逮捕・勾留による欠勤は会社に伝えるべきか?裁判例を踏まえた解説(ChatGPT4.5作成)
2025年07月31日刑事弁護
はじめに
突然、逮捕や勾留されてしまった場合、会社にその事実を伝えるべきかどうか迷う方は少なくありません。「逮捕されたことを知られると解雇されてしまうのではないか」「理由を伏せて休みたい」という心理は理解できますが、無断欠勤として扱われるリスクがあります。
本記事では、実際の裁判例(令和5年11月16日 東京地裁判決)を基に、逮捕・勾留された場合に会社に伝える重要性を詳しく解説します。
逮捕・勾留された場合の会社への連絡義務
労働者には、労働契約に基づく就労義務があります。そのため、何らかの理由で出社できない場合は、欠勤理由を明確にして会社に通知する義務が生じます。
逮捕・勾留という非常事態ではありますが、会社からすれば理由が不明のまま長期間の欠勤が続けば、業務に重大な支障が出るのは明らかです。
裁判例のポイント
本件(東京地裁 令和5年11月16日判決)では、以下の事情がポイントとなりました。
- 欠勤理由の不開示
原告は弁護士を通じて会社に連絡を入れましたが、「個人的事情」とだけ伝え、具体的な理由(逮捕・勾留の事実)は伝えませんでした。 - 会社側からの事情説明の要求
会社は明確に欠勤理由を説明するよう求め、「理由が説明されないままでは欠勤を認めない」と警告しました。しかし、原告は逮捕・勾留の事実を最後まで伏せていました。 - 最終的な解雇
結局、会社は理由が不明のまま5日半続いた欠勤を「無断欠勤」として扱い、解雇を通知しました。
裁判所は、この会社の判断を「客観的に合理的で社会通念上相当」と評価し、解雇を有効と認めました。
裁判所の判断の根拠
裁判所は次のような点を強調しました。
- 労働者は就労義務があり、欠勤理由を会社に説明する義務がある。
- 逮捕・勾留という特殊事情でも、理由を明かさないままの欠勤は会社の業務に重大な支障をもたらす。
- 特に試用期間中は、会社との信頼関係が構築される段階であるため、理由を隠して欠勤する行為は信頼関係を根底から破壊する。
以上の判断から、逮捕・勾留を理由にした欠勤であっても、理由を会社に伝えないと解雇されるリスクが高いことが明確となりました。
逮捕・勾留を会社に伝える際のポイント
逮捕・勾留された場合は、以下の対応を検討しましょう。
- 弁護士を通じて迅速に連絡
身柄拘束されている以上、自分で連絡することは困難です。弁護士を通じて速やかに会社へ状況を報告しましょう。 - 可能な範囲で理由を開示
プライバシーの問題はありますが、逮捕・勾留の事実だけでも伝えることが無断欠勤扱いを回避する鍵となります。 - 釈放後の早期報告
釈放された場合も、速やかに会社へ状況を報告し、誠意をもって説明することが重要です。
逮捕・勾留の事実を伝えないリスク
理由を伝えない場合、次のようなリスクがあります。
- 会社との信頼関係の破壊
- 解雇処分の有効化
- 後日の復職要求が困難になる
裁判所は特に「信頼関係の破壊」を重大な理由として挙げています。会社に理由を説明しないまま欠勤を続けることは、自己の立場を不利にする可能性が高いのです。
結論と推奨する対応
今回取り上げた裁判例から学べることは、「逮捕・勾留されたら、早期に会社へ正確な状況を伝えることが無難」ということです。
会社側は、従業員が事情を隠したまま欠勤を続けることに対し非常に厳しい態度をとることが多く、裁判所もその態度を合理的と認めています。
法律的にも道義的にも、理由を隠して欠勤することは労働契約上の義務違反とみなされる可能性が高いです。したがって、早めに状況を伝え、会社との信頼関係を損なわないよう努めることが賢明な対応となります。
最後に
逮捕・勾留という事態に巻き込まれた場合には、法的・労働的観点から迅速な対応が必要です。当事務所では、そのような緊急事態でも適切な法的アドバイスを提供しております。お気軽にご相談ください。
東京地判令和 5年11月16日労経速 2555号35頁
【第3 争点に対する判断
1 認定事実
前記前提事実、証拠(書証略)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認定することができ、この認定を覆すに足りる証拠はない。
(1) 本件逮捕勾留から本件解雇に至る経緯
ア 原告は、令和4年10月29日に捜査機関によって逮捕された後、弁護人であった本件原告訴訟代理人弁護士を通じて被告に対し、個人的な事情によって同月31日及び同年11月1日について有給休暇を取得する旨通知した(書証略)。
