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薬院法律事務所

刑事弁護

軽犯罪法違反事件の弁護要領・第33回 軽犯罪法1条33号(軽犯罪法、刑事弁護)


2024年12月30日刑事弁護

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、私は東京都内で会社員をしている者です。学生時代から友人とバンドを組んでいて、週末などにライブハウスを借りてバンドをしています。先日、10周年記念のイベントの告知用にQRコードのついたステッカーを街角に貼ることにして、ライブハウスの近くを中心に、告知のステッカーを貼りました。10cm四方程度の小さなステッカーですので、そう目立つものではなく、簡単に剥がせるシールです。もちろんイベントが終わったら剥がすつもりでした。ですが、夜中に貼っているところで警察官から職務質問されて名前を訊かれたので、ヤバイと思い、貼っていたシールを剥がし、「職務質問は任意でしょう。応じません。」とネットで見た職務質問の対応法をしたところ、警察官が無線で連絡をして数名が集まってきました。帰ろうとしたのですが、20分くらい後ろからついてきたので、振り切ろうとしたのですが、走り出したところを追いかけられて、逮捕されました。やり過ぎではないでしょうか。

A、ご相談の内容だと軽犯罪法1条33号違反が成立しますので、氏名・住所を回答せず、証拠隠滅と逃亡行為から現行犯逮捕に踏み切ったことは合法だと思われます。職務質問については応じないことをお勧めする記事も見かけますが、私としては余りその対応はお勧めできません。

 

 

【解説】

 

本日は、軽犯罪法第1条第33号「みだりに他人の家屋その他の工作物にはり札をし、若しくは他人の看板、禁札その他の標示物を取り除き、又はこれらの工作物若しくは標示物を汚した者」について解説します。

その趣旨は、「本号の立法趣旨は,主として, 工作物及び標示物に関する財産権,管理権を保護しようとするものであるがあわせて,それらの美観を保護しようとする趣旨も含まれているものと解する。」(伊藤榮樹原著・勝丸允啓改訂『軽犯罪法 新装第2版』(立花書房,2013年9月)229頁)とされているところです。

本件のご相談の場合、多分その場で謝罪して回収すれば、厳重注意処分で済む話だったと考えられます。職務質問については、時折中途半端な対応をして却って事態をこじらせてしまう人がいます。

 

軽犯罪法

https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000039/

第一条左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
三十三 みだりに他人の家屋その他の工作物にはり札をし、若しくは他人の看板、禁札その他の標示物を取り除き、又はこれらの工作物若しくは標示物を汚した者

 

最大判昭和45年6月17日

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=50836

【よつて、右論旨を検討すると、軽犯罪法一条三三号前段は、主として他人の家屋その他の工作物に関する財産権、管理権を保護するために、みだりにこれらの物にはり札をする行為を規制の対象としているものと解すべきところ、たとい思想を外部に発表するための手段であつても、その手段が他人の財産権、管理権を不当に害するごときものは、もとより許されないところであるといわなければならない。したがつて、この程度の規制は、公共の福祉のため、表現の自由に対し許された必要かつ合理的な制限であつて、右法条を憲法二一条一項に違反するものということはできず(当裁判所昭和二四年(れ)第二五九一号同二五年九月二七日大法廷判決、刑集四巻九号一七九九頁、同二八年(あ)第三一四七号同三〇年四月六日大法廷判決、刑集九巻四号八一九頁参照)、右と同趣旨に出た原判決の判断は正当であつて、論旨は理由がない。】

 

【参考文献】

 

警察公論2025年1月号付録論文2025 278頁

【A巡査部長らは、深夜に警ら中、繁華街の電柱に無許可で「税金を万博に遣うな。災害復興支援に回せ。」などと記載したビラを貼っている女性(甲女)を発見したことから、職務質問すると、甲女は、氏名・住所を申し立てたが、所持品は小銭入れとビラの入った紙袋のみで、身分を証明できる物は持っていなかった。A巡査部長らが、女性の入定事項や行為について詳しく聴取するため、B警察署まで任意同行を求めたところ、甲女は、「私は名前も住所も言ったのだから警察署には行かない。」と述べて、任意同行を拒否し立ち去ろうとした。この場合におけるA巡査部長らがとるべき措置について述べなさい(なお、屋外広告物条例違反は別論とする。)。

【答案例】……………………….………ダイジェストはP081を!
1 結論
A巡査部長らは、甲女を現行犯逮捕すべきである。】

軽犯罪法違反事件の弁護要領・総論(軽犯罪法、刑事弁護)