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薬院法律事務所

刑事弁護

軽犯罪法違反事件の弁護要領・第10回 軽犯罪法1条9号(軽犯罪法、刑事弁護)


2024年12月22日刑事弁護

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、私は東京都に住んでいるものです。アパートの外でタバコを吸っていたのですが、吸い殻を捨てたところ近くに新聞紙を束ねたものがあり、燃え移ってしまいました。気付かずに部屋に戻ったところ、近所の人が気付いて消し止めてくれたのですが、後日、警察が来て「失火罪」(刑法116条)と言われています。新聞紙の傍にあったドアが焦げたということで、罰金になるだろうということですが、前科をつけたくありません。どうしたら良いでしょうか。

 

A、ご相談者の行動については、失火罪ではなく、軽犯罪法1条9号の火気乱用の罪に留まる可能性もあります。具体的な事情次第ですが、まずはアパートの大家さんに謝罪した上で、火気乱用の罪に留まることを主張しつつ、不起訴処分を狙っていくことになるでしょう。

 

 

【解説】

本日は、軽犯罪法第1条第9号「相当の注意をしないで、建物、森林その他燃えるような物の附近で火をたき、又はガソリンその他引火し易い物の附近で火気を用いた者」について解説します。

この条文は、過失的に火災などの危険を生じさせる恐れのある行為公衆の安全や環境に重大な被害を及ぼし得る無謀な火気の取り扱いを未然に防止するための予備的・補充的な処罰規定として機能しています。

その趣旨は、【本号は火災を誘発し易い行為を取り締ろうとするもので、緒局公共の危険を防止せんとするものである】(野木新一・中野次雄・植松正『註釈軽犯罪法』(良書普及会,1949年2月)48頁)とされているところです。

本件の場合は、失火罪とされていますが、ドアの部分が「現住建造物」にあたるかはひとつの問題です。後掲の参考文献のように建造物の一部とはされていますが、それも構造によると思います。また、焦げたというだけでは独立燃焼に至っていないので「焼損」していないという主張も考えられます。失火罪には未遂犯がないからです。いずれにしても、弁護士の面談相談をお勧めいたします。

 

軽犯罪法

https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000039/

第一条左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
八 相当の注意をしないで、建物、森林その他燃えるような物の附近で火をたき、又はガソリンその他引火し易い物の附近で火気を用いた者

 

刑法

https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045#Mp-Pa_2-Ch_9

(現住建造物等放火)
第百八条 放火して、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑を焼損した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。
(非現住建造物等放火)
第百九条 放火して、現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない建造物、艦船又は鉱坑を焼損した者は、二年以上の有期懲役に処する。
2前項の物が自己の所有に係るときは、六月以上七年以下の懲役に処する。ただし、公共の危険を生じなかったときは、罰しない。

(失火)
第百十六条 失火により、第百八条に規定する物又は他人の所有に係る第百九条に規定する物を焼損した者は、五十万円以下の罰金に処する。
2失火により、第百九条に規定する物であって自己の所有に係るもの又は第百十条に規定する物を焼損し、よって公共の危険を生じさせた者も、前項と同様とする。

 

【参考文献】

 

伊藤榮樹原著・勝丸允啓改訂『軽犯罪法 新装第2版』(立花書房,2013年9月)108頁

【(2) 「火気を用いる」
これに対して,「火気を用いる」とは,火を発生させる一切の行為をいう。したがって,前記のようなマッチを擦る行為はもとより,ライターを使用する行為,タバコを吸う行為などは,全てこれに当たる。】

https://tachibanashobo.co.jp/products/detail/3110

 

警察実務研究会「青年警察官の執行力向上を目指して 交番勤務立花巡査の一日(第82回)軽犯罪法(その5)火気乱用の罪」警察公論2018年2月号42-46頁

31頁

【そうすると,マッチを擦る行為やライターを使用する行為のほか,タバコを吸う行為も「火気を用いた」に当たるんですね?】

https://cir.nii.ac.jp/crid/1520854805133199232

 

