軽犯罪法違反事件の弁護要領・第15回 軽犯罪法1条15号(軽犯罪法、刑事弁護)
2024年12月25日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は東京都内に住んでいる30代男性です。マッチングアプリをしているのですが、フリーターと正直に書いたところ全然マッチングしないので、試しに「法律専門職」と書いてみたところ、マッチングするようになりました。マッチングした後に「弁護士」というと信用されたので、弁護士と名乗って付き合うことにしました。私はもともと法学部出身なので多少は法律のことはわかりますし、つきあってどこかのタイミングで打ち明ければ良いと思っていたのですが、実際にマッチングした女と半年間ほど付き合っていると、結婚の話を持ち出されたので「ごめん、実はフリーターなんだ」と打ち明けたところ、相手の女から信じられないといわれて別れることになりました。マッチングアプリも運営から利用禁止にされました。まあ、次の女を探せばいいかと思っていたところ、警察官が自宅にきて「軽犯罪法違反」といわれています。別に結婚するといっていたわけでもないですし、セックスも相手の方が望んでいました。何も悪いことをしたつもりはないのですが、犯罪なのでしょうか。
A、軽犯罪法1条15号違反になります。また、民事上は貞操権侵害とされる可能性もあるでしょう。なお、マッチングアプリで弁護士を自称していた場合には弁護士法違反でより重い罪になります。
【解説】
本日は、軽犯罪法第1条第15号「官公職、位階勲等、学位その他法令により定められた称号若しくは外国におけるこれらに準ずるものを詐称し、又は資格がないのにかかわらず、法令により定められた制服若しくは勲章、記章その他の標章若しくはこれらに似せて作つた物を用いた者」について解説します。
その趣旨は、【官公職、位階勲等、学位その他の資格を有しない者がこれを有するように詐称することは、そのこと自休これらの官公職等に対する世間の信用を失わせる原因となる、のみならでかような行為はとかく他の不正な目的の手段として行われることが多いから、これを取り締る必要がある。制服・動章・記章等の僣用あるいはこれらに類似のものの使用も、同様の理由によつて取締の必要があるのである】(野木新一・中野次雄・植松正『註釈軽犯罪法』(良書普及会,1949年2月)62頁)とされているところです。
ご相談の内容の場合、少なくとも軽犯罪法違反が成立するでしょう。後掲の注釈書では口頭での表示は弁護士法72条違反とされていませんが、裁判例は存在しなうようですので、弁護士法違反になる可能性も十分あると思います。
軽犯罪法
https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000039/
第一条左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
十五 官公職、位階勲等、学位その他法令により定められた称号若しくは外国におけるこれらに準ずるものを詐称し、又は資格がないのにかかわらず、法令により定められた制服若しくは勲章、記章その他の標章若しくはこれらに似せて作つた物を用いた者
弁護士法
https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC1000000205#Mp-Ch_9-At_74
(非弁護士の虚偽標示等の禁止)
第七十四条 弁護士又は弁護士法人でない者は、弁護士又は法律事務所の標示又は記載をしてはならない。
【参考文献】
伊藤榮樹原著・勝丸允啓改訂『軽犯罪法 新装第2版』(立花書房,2013年9月)131頁
【「その他法令により定められた称号」とは,法令によって特に一定の地位,資格を有する者に対して用いることが定められている称号をいい,弁護士(弁護士法〔昭和24年法律第205 号〕),弁理士(弁理士法〔平成12 年法律第49号〕),医師(医師法〔昭和23年法律第201 号〕)等の称号がこれに当たる。
もっとも,それらの称号を定めた特別法においては,無資格者がそれらの称号を用いることに対して特別の処罰規定を置いているものが多いから(注1), 本号が適用されることとなるものは,あまりない(注2) 。】
https://tachibanashobo.co.jp/products/detail/3110
日本弁護士会連合会調査室編著『条解弁護士法[第5版]』(弘文堂.2019年10月)690頁
【1 前述のとおり,本条は,弁護士又は弁護士法人でない者が弁護士又は弁護士法人であるかのような虚偽の標示をなすことによって,一般人がこの者を弁護士又は弁護士法人と誤信する等して損害を被ることを防止しようとするものである。
この目的を達成するために,本条は,法72条の規定する法律事務の取扱い又はその周旋に至らなくとも, 一定の名称の標示又は記載それ自体を禁止するものである。
ここに「標示」又は「記載」とは,一般的には, 名刺,看板,新聞雑誌等に記載すること等を指すものであり,有形物上に文字を表示することにより, この名称等を覚知し得る状態に置くことをいう。ホームページなど電子媒体による場合も,結局パソコンの画面等有形物上に文字が表示される以上, 「標示」又は「記載」に該当することは当然である。非弁護士が口頭で弁護士を自称しても,本条にいう標示又は記載をしたことにはならない。本条3項の「名称を用い」るについても同趣旨と解される。】
https://www.koubundou.co.jp/book/b480771.html