軽犯罪法違反事件の弁護要領・第17回 軽犯罪法1条17号(軽犯罪法、刑事弁護)
2024年12月25日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は東京都内に住んでいる者です。先月、引っ越しをしたのですが、部屋が狭くなったので大量の漫画本を処分することにしました。フリマアプリで売ることも考えたのですが、手間がかかるので古本屋に引き取ってもらうことにしました。住所を書く欄があったのですが、運転免許証の住所を更新していなかったので引っ越し前の住所を書いて売却しました。後から、これは犯罪になるのではないかと心配しているのですが、大丈夫でしょうか。
A、理屈上は軽犯罪法1条17号違反の成立が考えられますが、現実的には立件されるようなものではないと思います。
【解説】
本日は、軽犯罪法第1条第17号「質入又は古物の売買若しくは交換に関する帳簿に、法令により記載すべき氏名、住居、職業その他の事項につき虚偽の申立をして不実の記載をさせた者」について解説します。
その趣旨は、【本号の立法趣旨は、盗犯、旺物犯等の犯罪の捜査の便宜を確保するため、質屋、古物商の張簿の記載の正確性を、質屋、古物商の相手方たる売主、質入主等の申告の側から保障しようとするもので、質屋営業法および古物営業法が質屋、古物商の側から取り締ろうとするのと表裏一体の関係にある。本号は、新設規定であり、旧令中にこれに対応する規定はみあたらない。立案者の意図は、失効した同旨の府県令に代る規定として本号を新設し、増加する盗犯に対処しようとしたものと思われる(野木ほか・66頁)】(稲田輝明・木谷明『軽犯罪法』平野龍一ほか編『注解特別刑法7 風俗・軽犯罪法編〔第2版〕』(青林書院,1988年1月)91頁)とされているところです。
現在は本人確認がしっかりとなされていますので、本件のように身分証明書の住所と、実際の住所が一致しないということがあり得ます。望ましいことではないですが、詐欺罪が成立するような重要な錯誤があるともいえませんし、文書を偽造したともいえませんので、成立し得るのは軽犯罪法違反に限られると思います。とはいえ、現実的に立件されるような内容ではないでしょう。
軽犯罪法
https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000039/
第一条左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
十七 質入又は古物の売買若しくは交換に関する帳簿に、法令により記載すべき氏名、住居、職業その他の事項につき虚偽の申立をして不実の記載をさせた者
【参考文献】
伊藤榮樹原著・勝丸允啓改訂『軽犯罪法 新装第2版』(立花書房,2013年9月)151頁
【また,居所を住所として申し立てることも,形式的には,本号に当たることになるが,元来,住所と居所との区別は,当事者がそこを生活の本拠とする意思があるかどうかという主観的事情によっても左右される事柄であるばかりでなく,帳簿の記載としては,現実の居所が把握できる以上,その目的をおおむね達しているともいえるから,実質的には,本号をもって問擬するまでの必要がなく,可罰性を欠くこととなる場合が多いと思われる。】
https://tachibanashobo.co.jp/products/detail/3110