離婚事件、相手が不貞行為を黙って慰謝料を請求してきたので、詐欺罪で刑事告訴したいという相談
2026年02月22日詐欺(犯罪被害者)
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は、福岡市に住む30代男性です。昨年、私が不貞行為をしたことがバレて、妻が別居して弁護士をつけて慰謝料請求と離婚を求めてきました。私は離婚したくないと言っていたのですが、家庭裁判所の調停委員から「奥さんの離婚意思は固いようです」といわれて諦めて慰謝料と財産分与を支払って離婚しました。ところが、後日知人から、妻が再婚して、出産したという話を聞きました。時期から考えると、私と離婚調停をしている頃には既に妊娠がわかっていたはずです。相手も不倫をしていたのであれば、私だけが慰謝料を支払ったことはおかしいと思います。弁護士と元妻を詐欺罪で刑事告訴したいです。
A、難しいと思います。婚姻の相手方に対して「自分も不貞行為をしていた」という告知義務があるという前提に立てば、告知しないで不貞行為に基づく慰謝料請求をするということが詐欺罪にあたるという立論もあり得ます。しかし、あなた自身も自分の不貞行為を告知していなかったように、不貞行為そのものを婚姻の相手方に告知すべき義務というものは現状では一般的ではないからです。
【解説】
詐欺罪が成立するためには、①人を欺く行為、②相手方が錯誤に陥ること、③財産を交付させること、④故意、⑤不法領得の意思、が必要です。このうち、「人を欺く行為」については不作為でも成立するとされていますが、それはあくまで法律上または条理上の「作為義務」が認められる場合です。一般論として、不貞行為の告知義務が認められていない以上、詐欺罪とすることは困難でしょう。特に、代理人弁護士については、依頼者に対する守秘義務と誠実義務があることから詐欺罪の成立を認めることはより困難と考えられます。
※刑法
(詐欺)
第二百四十六条 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の拘禁刑に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045#Mp-Pa_2-Ch_37-At_246
※最決平成15年3月12日刑集 第57巻3号322頁
判示事項
誤った振込みがあることを知った受取人がその情を秘して預金の払戻しを受けた場合と詐欺罪の成否
裁判要旨
誤った振込みがあることを知った受取人が,その情を秘して預金の払戻しを請求し,その払戻しを受けた場合には,詐欺罪が成立する。
https://www.courts.go.jp/hanrei/50004/detail2/index.html
【2 本件において,振込依頼人と受取人である被告人との間に振込みの原因となる法律関係は存在しないが,このような振込みであっても,受取人である被告人と振込先の銀行との間に振込金額相当の普通預金契約が成立し,被告人は,銀行に対し,上記金額相当の普通預金債権を取得する(最高裁平成4年(オ)第413号同8年4月26日第二小法廷判決・民集50巻5号1267頁参照)。
しかし他方,記録によれば,銀行実務では,振込先の口座を誤って振込依頼をした振込依頼人からの申出があれば,受取人の預金口座への入金処理が完了している場合であっても,受取人の承諾を得て振込依頼前の状態に戻す,組戻しという手続が執られている。また,受取人から誤った振込みがある旨の指摘があった場合にも,自行の入金処理に誤りがなかったかどうかを確認する一方,振込依頼先の銀行及び同銀行を通じて振込依頼人に対し,当該振込みの過誤の有無に関する照会を行うなどの措置が講じられている。
これらの措置は,普通預金規定,振込規定等の趣旨に沿った取扱いであり,安全な振込送金制度を維持するために有益なものである上,銀行が振込依頼人と受取人との紛争に巻き込まれないためにも必要なものということができる。また,振込依頼人,受取人等関係者間での無用な紛争の発生を防止するという観点から,社会的にも有意義なものである。したがって,銀行にとって,払戻請求を受けた預金が誤った振込みによるものか否かは,直ちにその支払に応ずるか否かを決する上で重要な事柄であるといわなければならない。これを受取人の立場から見れば,受取人においても,銀行との間で普通預金取引契約に基づき継続的な預金取引を行っている者として,自己の口座に誤った振込みがあることを知った場合には,銀行に上記の措置を講じさせるため,誤った振込みがあった旨を銀行に告知すべき信義則上の義務があると解される。社会生活上の条理からしても,誤った振込みについては,受取人において,これを振込依頼人等に返還しなければならず,誤った振込金額相当分を最終的に自己のものとすべき実質的な権利はないのであるから,上記の告知義務があることは当然というべきである。そうすると,【要旨】誤った振込みがあることを知った受取人が,その情を秘して預金の払戻しを請求することは,詐欺罪の欺罔行為に当たり,また,誤った振込みの有無に関する錯誤は同罪の錯誤に当たるというべきであるから,錯誤に陥った銀行窓口係員から受取人が預金の払戻しを受けた場合には,詐欺罪が成立する。】
