軽犯罪法違反事件の弁護要領・第29回 軽犯罪法1条29号(軽犯罪法、刑事弁護)
2024年12月28日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は東京都内で暮らしている男性です。先日、高校生の子どもがグループチャットでトラブルを起こしたということで学校に呼ばれました。話を聴くと、部活内でトラブルがあり、息子が「あの野郎をシメてやろう」と盛り上がり、親しい友人3名で帰り道に相手を取り囲んで殴りつける約束をしたそうです。ところが、そのチャットが友人の親に知られて学校に通報されたということです。私は子どものすることだからということで注意をして終わりになると思ったのですが、相手方の親御さんがこの事実を知って警察に被害届を出してきました。軽犯罪法違反ということですが、どうなるのでしょうか。
A、ご相談の内容だと「予備行為」がないため犯罪は成立しないものと思われます。ただ、警察がなんらかの形で「予備行為」がないか自白を取ろうとしてくる可能性がありますので、弁護士の面談相談をすべきです。
【解説】
本日は、軽犯罪法第1条第29号「他人の身体に対して害を加えることを共謀した者の誰かがその共謀に係る行為の予備行為をした場合における共謀者」について解説します。
その趣旨は、「複数の者が人の身体に対する加害を共謀することは、単独犯人が犯罪を決意した場合よりも、実行行為への発展の可能性が大きいうえに、犯罪が実行された場合の危険性も大である。本号は、このような危険な犯行をできる限り未然に防止するため、右加害の共謀に関与しただけの者の刑責を問うこととしたが、他方、これによって処罰の範囲が不当に広がりすぎないようにとの配慮から、共謀に関与した者の誰かが、現実に右共謀にかかる行為の予備行為をした場合に限って、共謀者を処罰することとしたものである」(稲田輝明・木谷明『軽犯罪法』平野龍一ほか編『注解特別刑法7 風俗・軽犯罪法編〔第2版〕』(青林書院,1988年1月)134頁)とされているところです。
暴力団関係などでなければ、この規定がつかわれることはあまりないと思います。ただ、本件のように少年事件でも起こりうることですので、もし立件されたら弁護士の面談相談を受けるべきでしょう。
軽犯罪法
https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000039/
第一条左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
二十九 他人の身体に対して害を加えることを共謀した者の誰かがその共謀に係る行為の予備行為をした場合における共謀者
【参考文献】
伊藤榮樹原著・勝丸允啓改訂『軽犯罪法 新装第2版』(立花書房,2013年9月)204頁
【「予備行為」とは.刑法等にいう「予備」と同義であり.犯罪実行のためにする準備行為で実行の着手に至らないものをいう。それは.単なる内心の事実ではなく,外部に顕されたものでなければならない。例えば,暴行を共謀して.こん棒を持ち出す行為や木陰で待ち伏せする行為等はその適例である。そのほか.強制性交等を共謀して.女性を暗がりに連れ込む行為や.暴行の手段に訴えても従業員の就労を阻止することを共謀してピケットを張る行為等も.本号に該当することとなる場合があろう。】
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