軽犯罪法違反(つきまとい)で、不起訴にしてもらいたいという相談(軽犯罪法、刑事弁護)
2024年08月26日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、先日、街を歩いていると好みの女性を見かけました。つい、どこに住んでいるのだろうと思って距離をおいて後ろからついていったのですが、マンションに入っていきました。その時は特に考えずに家に帰ったのですが、2週間後、警察から連絡があり「つきまといされた」と被害届が出されていると聞きました。処罰されたくないのですが、どうすればいいのでしょうか。
A、弁護人をつけて、「つきまとい」にあたらないといえる事案であればそのように主張し、該当する場合は示談交渉をするというのが基本的な方針になります。軽微な事案であれば、「始末書」で終わらせられることもあるでしょう。
【解説】
軽犯罪法違反について、違反態様が軽微な事例では、「始末書」措置で終わらせられることもあります。これは、軽犯罪法が、日常生活で国民がおかしがちな違反行為を定めていることから、厳格に運用してしまうと国民の自由を過度に制限してしまうからだと思われます。地域実務研究会編『地域警察官のための初期捜査活動』(立花書房,2005年8月)と、警察実務研究会「クローズアップ実務 執行力向上を目指して 青年警察官のための失敗事例に学ぶ初動措置要領 第97回ポスターを貼り付けたのは俺じゃない」警察公論2019年7月号25-33頁に具体的要領が書いてありましたので紹介いたします。私は、軽犯罪法違反のご相談にあたっては、こういった取締りの基準を踏まえて、「送検」に値しない事案であることを説得的に論じることが大事だと考えています。迷惑行為防止条例の規制と重なるところも多いので、両者の関係性も踏まえた対応が必要でしょう。ご相談をお待ちしています。
※軽犯罪法
第一条左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
二十八他人の進路に立ちふさがつて、若しくはその身辺に群がつて立ち退こうとせず、又は不安若しくは迷惑を覚えさせるような仕方で他人につきまとつた者
第四条 この法律の適用にあたつては、国民の権利を不当に侵害しないように留意し、その本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用するようなことがあつてはならない。
https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000039/20150801_000000000000000
【参考文献】
地域実務研究会編『地域警察官のための初期捜査活動』(立花書房,2005年8月)85頁
【同法1条には, 1号から34号まで33の罪種が定められているが, これが定形,明白でないため各個にその悪性の基準を定めることができない。しかし,取締りに当たっては,正しい擬律判断の上に立ち,次に示す基準によって,段階的に妥当な方法で行うことが必要である。
①判断基準
(略)
②段階的な取締り
ア 現場注意
(略)
イ 「始末書」措置
(略)
ウ 送 致
悪質な事犯は送致することとなるが, その処理要領は後述する。】
警察実務研究会「クローズアップ実務 執行力向上を目指して 青年警察官のための失敗事例に学ぶ初動措置要領 第97回ポスターを貼り付けたのは俺じゃない」警察公論2019年7月号25-33頁
28頁
【ただし,送致手続が煩雑という理由で始末書措置を執ったり,現場注意程度の事犯であるにもかかわらず,交番等において,幹部の指揮を受けずに係員の独断で始末書措置を執ったりすることがないよう留意しなければならない。】
伊藤榮樹原著・勝丸允啓改訂『軽犯罪法 新装第2版』(立花書房,2013年9月)193-194頁
【「つきまとう」とは, しつこく人の行動に追随することであるが,立ち塞がるほど相手方に接近する必要はない。尾行がその典型的な例である。通行人が不要だと言って断っているのに, しつこく追随して, わいせつ写真等を売りつけようとしたり,客引きをしたりする行為は, 「不安若しくは迷惑を覚えさせるような仕方で他人につきまとう」の適例であろう (判例集に掲載されたものとしては,道路上で,通行中の人に対し「実演と映画を見ませんかと言いながら追随したケースを本号に当たるとしたものがある-東京高判昭36.8.3高刑集14巻6号387頁。)。歩行者や自転車に乗って行く者を自転車に乗って, あるいは,それらの者や自動車に乗って走行する者を自動車に乗って「つきまとう」ことも可能である。警察官や興信所の者が,職務上の必要から人を尾行するような行為も,本号の構成要件を充足する。
(中略)
これに対して,深夜たまたま帰宅方向が一緒であったため,先を歩く女性の背後を一定の距離をおいて歩くこととなり,結果的に当該女性に不安を覚えさせる結果になったとしても,それは,そもそも「つきまとった」とはいえないであろうから, ここでいう「不安を覚えさせるような仕方」にも当たらないであろう (101問175頁)。】
須賀正行『擬律判断・軽犯罪法【第二版】』(東京法令出版,2022年11月)106頁
【「つきまとう」とは,執勘に人に追随することをいい, 「立ちふさがる」又は「群がる」行為の場合ほど相手の身体に接近する必要はないが,時間的にはこれらの行為よりも継続することが必要であるとされる。
一定の目的をもって人を尾行する場合は本号の典型であるが,深夜一人歩きの女性の後方から同じ速度で歩き,相手が歩を速めれば速め,歩を緩めれば緩めるなどして一定の間隔で追随するような場合もこれに当たる。
追随の仕方が「不安若しくは迷惑を覚えさせるような仕方」であるかどうかは,個々の事案ごとに, その時刻,場所,追随した時間,行為者の態度,服装,体格,相手方の性別・年齢等の具体的状況を基に社会通念によって判断することとなる】
107頁
【「つきまとった」に該当すると考えられる事例
③午後10時頃,通行中の18歳の女性に対し,約30メートルの間, 同女と歩調を合わせ,無言で追随してつきまとった。】