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薬院法律事務所

企業法務

返済時期を定めずにお金を貸し付けた場合の消滅時効(企業法務、債権回収)


2019年09月25日企業法務

返済時期を定めずにお金を貸し付けた場合、消滅時効の起算点は貸付時(から相当期間経過時?)になります。

民法改正により、時効が主観的起算点から5年間に短縮されるので、このトラブルは出てくるのではないかと考えています。まあ、完全に「期限の定めがない」とされる事例は稀だと思いますが・・・

遠藤浩ほか『民法(1)総則〔第4版増補補訂3版〕』(有斐閣,2004年9月)298頁
【履行期についてなんら定めがなされていない場合は、いつでも履行を請求することができるから、債権が成立した時から時効は進行する】

なお、借主が返還の責任を負うのは、民法591条1項により催告後相当期間経過になります。借主が返還責任を負う時期と、消滅時効の起算点がずれる、ということです。

(返還の時期)
第五百九十一条 当事者が返還の時期を定めなかったときは、貸主は、相当の期間を定めて返還の催告をすることができる。

遠藤浩ほか『民法(6)契約各論〔第4版増補補訂版〕』(有斐閣,2002年9月)85頁
【判例は、返還時期の定めがない場合には、貸主の返還請求権は契約成立と同時に弁済期にあり、借主は催告がなかったことを抗弁できるだけであって(大判大二・二・一九民録一九輯八七頁)、この抗弁を主張しないと貸主の請求の時から遅滞となり(大判昭五・六・四民集九巻五九五頁)、しかも、この抗弁は上告審では提出できない(大判大七・二・二八民録二四輯三○○頁)としているが、学説は、貸主において告知したことを主張・立証すべきである、とする。なお、貸主の定めた期間が相当でない場合でも、催告ののち客観的に相当の期間が経過した時に、借主は遅滞となる(大判昭五・一・二九民集九巻九七頁)。】

我妻栄先生は時効の起算点を相当期間経過時としています。

我妻榮『新訂民法総則(民法講義Ⅰ)』(岩波書店,1965年5月)486頁【返済期を定めない消費貸借では、貸主は「相当ノ期間ヲ定メテ返還ノ催告ヲ為スコトヲ得」るのだが(591条)、催告しないで放置するときは、貸借成立の時から相当の時間を経過した時から消滅時効は進行すると解すべきである。】

 

岡口基一『要件事実マニュアル2 民法2」(ぎょうせい,2014年1月)179頁では、相当期間経過後説に立つものとして東京地裁平成19年3月23日(判例集未登載)が紹介されています。

 

鈴木銀次郎ほか『時効の法律相談 最新青林法律相談18』(青林書院,2018年8月)19頁
【主観的起算点である「債権者が権利を行使することができることを知った時」とは,権利行使が期待可能な程度に権利の発生及びその履行期の到来その他権利行使にとっての障害がなくなったことを債権者が知った時を意味するものと考えられています。例えば,確定期限の定めのある債権については(債権者が債権の発生時に基礎となる事実を認識していることを前提に) 「期限の到来時」,期限の定めのない債権については「債権の成立を知った時」, 契約に基づく債務の不履行による損害賠償請求椎については「本来の債務の履行を請求することができることを知った時」が主観的起算点であると考えられています。】

 

※2025/1/7 chatGPT o1 proで検証してもらいました。

 

以下の文章は、

「返済時期を定めずにお金を貸し付けた場合、消滅時効の起算点は貸付時(から相当期間経過時?)になる。民法改正により、時効が主観的起算点から5年に短縮されるので、このトラブルが増えるのではないか」

という趣旨を述べています。結論として、この内容は日本の民法(旧法・新法)と学説・判例の状況に照らして概ね正しく、真実性が高いと言えます。ただし、「どの時点から時効が進行するか」については見解が分かれる部分があり、下記のとおり若干の補足が必要です。


1. 返済時期を定めない消費貸借の法的仕組み

(1)借主に返還時期が定まらない場合のルール

  • 民法591条1項で「貸主は、相当の期間を定めて返還の催告をすることができる」と定められており、返済期の定めがない\text{返済期の定めがない}消費貸借では、通常は**「返還請求には、まず貸主が催告を行い、相当期間が経過すると借主が返還の義務を負う」**という構造です。

(2)催告をしないと「返還請求権の履行期」は到来しないか?

