したときも、同様とする。
3 前項の規定により証拠品を送付して還付するときは、証拠品担当事務官は、証拠品送付通知書(様式第34号)を作成し、所属課長等立会いの上で証拠品を領置票(裁判執行領置票を含む。以下この条において同じ。)及び証拠品送付通知書と対照して包装するとともに、領置票の備考欄に送付還付の旨を記入して当該所属課長等の押印を受け、証拠品及び証拠品送付通知書をそれぞれ受還付人に送付して還付請書を徴する手続をする。
4 前項の送付手続を終えたときは、証拠品担当事務官は、書留郵便物受領証等により領置票の備考欄に当該郵便物等の引受番号等を記入する。
5 第3項の手続をした場合において、受還付人から還付請書が提出されなかったときは、証拠品担当事務官は、受還付人に適宜な方法により還付請書の提出を督促する。ただし、受還付人が提出の督促に応じないときその他やむを得ない事由により還付請書を徴することができない場合には、証拠品を郵便の方法により送付したときは配達証明書をもって、郵便以外の方法で送付したときは送付されたことが確認できる書類をもって、それぞれ還付請書に代えることができる。
6 前項ただし書の規定により配達証明書等をもって還付請書に代えたときは、証拠品担当事務官は、領置票の備考欄に還付請書を徴することができなかった事由を記入する。
基孝一「〈研修講座〉証拠品事務( 5)・完」研修775号(2013年1月号)81-94頁
88頁
【(注3,4) 郵便等による送付還付を相当と認める場合の証拠品の見積価格については,おおむね5万円程度として運用されているところ.その利便性や現在の郵便事情(一般小包の損害賠償の限度額が30万円であることなど)を考慮し,見積価格が5万円を超える証拠品(危険物,精密機械等は除く。)であっても,郵便等による送付還付が相当と認められ,かつ,受還付人が郵送還付を希望するときは,柔軟に対処して差し支えない(平18. 2. 28刑総240号刑事局長通達,例規集1004の34頁)。】