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薬院法律事務所

一般民事

離婚事件、不貞行為の事実を隠して代理人になって欲しいという相談(離婚事件、一般民事)


2024年10月28日一般民事

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、私は、福岡市内に住む30代のサラリーマンです。妻と幼稚園に通う子どもがいます。子どもが産まれた頃から妻と関係がぎくしゃくするようになり、そんな時に仕事で知り合った取引女性と親しくなり不倫関係になりました。彼女と出会って、初めて「恋」というものを知り、妻と結婚したことを後悔しています。なんとか離婚して人生をやり直したいのですが、妻は私の心変わりに勘づいているようで、離婚の話を切り出しても、絶対に離婚しないといっています。親権はいりませんし、養育費はちゃんと相場通り払うことを彼女も納得していますので、速やかに離婚したいです。不倫していたことがバレると有責配偶者となるので、そのことは黙っていて欲しいのですが、代理人として妻と離婚の交渉をしてもらえますでしょうか。私が直接話をすると感情的になってしまいそうです。

A、私は受任しません。ただ、当面は黙ったまま進めるという弁護士もいるようですので、正直にお話した上で引き受ける弁護士を探すことは考えられます。

 

【解説】

弁護士倫理における頻出論点です。一致した結論としては、「積極的な嘘はダメ」ということであり、一方で、不利な事実を積極的に開示すべきでもないとされているようです。これは、弁護士職務基本規程の「真実義務」の問題です。私は、この種の依頼は、ジレンマが生じるので受けていません。

 

弁護士職務基本規程

https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/jfba_info/rules/data/rinzisoukai_syokumu.pdf

(信義誠実)
第五条 弁護士は、真実を尊重し、信義に従い、誠実かつ公正に職務を行うものとする。

 

【参考文献】

弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説弁護士職務基本規程(第3版)』(日弁連,2017年12月)11頁

【民事訴訟の当事者には「積極的に虚偽主張をするべきでない」という真実義務があるという理解が一般的である(高橋宏志・重点講義民事訴訟法・上〔第2版補訂版〕(有斐閣・2013) 462頁)。この真実義務と弁護士倫理の関係については、真実義務は訴訟当事者に課される規範であり、弁護士倫理は弁護士の公共的性格(一般的責務)によって根拠づけられる規範とみるのが相当とされている(加藤新太郎・コモン・ベーシック弁護士倫理(有斐閣・2006) 136頁)。
すなわち、ここでいう当事者・代理人の真実義務の内容は、真実を積極的に提示しなければならないという積極的な義務ではなく、当事者・代理人は真実に反することを知りながら、ことさらに自己の主張を展開して証拠を提出したり、あるいは相手方の主張を争って反証を提出したりすることは許されないという消極的な義務を意味する。】

 

第一東京弁護士会法律相談運営委員会編著『実例弁護士が悩む家族に関する法律相談専門弁護士による実践的解決のノウハウー』(日本加除出版,2011年3月)351-353頁

【(司会)

…有責であることについては, 依頼者から説明を受けたけれども, 相手方が知らない場合に,弁護士として,そこに触れるかどうか,非常に迷うところと思いますが。いかがでしょうか。

A弁護士(女性) :これは, 弁渡士倫理の問題との関係はどうでしょうか。

普通、本人は, 有責だということは否定するじゃないですか。例えば,離船したいと言っている旦那さん自身に,本当は不貞行為があるんだけど,相手方の奥さんの方から「不貞行為がある」 と主張されても, 「いえ, そんなことはありません」と言うのが,普通だと思うのですが……。そこで,実は弁謹士として,交際している女性がいることを知っている場合に, それでも不貞行為はしていませんと否認することは弁護士倫理に反するでしょうか。

B弁護士(男性) :触れないのはあり得ますけど嘘をつくというのは……。まあ,訴状で書く必要はないと思いますけど, 向こうから質問された時に。 それを否認することは, やはり駄目でしょう。

A: 嘘をついてはやはり真実義務違反になるということですよね。それでは相手から質問された場合は, どうするのですか?

B :それは認めるしかないでしょう。認めた上で。事実をどう評価するかという耆き方のところで, まあいろいろ工夫はするんでしょうけれども,積極的な嘘というのは駄目だと思います。

(略)

司会:(略)相手方が不貞の事実を全く知らないで,何も質問してこない場合でも,やはり,今の議論は同じ結論になりますか。
B :訴状の記述で,必須なわけではないですから,争点に書かないというのは.むしろ普通なのではないかなと。
E弁護士(男性) :積極的に開示するかという問題でしょ。それはしないでしょ,皆さん。
D :積極的開示は,ないでしょうね。結局は,相手方から言われた時に,どうするかの問題ですよね。
司会:それは認めた上で,離婚原因としては,別の離婚原因をうまく主張して,申し立てていくと,そういう形になるでしょうか。】