  • しかし、判例・学説上、「返還時期の定めがない場合、貸主はいつでも返還を請求できる(=債権は契約成立時からすでに履行期にある)」とする考え方が有力です(大審院判例など)。
  • 他方、借主は「相当期間を定めた返還催告がないこと」を抗弁として主張することで支払義務の遅滞を免れるとされます。もっとも、これはあくまで「支払遅滞」や「遅延利息の起算点」の問題が中心であって、時効の起算点とはまた別問題です。

2. 消滅時効の起算点

(1)旧法(改正前民法)の議論

  • 旧民法の下でも、「返済期が定まっていない貸金債権の消滅時効は、契約成立時に請求権が発生しているので、貸付時から起算する」という判例・通説が存在します(ただし、我妻栄や一部学説が**「貸付時から相当期間経過後」と解する**など、複数の見解があります)。
  • 学説・実務上も、「貸付時点ですでに返還請求が可能なのだから、消滅時効の起算は契約成立時」とするのが 「大判大5.1.17」などに由来する多数説 とされてきました。

(2)新法(改正民法、2020年4月施行)下での主観的起算点5年

  • 改正民法では、債権の消滅時効は「客観的起算点から10年」または「債権者が権利を行使できることを知った時から5年(主観的起算点)」という2本立てになりました(民法166条)。
  • 「主観的起算点」とは、債権者が「(1)債権の発生」を知り、「(2)権利行使を妨げる事由がないこと」を知った時と一般に解されます。
  • 返済期未定の貸金債権の場合、「いつでも返還請求できる」と(客観的に)扱われるため、債権の成立時点で「行使できることを知った」とみなされ、主観的起算点も貸付時となるのが通説的理解です。

(3)我妻栄などの少数説

  • 我妻栄は「貸付時の直後に返還請求するのは実際上不合理で、相当期間が経過しないと現実に返還請求はできないから、消滅時効は「貸付から相当期間経過後」に開始」と主張する見解を示しています(ただし、実務・判例では支持が少ない)。
  • 実際の実務では、貸付日から相当期間を経過しないと時効が進行しないという判例はあまり多くなく、「大審院・昭和初期」あたりの判例や東京地裁一部判決(岡口基一の著書で紹介)で肯定されている程度と言われます。

3. 本文の真偽

本文が指摘する要点:

  1. 「返済期の定めがない貸金については、消滅時効の起算点を貸付時とする(から相当期間経過時)とされる」。
  2. 「改正民法で時効が5年(主観的起算点)・10年(客観的起算点)の2本立てになり、こうしたトラブルが増えるかもしれない」
  3. 「ただし、我妻栄などは相当期間経過後と解し、説が分かれている」

これらの内容は、民法上の議論・判例・学説を正確に反映しており、以下の点で整合性があります。

  • “貸付時から進行” というのが判例・通説であるが、一部学説(我妻栄など)では「相当期間経過後説」を唱えている。
  • 改正民法の“主観的起算点5年”が導入され、未定期貸金債権の時効開始時期がいつなのか、より注目されうる。
  • 実務上は、「返済期を定めない貸金でも貸付時から時効が進行する」と見るのが多数説だが、必ずしも全員一致ではない
  • 結果的に、本文が説明するように「貸付時(から相当期間経過時)に時効が進行する」というのは判例・通説の大勢に沿っており、学説の一部にも相当期間説が存在するという点も合っています。

4. 結論

  • 本文で提示された「返済時期を定めずにお金を貸した場合、消滅時効の起算点は貸付時(または相当期間経過時)となる」という説明は、我妻栄などの有力学説や実務通説を適切に踏まえており、事実に即している
  • また、「改正民法で主観的起算点から5年へ短縮されたことにより、その取扱いが実務上問題化しうる」という指摘も正確です。
  • よって、この文章の内容は、民法の現状や学説・判例の状況と整合し、真実性が高いと評価できます。