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薬院法律事務所

刑事弁護

軽犯罪法違反事件の弁護要領・第2回 軽犯罪法1条1号(軽犯罪法、刑事弁護)


2024年12月19日刑事弁護

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、私は大学生です。友人と一緒に近所に廃墟となっている医院に侵入して動画を撮影していたのですが、人が来て通報されました。もう使われていない医院だと思っていましたし、電気も消えて庭の草も伸び放題だったので空き家だと思い込んでいたのですが、警察からは住居侵入だといわれています。インターネットを見ると軽犯罪法1条1号の「潜伏の罪」とされることもあると見たのですが、そちらにならないでしょうか。

 

A、具体的な管理状態によっては、「人が住んでおらず、且つ、看守していない」とされる、あるいは住居侵入の「故意」がないとされて軽犯罪法違反のみが成立するとされることはありえます。ただ、例外的な取扱いとなると思われますので、具体的な事情をどこまでいえるかが大事でしょう。

 

 

【解説】

本日は、軽犯罪法第1条第1号「人が住んでおらず、且つ、看守していない邸宅、建物又は船舶の内に正当な理由がなくてひそんでいた者」について解説します。

この条文は、無人の家屋や建物、船舶などに不法に侵入し、居座る行為を禁止しています。正当な理由がなく、こうした場所にひそんでいた場合に成立します。

その趣旨は、【本号に規定する行為は、これを放任しておくと、窃盗、賭博、失火その他の犯罪をひき起こす機縁ともなる虞があるので、これらの犯行を未然に防止するため、その前段階ともいうべきひそむ行為を処罰しようとするものである。】(野木新一・中野次雄・植松正『註釈軽犯罪法』(良書普及会,1949年2月)29頁)とされているところです。実務的に問題になるのは、「正当な理由」ですが、【雨宿りのために一時的に廃屋に入った場合、不審な男に追われて古倉庫に身を隠した場合】などが正当な理由の例としてあげられています(法務省刑事局軽犯罪法研究会編著『軽犯罪法101問』(立花書房,1995年5月)42頁)。

相談の事例についていえば、「人が住んでおらず、且つ、看守していない」といえるかがまず問題になりますが、鍵が保管されているような場合にはこれは成立しません(後掲参考文献)。その場合には、住居侵入の「故意」も認められるでしょう。もっとも、鍵もかかっていない場合で、しかし実際には人が看守していたり、住んでいた場合はどうでしょうか。私の調べた限りでは、直接この問題について取り扱った判例はありませんが、理屈上は住居侵入罪が成立せず、軽犯罪法1条1号違反のみが成立するということもあり得ます。さらにいえば、入ってすぐに見つかったとなれば「ひそんでいた」とはならず軽犯罪法違反も成立しない、ということはあるでしょう。

これは、当時の行為者が認識していた事情を基礎にして「廃屋」だと信じ込んでいたといえるかどうかが重要になります。住居侵入罪で立件された場合には、十分なヒアリングをした上で、犯罪の成否について検討することになるでしょう。また、所有者・管理者との示談交渉も必要になると考えます。

 

軽犯罪法

https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000039/

第一条 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
一 人が住んでおらず、且つ、看守していない邸宅、建物又は船舶の内に正当な理由がなくてひそんでいた者

 

【参考文献】

日野正春『4訂版 軽犯罪法 実務に役立つ判例百選』(実務法規,2008年6月)3頁

【管理人の管理下にある空別荘は軽犯罪法l条l号にいう『看守していない邸宅、建物』に当たるか
(最決昭和31 年2月28 日裁判集117 号1357 頁)
【事実】
被告人は、富士山麓吉田口の近くにあるAの管理にかかる甲所有の空別荘で寝ていたものである。
【判文】
第1審判決挙示のA、Bの各司法警察員に対する供述調書によれば所論甲所有の別荘は右鶴田において管理しているものであることが明らかであるから軽犯罪法1条1号にいう「看守していない邸宅、建物」に当たらない。刑法130 条に規定する住居侵入罪を構成すること勿論である。】

※A、B、甲は原著では人名が記載。

https://net-kindai.com/index8.html

 

須賀正行『擬律判断・軽犯罪法【第二版】』(東京法令出版,2022年11月)16頁

【行為者が,人の住居又は看守する邸宅等を,人が住んでおらず,かつ,看守していないものと誤信して侵入し,ひそんでいた場合には,刑法第38条第2項により,軽い本号の罪が成立する(最決昭54.3. 27刑集33• 2 •140)。】

https://www.tokyo-horei.co.jp/shop/goods/index.php?12183

最決昭54.3. 27刑集33• 2 •140

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=51141

 

伊藤榮樹原著・勝丸允啓改訂『軽犯罪法 新装第2版』(立花書房,2013年9月)54頁

【「ひそむ」とは,人目につかないよう身を隠すことをいう。したがって,「侵人」とは異なり,ある程度の時間的経過を要する。すなわち,本号の罪は,継続犯である。】

https://tachibanashobo.co.jp/products/detail/3110

 

軽犯罪法違反事件の弁護要領・第1回 総論(軽犯罪法、刑事弁護)