軽犯罪法違反事件の弁護要領・第16回 軽犯罪法1条16号(軽犯罪法、刑事弁護)
2024年12月25日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は東京都内に住んでいる30代男性です。いわゆるブラック企業に勤めていて、社長が凄く怖い人なので有給休暇の申請もできないような会社です。先日、どうしても朝に出社できない気持ちになったので、「犯罪被害に遭ったといえば会社を休めるかもしれない」と思い、警察に110番通報をして、出社途中に3人組の覆面をした強盗に襲われて財布を盗られたといって、会社にも警察に連絡をしていると言いました。警察官には嘘の話をしたのですが、実は現場には防犯カメラがあったということで、その日の夕方には嘘がばれて白状しました。警察から「偽計業務妨害罪」といわれているのですが、前科はつけたくないです。どうすればいいでしょうか。
A、軽犯罪法1条16号違反に留まるといえる場合もあり得ます。過去の裁判例なども照らして弁護人から主張してもらうといいでしょう。あと、その会社も退職すべきです。正常な判断能力が失われている状況です。
【解説】
本日は、軽犯罪法第1条第16号「虚構の犯罪又は災害の事実を公務員に申し出た者」について解説します。
その趣旨は、【公務員は國民全体の奉仕者としてつねに適正に行動ずる義務を負うものであるがことに犯罪もしくは災害が発生した場合には敏速に適宜の処置をとることが要請される,かような際に公務負が誤った処置をとることは直接に公衆の利益を害するものともいえよう。さような意味で、このような非常の際に公務員の行動を誤らせる行為を罰しようとするのが本号であり、その点で本号は第八号と類似する。ただ第八号はやや消極的な面からの公務の妨害を対象としたものであるが、本号はより積極的な公務妨害を規定したものということができる。】(野木新一・中野次雄・植松正『註釈軽犯罪法』(良書普及会,1949年2月)64頁)とされているところです。
ご相談の内容の場合、少なくとも軽犯罪法違反が成立するでしょう。それを越えて偽計業務妨害罪(刑法233条)が成立するかは程度問題です。弁護人を就けるべきでしょう。
軽犯罪法
https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000039/
第一条左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
十六 虚構の犯罪又は災害の事実を公務員に申し出た者
刑法
https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045#Mp-Pa_2-Ch_35
(信用毀損及び業務妨害)
第二百三十三条 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
【参考文献】
第183号 警察官を騙して捜査活動を行わせる行為と偽計業務妨害罪
~最三小決平成31年2月26日 偽計業務妨害被告事件※1~
文献番号 2019WLJCC028
日本大学大学院法務研究科 客員教授
前田 雅英
https://www.westlawjapan.com/column-law/2019/191031/
【6 しかし、東京高判平21・3・12(高刑集62・1・21、WestlawJapan文献番号2009WLJPCA03129003)は、ネットに、無差別殺人の実行を予告し、予告がなければ遂行されたはずの警ら、立番業務その他の業務の遂行を困難ならしめた事案に関し、直ちにその虚偽であることを看破できない限りは、「徒労の出動・警戒を余儀なくさせられるのであり、その結果として、虚偽通報さえなければ遂行されたはずの本来の警察の公務(業務)が妨害される」とした。本決定も同様の考え方で、覚せい剤を偽装したものを故意に落とした上これを拾って逃走し、警察官をして、薬物犯人が逃走を図ったと誤信させて追跡させるなどした場合、偽計行為がなければ遂行されていたはずの警察職員の業務を妨害したとした。
7 本決定は、業務の意義に関し、積極的に判示したものではない。しかし、第一審及び控訴審の具体的な判示を踏まえれば、本来遂行されたはずの本来の警察の業務が妨害されるという構成は、同種事案に広く用いられていくことになろう。少なくとも、本件のような事案を業務妨害罪に問うことは定着するものと思われる。】