また、原告は、その後も、本件原告訴訟代理人弁護士を通じて被告に対し、引き続き有給休暇を取得したいこと、有給休暇の残日数がなくなった後は振替休日を使用したいことを通知した(書証略)。
イ 被告は、令和4年11月9日、本件原告訴訟代理人弁護士に対し、同月10日までは有給休暇の取得及び振替休日の使用によって欠勤が認められるものの、同月11日以降については、事情を説明されないままでは欠勤を認めることはできず欠勤承認がないこと、このままでは会社としても厳しい判断をせざるを得ないかもしれないこと、これらを原告本人に対して伝えてほしいこと、事情の説明は欠勤を承認するか否かの判断のためや試用期間中における両者の信頼関係を保てるか否かを判断するために必要であることを伝えた(書証略)。
ウ 原告は、令和4年11月10日、本件原告訴訟代理人弁護士を通じて被告に対し、欠勤の理由については個人的事情によるものということで理解してもらいたいこと、来週末までは欠勤になる予定であることを伝えた(書証略)。
被告は、同日、本件原告訴訟代理人弁護士に対し、同月11日以降の欠勤を認めることはできないこと、仮に出社を命じたとしても来週末までは出社できない状態であることを理解したことを伝えた(書証略)。
エ 原告は、令和4年11月11日、14日、15日、16日、17日及び18日の午前中、被告を欠勤した。
(2) 本件解雇
被告は、令和4年11月18日午後零時17分、メールを用いて本件原告訴訟代理人弁護士に対し、理由の開示がない無断欠勤を認めることができず原告を同日付けで解雇する旨通知した(本件解雇)。解雇通知書の記載内容は、前記前提事実(3)イに記載のとおりである。(書証略)
(3) 本件解雇後の事情
ア 原告は、令和4年11月18日午後、処分保留の状態で捜査機関から釈放された。
イ 原告は、令和4年11月29日、本件原告訴訟代理人弁護士を通じて本件被告訴訟代理人弁護士等に対し、欠勤していた理由は本件逮捕勾留であることを通知した(書証略)。
被告は、上記通知によって初めて、原告の欠勤の理由が本件逮捕勾留であることを知った。
ウ 原告は、令和4年12月15日、本件逮捕勾留された事件について東京地方検察庁検察官検事によって不起訴処分になった(書証略)。
2 争点(1)(本件解雇の有効性)について
(1) 前記前提事実における本件労働契約の内容及び就業規則の定めによれば、本件労働契約は、解約権留保付きの労働契約と解すべきであるから、本件解雇は試用期間中の解雇として留保された解約権を行使したものといえる。試用期間中における解約権の行使は、通常の解雇よりも広い範囲における解雇の事由が認められてしかるべきものであるが、解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当として是認され得る場合にのみ許されると解される。具体的には、使用者が採用決定後における調査の結果又は試用期間中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、その者を引き続き当該企業に雇用しておくのが適当でないと判断することが相当であると認められる場合に許されると解される。
(2) 前記認定事実によれば、原告は、本件逮捕勾留を受けた際、被告に対し、個人的事情によるものといった説明しかせず被告の承認を得ないまま5日半欠勤したことが認められる。
5日半の欠勤については、労働者の労働契約における最も基本的かつ重要な義務である就労義務を放棄したものとしてそれ自体重大な違反であるといえる。原告は、5日半の欠勤に先立ち有給休暇及び振替休日を取得しているものの、本件逮捕勾留という事の性質上、引継ぎ等がされたとは考え難いから、これらを含めれば、被告において、原告が突然長期間不在になったことによって多大な迷惑を被りその穴を埋めるために対応を余儀なくされたことは明らかである。また、原告は、被告から欠勤について事情の説明を求められても、被告に対し、個人的事情によるものとしか説明していない。犯罪による身柄拘束といった高度にプライバシーに関わる事項であるものの、それを知らない被告から欠勤について事情の説明を求められるのは当然である。原告は、本件解雇後、被告に対し、欠勤の理由が本件逮捕勾留であることを伝えているものの、それであれば、欠勤する際に伝えるべきであり、本件逮捕勾留について被告に対し一切伝えないといった当時の対応は不適切であったといえる。