酔っ払って、他人のスーツにコーヒーをかけたら器物損壊として告訴されたという相談(刑事弁護)
2024年11月27日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は福岡市に住む20代男性です。先日、大学の頃の友人と飲んでいたのですが、つい飲み過ぎてしまいました。そして、帰り道にサラリーマンらしき人とぶつかったのですが、どうしてか相手が激高してきたので喧嘩になり、私もかっとなって手に持っていたコンビニで買ったコーヒーをかけてしまいました。周囲の人が止めてくれて、その日は交番で話を聞かれて、注意されただけで終わりました。ところが、後日になって、相手方が「器物損壊」で告訴してきたと警察から連絡がきました。クリーニング代くらいは出すつもりですが、器物損壊といわれるのは納得できません。
A、器物損壊の「損壊」については、精神的に利用不能となった場合も含むとされています。もっとも、尿をかけられたというのではなく、コーヒーをかけられたという場合には、それだけで「損壊」といえるか微妙なことも多いでしょう。とはいえ、「暴行」とされることもありますし、弁護士の面談相談を受けるべきだと思います。
【解説】
器物損壊罪(刑法261条)は、「他人の物」を「損壊」又は「傷害」した時に成立します。この「損壊」については「効用を害する」ということも含まれています。とはいえ、簡単に原状回復ができるような場合は「損壊」にあたらないとされることもあります。想定事例の場合は、クリーニングで落ちる汚れかどうかということが重要になると思います。
なお、コーヒーをわざとかけたということについて「暴行罪」が成立する可能性もあります。塩を振りかける行為について「暴行罪」の成立を認めた裁判例が存在するからです。相手方の行動次第では「正当防衛」が主張できる場合もあると思いますので、弁護士の面談相談を受けるべきでしょう。
刑法
https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045/20200401_430AC0000000072#Mp-Pa_2-Ch_40
(暴行)
第二百八条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
(器物損壊等)
第二百六十一条 前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
最判昭和39年11月24日刑集第18巻9号610頁
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=50698
【なお、本件ビラ貼り行為、すなわち、被告人が昭和三三年三月一八日午後一一時過頃、外四名と共同して、日本国有鉄道a線b駅々長室において、同建造物の一部である同室内西側板壁や南東側白壁の下部の腰板に、「人べらしは死ねということだ」、「人間らしい生活をさせよ」等と墨書し、または「みんなの力で賃金調停を有利に出させよう」などと印刷してあるビラ三四枚を、また、器物である同室内北西側硝子窓、北側出入口および西側駅事務室に通ずる出入口の各硝子戸、同室内の木製衝立等に同様のビラ三〇枚を、メリケン粉製の糊でそれぞれ貼り付けた行為につき、刑法二六〇条の建造物損壊罪ないし同二六一条の器物損壊を内容とする、「暴力行為等処罰ニ関スル法律」一条一項の罪を構成するものでないとした原判示は、相当として是認することができる。)】
【参考文献】
前田雅英ほか編『条解刑法〔第4版補訂版〕』(弘文堂,2023年3月)856-857頁
【次に, 物理的な損壊を伴わない場合に, その効用を害したと認められるか否かが問題となる。物の効用は, その物の性質によって異なり, また多面的である。本来の用途に用いる場合の本来的効用と, 美観威容,外観等その本来的効用を発揮するために付随的に有している効用とに分けられる。これらの効用のすべてを滅失ないし減損させなくとも, 1つでも滅失ないし減損させれば,損壊に当たるといえよう(なお, ビラ貼り行為につき,後記のとおり,軽微な美観の侵害をもたらす程度のものは,軽犯罪法1条33号違反とはなっても.建造物ないし器物の損壊には当たらないといえる)。また,客体の性格が文化的価値を有する物か,実用的価値を有するに過ぎない物かによって損壊に当たるとされる美観の侵害の程度には差が生じることになる(大コンメ3版(13)792)。
原状回復の難易も損壊の成否を決する要素となる場合がある。もっとも, 原状回復の難易は,客体がいったん効用を侵害されて損壊罪が既遂に達した後どの程度侵害された状態を回復できるかという犯罪後の事情であるから, あくまで効用侵害の程度を認定する1つの間接事実に過ぎないと考えるべきであろう。したがって,物理的な損壊を伴わず,原状回復が容易な場合には,効用が侵害されていないと解されることがあり得ることになる。】
山口厚『刑法各論〔第3版〕』(有斐閣,2024年8月)42頁
【判例においては、暴行概念はかなり緩やかに捉えられている。すなわち、暴行とは、人の身体に対する不法な一切の攻撃方法を含み、性質上傷害の結果を惹起すべきものである必要はない(着衣をつかみ引っ張る行為は暴行にあたる。大判昭和8・4・15刑集12巻427頁)。大太鼓、鉦等を連打して意識滕朧とした気分を与え又は脳貧血を起こさせ、息詰まる程度にさせたことも暴行にあたるとされ(最判昭和29.8.20刑集8巻8号1277頁)、塩を振りかける行為についても、相手方において受忍すべきいわれはなく、不快嫌悪の情を催させるに足りるものだから暴行であるとした下級審判決も存在する(福岡高判昭和46・10・11刑月3巻1O号1311頁)】