軽犯罪法違反事件の弁護要領・第31回 軽犯罪法1条31号(軽犯罪法、刑事弁護)
2024年12月29日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は東京都内で暮らしている男性です。先日、引っ越しのために不動産会社と契約して物件を見つけました。担当者は小柄な女性でした。私は身長が185cmあり、ジムにも通っているので筋肉質でした。良い物件があったので契約をしたのですが、後日、同じ物件でより良い部屋があったので、そちらに契約変更をしたいと要望したところ、もう契約が成立しているのでキャンセルはできないといわれました。そこでその部屋を諦めたところ、その部屋は他の方が契約されてなくなりました。その後調べてみたところ、本来は、賃貸借契約を締結するためには宅地建物取引主任者が面談して説明した上で契約しないといけなかったことを面談せずに契約していることがわかりました。そのことを指摘したところ「今から説明することになっています。」と言われました。調べましたが、宅地建物取引業法では、事前に説明が必要なはずです。そう伝えたところ、言葉を濁されましたので、店舗に行くと言って訪問して、「キャンセルができないという説明をしたために良い物件が借りられなかった。それだけなら間違いであっても、その後に嘘をつかれたことは赦せない。」と述べたところ、担当者が「上司に相談します。」といって奥に下がり、しばらくして警察官が2人きました。「脅迫」だとか「軽犯罪法違反」だとか、「威力業務妨害」だとか言われていますが、私は声を荒げていませんし、暴力も振るっていません。確かにガタイは良いので怖い思いをしたのかもしれませんが、元々は担当者の嘘から始まっていることです。私が悪いということになるのでしょうか。
A、具体的な状況が不明ですが、ご投稿の内容であれば正当なクレームの範囲であり、軽犯罪法違反にもなりませんし、脅迫罪や威力業務妨害罪も成立しないでしょう。
【解説】
本日は、軽犯罪法第1条第31号「他人の業務に対して悪戯などでこれを妨害した者」について解説します。
その趣旨は、「本号は、いわゆる業務妨害の罪を規定したものであって、刑法二三三条(偽計業務妨害)、二三四条(威力業務妨害)、九五条(公務執行妨害)の各罪を補充する規定である」(稲田輝明・木谷明『軽犯罪法』平野龍一ほか編『注解特別刑法7 風俗・軽犯罪法編〔第2版〕』(青林書院,1988年1月)142頁)とされているところです。
本件の場合は、そもそもの不動産会社の担当者の説明が誤っている可能性があった上で、それを誤魔化すような対応をしたこと、という問題があったため、ご相談者様がクレームを言いに行ったという流れがあります。そういった流れを踏まえて、特にご相談者様が脅すような言葉を言っていないのであれば、犯罪とされる行為ではないでしょう。なお、不動産会社には別途損害賠償請求をすることができる可能性があります。
軽犯罪法
https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000039/
第一条左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
三十一 他人の業務に対して悪戯などでこれを妨害した者
ハトマークサイト
https://www.hatomarksite.com/fj/rent/contract01.html
8 – 1 契約前に重要事項説明を受ける
仲介する不動産会社を通して住まいを借りる場合は、不動産会社から物件や契約条件などに関する重要事項説明を受けます。
契約を結ぶ前に、その内容を理解することが大切です。
なお、貸主である不動産会社と直接契約を結ぶときなど、重要事項説明を受けない場合でも、「重要事項説明のポイント」に書かれた内容を参考に、気になる事項があればしっかりと確認するとよいでしょう。
POINT1 重要事項説明って何?
POINT2 重要事項説明のポイント
重要事項説明って何?
宅地建物取引業法では、賃貸借契約を締結するまでの間に、仲介や代理を行う不動産会社は、入居予定者に対して賃借物件や契約条件に関する重要事項の説明を しなければならないと定めています。重要事項説明は、宅地建物取引士が、内容を記載した書面に記名押印し、その書面を交付した上で、口頭で説明を行わ なければなりません。
重要事項説明書に記載されていることは大きく分けて、「対象物件に関する事項」と「取引条件に関する事項」です。確認していた情報と異なる説明はないか、 その他気になる事実はないかなど、きちんと確認しましょう。何か不明な点があれば、納得のいくまで確認をしてください。説明を受けた結果、契約を見送ると いう判断もあり得ます。
なお、不動産会社が貸主の場合は、重要事項説明の義務はありませんので、物件や契約条件について気になることがあれば、自ら不動産会社に確認するようにしましょう。
【参考文献】
須賀正行『擬律判断・軽犯罪法【第二版】』(東京法令出版,2022年11月)55頁
【「威力」と「悪戯」の区別
「威力」とは,
○ 人の意思を制圧するような勢力(最判昭47. 3. 16 判時661 • 6ほか)
○犯人の威勢,人数及び周囲の情勢よりみて,被害者の自由意思を制圧するに足る犯人側の勢力(最判昭28.1. 30刑集7・1・128)
をいうものとするが,より厳格には,制圧された意思の主体は業務妨害の被害者に限らないというべきであろうとする考えもある。
暴行・脅迫はもとより,それに至らないものであっても,社会的経済的地位・人の意思を制圧するに足りる勢カ一切を含むものと解されている。
何が威力に当たるのかは,犯行の日時・場所,犯人側の動機・目的,人数,勢力の態様業務の種類,被害者の地位等諸般の事情を考慮し,それが人の意思を制圧するに足りるものであるか否かを客観的に判断すべきであって,被害者等の意思によって決せられるべきものではない(前掲最判昭28. 1. 30) 。
「悪戯など」と,刑法第233 条,第234 条にいう「偽計」・「威力」との区別は,必ずしも容易ではない。「悪戯」か否かは,行為者の主観的意図及び行為の客観的態様などを総合し,社会通念によって決するほかはない。】
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