原告は、被告において勤務を開始したばかりで被告との間の信頼関係を徐々に構築していく段階であったところ、被告に対し、欠勤の理由について個人的事情によるものとしか回答しない状態であったから、被告からすれば、原告の就労意思すら不明であるし、原告について仮に本採用をしても理由を明らかにしないで突然長期間の欠勤をする可能性がある無責任な人物と考えるのは当然である。これらによれば、原告の上記対応によって、原告と被告との間の労働契約の基礎となるべき信頼関係は毀損されたといえる。なお、原告の欠勤が逮捕勾留によるものといった当時判明していなかった事実を考慮しても、不起訴処分後に起訴することは妨げられないこと、犯罪の内容等によっては逮捕勾留の事実も社会的に半ば有罪と同視されてマスコミ報道等で取り上げられ被告の社会的評価が毀損されることもあり得ることによれば、原告を本採用することは、被告においてなおさらリスクが高かったといえる。
これらについては、被告において、本件労働契約締結当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実であるといえるし、被告において引き続き雇用しておくのが適当でないと判断することが相当であるともいえる。したがって、原告は、試用期間中の解雇事由について定めた就業規則における「正当な理由のない無断欠勤が3日以上に及んだ場合」(8条1項2号)に該当するといえるし、欠勤すること自体の連絡があったことから「無断欠勤」とはいえないと解する余地があったとしても、少なくとも「社員としての本採用が不適当と認められた場合」(同条柱書)及び「その他前各号に準ずる程度の事由がある場合」(同条1項11号)に該当するといえる。
(3) 原告の主張について
ア 原告は、最終的に嫌疑不十分によって不起訴処分になっており本件逮捕勾留は不当な身柄拘束である旨主張する。
しかしながら、原告は、本件逮捕勾留をされていることから、身柄拘束を受けるだけの犯罪の嫌疑があったことは明らかであり、事後的に不起訴処分になったことによって直ちに本件逮捕勾留の適法性が左右されるものではない(なお、原告の不起訴理由が嫌疑不十分であることを認めるに足りる的確な証拠はない。)。また、原告は、本件逮捕勾留について罪名及び被疑事実すら明らかにしておらず、本件逮捕勾留が明らかな冤罪であり不当な身柄拘束であるといったことを認めるに足りる具体的な主張立証はない。
したがって、本件逮捕勾留について原告が無責でありこれを考慮すべきではない旨の原告の主張は採用することはできない。
イ 原告は、本件逮捕勾留の被疑事実について、職務に関するものではないから企業秩序に直接関連するものでも企業の社会的評価を低下させるものでもなく、解雇事由にはなり得ない旨主張する。
しかしながら、本件解雇は、試用期間中に留保された解約権を行使したものであるところ、上記(2)で説示したとおり、本件逮捕勾留による欠勤及びそれに関する原告の対応等によって信頼関係が毀損されたことを主な理由として有効と判断できるものである。企業秩序維持のために懲戒解雇をしたわけではないから、原告の上記主張は前提を欠くというべきである。
したがって、原告の上記主張は理由がない。
ウ 原告は、令和4年11月18日に釈放されたところ、被告からその直前に弁明の機会を付与されることなく本件解雇を通知されており、手続的にも不当である旨主張する。
しかしながら、原告は、被告から欠勤する事情の説明を求められたこと、被告から会社として厳しい判断をせざるを得ないかもしれない旨の告知を受けたこと、それにもかかわらず、被告に対し、個人的事情によるとしか回答しなかったことが認められる。これらの事実によれば、原告は、被告から言い分を述べる機会を与えられたということができるから、本件解雇前に改めて弁明の機会を付与すべきということはできず、本件解雇が手続的に不当であるということもできない。
したがって、原告の上記主張は理由がない。
(4) 以上によれば、本件解雇は、解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当として是認され得るといえるから有効である。
3 以上のとおり本件解雇は有効であるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない。
第4 結論
よって、原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第11部
(裁判官 岡田毅)】