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薬院法律事務所

刑事弁護

軽犯罪法違反事件の弁護要領・第5回 軽犯罪法1条4号(軽犯罪法、刑事弁護)


2024年12月20日刑事弁護

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、私は無職の男性です。家賃が払えなくなって家を追い出されて、ネットカフェを転々とするような生活をしていました。お金がなくなると親や友人に電話をしてお金を借りるような生活をしていたのですが、先日、ネットカフェの料金が払えず警察を呼ばれてしまいました。お金を払うつもりはあったのでそう言い続けたら、軽犯罪法1条4号の浮浪の罪だといわれて逮捕されました。親が迎えにきて釈放されたのですが、釈然としません。

 

A、裁判例は存在しないようですが、ネットカフェの場合は、「住居」とされないことがあるようです。内容からすると、警察が、詐欺罪での立件を考えていたのが、否認を続けていることから軽犯罪法違反で逮捕したものと思われます。軽犯罪法違反でも、住居不定の場合は逮捕が可能となっています(刑事訴訟法217条)。

 

 

【解説】

本日は、軽犯罪法第1条第4号「生計の途がないのに、働く能力がありながら職業に就く意思を有せず、且つ、一定の住居を持たない者で諸方をうろついたもの」について解説します。

この条文は、いわゆる浮浪行為を禁止しています。

その趣旨は、【本号は、いわゆる浮浪者を対象にした規定である。本号に規定する者は、多くは無頼の徒であり、社会の秩序を乱す危険が大なるものがあるから、実害の発生に先き立つて、「うろつく」行為を処罰することとしたのである。】(野木新一・中野次雄・植松正『註釈軽犯罪法』(良書普及会,1949年2月)36頁)とされているところです。軽犯罪法の前身である、戦前の警察犯処罰令においては、「一定ノ住居又ハ生業ナクシテ諸方二徘徊スル者」を処罰することとされ、要件が緩やかであった反面、濫用の弊害があったため、公安維持の必要と人権保障とを調和させるべく、構成要件を絞ったものです(法務省刑事局軽犯罪法研究会編著『軽犯罪法101問』(立花書房,1995年5月)64頁)。

相談の事例についていえば、「一定の住居を持たない者」の要件が問題になりますが、ネットカフェについては「住居」と認められないと解されているので、現行犯逮捕の理由にされたものだと思います。

 

軽犯罪法

https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000039/

第一条左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
四 生計の途がないのに、働く能力がありながら職業に就く意思を有せず、且つ、一定の住居を持たない者で諸方をうろついたもの

 

刑事訴訟法

https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000131#Mp-Pa_2-Ch_1

第二百十七条 三十万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪の現行犯については、犯人の住居若しくは氏名が明らかでない場合又は犯人が逃亡するおそれがある場合に限り、第二百十三条から前条までの規定を適用する。

 

【参考文献】

 

伊藤榮樹原著・勝丸允啓改訂『軽犯罪法 新装第2版』(立花書房,2013年9月)73頁

【なお,近時は,いわゆる24時間営業のまんが喫茶やインターネットカフェなども見られるが,これらの場所は,その機能等にもよるものとは思われるが,一般的には,旅館やホテル等とは異なり,継続的に人が日常生活を行うことを想定している施設とはいい難いように思われ,これらに相当期間継続して生活していたとしても,一定の住居を有するものと認めるのは困難であろう。】

https://tachibanashobo.co.jp/products/detail/3110

 

井坂博『実務のための軽犯罪法解説』(東京法令出版,2018年3月)64頁

【もっとも,ネットカフェ,漫画喫茶,個室ビデオ試写室などは,ソファー,シャワールームが設備され,食事の注文ができるなど,宿泊に利用できる<らいに快適な場所に進化してきている。しかし,あくまでもインターネットの利用,読書,動画鑑賞のための施設であり,宿泊施設ではなく,旅館業の許可を受けていないので,布団や枕など寝具の提供は許されない。】

https://www.tokyo-horei.co.jp/shop/goods/index.php?12869

 

 

軽犯罪法違反事件の弁護要領・第1回 総論(軽犯罪法、刑事弁護)