東京高判平成15年2月5日東高刑時報 54巻1~12号6頁

【論旨は、要するに、被告人は、木高一夫に木の枝等に火を点けさせる際、万が一にも付近の住宅に飛び火するような火事にならないよう相当の注意をしたから、これをしていないと認めた原判決には事実の誤認がある、というのである。
そこで、原審記録に当審における事実取調べの結果を合わせて検討するに、原判示の畑跡地(以下「本件土地」という。)は、住宅街に隣接した、宅地造成予定地で、約861m2の面積を有すること、その北東側と北西側に住宅があり、北東側の住宅はコンクリート擁壁上にあって、窪地である本件土地とはかなりの段差があるが、北西側の住宅は水路を隔てて本件土地に接していること、本件土地上に一面に生い茂っていた雑草が当時、枯れ草となっていたこと、被告人は、前に、整地するために、木を切って一か所に集めて積んでおいたこと(原審甲3号証の実況見分調書の現場の見取図の〈A〉点付近)、本件当日、被告人は、木高及び高橋某と測量作業のため本件土地に赴いたが、木高に対し、集めておいた木を燃やすように指示して高橋とともに付近で測量作業をしていたこと、木高は、周囲に枯れ草もあり危ないと思ったものの、3人いれば大丈夫だと思ってライターで点火したところ、うまく木が燃え始めたが、火が周囲の枯れ草にまで燃え広がってしまったため、被告人ら3名において、足で踏みつけ、木の枝で叩くなどして消火作業をしたが、被告人も木高も、付近の人家に火が燃え移ると大変なことになると感じ、木高において119番通報したこと、消防隊が到着した際、枯れ草から炎は上がっていなかったが、煙が出てくすぶっており、消防隊は風にあおられて再燃するおそれがあると判断して水約600リットルを放水したこと、縦約13.5m、横約12.8mの範囲の枯れ草に火は燃え広がっており、前記北西側の住宅の敷地との境界まで約7.2mにまで至っていたこと、なお、当日は晴天で空気は乾燥していたこと、以上の事実が認められる。以上によれば、被告人は、木高と共謀の上、本件土地一面に存する枯れ草という燃えるような物、あるいはそれに近接する建物の付近で火をたいたものであり、被告人らは、点火の際、鎮火に足りる程度の消火用の水等を手元に準備するなど、直ちにたいた火を消火し、火が周囲の枯れ草等に燃え広がらないように配慮した形跡はないから、相当の注意、すなわち、通常人に一般的に期待される程度の注意を欠いたものであり(もとより、被告人は木高に対してかかる注意を払わせようとはしていないし、木高においてもかかる注意を払っていない。)、被告人につき、木高との共謀による軽犯罪法1条9号の犯罪が成立することは明らかである。なお、被告人は、当審公判廷において、火を点ける前に予め集めた木の周囲2mほどの草を払っておいたと供述するが、捜査段階及び原審公判廷では一切触れていない事柄であって直ちには信用できない(仮に草を払っておいた事実があったとしても、本件で実際に火が燃え広がったことから明らかなとおり、これによって相当の注意をしたことにはならない。)。】

 

前田雅英ほか編『条解刑法〔第4版補訂版〕』(弘文堂,2023年3月)

360頁

【段損しないで建造物から取り外すことが可能な畳襖, 障子等の建具は‘建造物の一部とはいえないから、これを焼損しただけでは。本条の罪の既遂とはならない(最判昭25・12・14集4-122548, 260条に関する大判大8・5・13録25632)。取り外しが不可能とはいえないまでも, その作業に著しい手間と時間を要する場合には,建造物の一部とみてよいであろう(マンション内に設置されたエレベーターのかごにつき‘ 最決平1・7・7判時1326-157)。住居の玄関ドアも,機能上の重要性をも考慮すると外壁や天井板と同様であるから。適切な工具を使用すれば損壊せずに取り外しが可能であるとしても建造物の一部とみてよい(260条に関する最決平19・3・20集61-2-66参照)。】

361頁

【5) 焼損 平成7年の改正前の本条等では, 「焼燬」という用語が用いられていたが, 同改正の際に, これと同じ意味の現代語である「焼損」に置き換えられたものである。判例は,焼損(上記改正前における「焼燬」)の概念につき,大審院以来一貫して,いわゆる独立燃焼説に立ち,火が放火の媒介物を離れ、客体に燃え移り独立して燃焼を継続する状態に達したことをいうとし, その主要部分が段損されたり,効用が害されることまでは必要でないとする(大判大7.3.15録24219)。】

https://www.koubundou.co.jp/book/b618733.html

 

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