【参考文献】
前田雅英ほか編『条解刑法〔第5版〕』(弘文堂,2025年6月)800頁
【(a)欺く手段・方法 何らの制限もなく,言語によるものでも動作によるものでもよく,直接的な方法によるものでも間接的な方法によるものでもよい。情を知らない第三者に対して欺く手段を施し,虚偽の事実を被害者に告知させた場合でも,詐欺罪が認められる(大判明44.7・10録17-1412)。
また,作為によると不作為によるとを問わない。積極的に詐術を用い,虚偽の事実を告知する場合はもちろん,事実を告知しないことにより,相手方が既に錯誤に陥っている状態を継続させ利用する場合も,詐欺罪は成立し得る。ただし,当該不作為が詐欺罪にいう欺く行為に当たるといえるためには,不作為犯(1編7章注2(・f)参照)が成立するための法的な告知義務が行為者に認められる場合であることを要する(大判昭8.5.4集12-538)。法的な告知義務が認められる場合としては,法令に規定されている場合(例えば,保険4.37.66)のほか,契約上,慣習上,条理上認められる場合であることもあり得る(前掲大判昭8.5.4)。】
https://www.koubundou.co.jp/book/b10134508.html
山口厚『刑法 第4版』(有斐閣,2025年2月)318頁
【人を欺く行為は不作為によっても可能である(不真正不作為犯)。それは,相手が錯誤に陥ろうとしていること,又はすでに錯誤に陥っていることを知りながら,真実を告知して錯誤を解消しない場合に認められる。不真正不作為犯としての詐欺罪が成立するためには,真実を告げる作為義務(告知義務)が必要である(大判大正6・11・29刑録23輯1449頁参照)】
https://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641139732
福岡県警察本部刑事部刑事総務課編『新版 擬律判断の手引』(福岡県警察本部,2023年11月)356頁
【欺く行為は、通常、積極的に虚偽の事実を告知することなどにより行われるが、事実を告知しないことによって、相手方が既に錯誤に陥っている状態を継続させ、これを利用する場合にも本罪は成立し得る。ただし、不作為による「欺く行為」というためには、行為者に不作為犯が成立するための「法的な告知義務」が認められる場合であることを要する(大判昭8.5.4)。例えば、生命保険契約を締結するに当たり、疾病があることを告知しない場合(大判昭10.3.23)などがこれに当たる。】
第一東京弁護士会法律相談運営委員会編著『実例 弁護士が悩む家族に関する法律相談 専門弁護士による実践的解決のノウハウー』(日本加除出版,2013年3月)351-352頁
【(1)有責配偶者からの離婚申立て
司会:本日はお忙しい中,お集まりいただきましてありがとうございました。それでは,早速ですが,「離婚に関する弁護士実務」をテーマとして,座談会を始めさせていただきます。
早速ですが,「離婚原囚」の問題からお話をお伺いしたいと思います。まずは,有責配偶者から「離婚をしたい」との相談を受けた場合ですが,その依頼者自身に不貞の事実があることは,多分,事前の相談などで分かることも多いと思います。しかし,調停などを申し立てるに際して,こちらからそのことにどの程度まで触れていくべきか,不利を承知の上で最初から正々堂々とやるのか。
つまり,有責であることについては,依頼者から説明を受けたけれども,相手方が知らない場合に,弁護士として,そこに触れるかどうか,非常に迷うところと思いますが。いかがでしょうか。
A弁護士(女性) :これは,弁護士倫理の問題との関係はどうでしょうか。
普通,本人は,有責だということは否定するじゃないですか。例えば,離婚したいと言っている旦那さん自身に,本当は不貞行為があるんだけど,相手方の奥さんの方から「不貞行為がある」と主張されても,「いえ,そんなことはありません」と言うのが,普通だと思うのですが……。そこで,実は弁護士として,交際している女性がいることを知っている場合に,それでも不貞行為はしていませんと否認することは弁護士倫理に反するでしょうか。
B弁護士(男性) :触れないのはあり得ますけど嘘をつくというのは……。まあ,訴状で書く必要はないと思いますけど,向こうから質問された時に,それを否認することは,やはり駄目でしょう。
A:嘘をついてはやはり真実義務違反になるということですよね。それでは相手から質問された場合は,どうするのですか?
B :それは認めるしかないでしょう。認めた上で,事実をどう評価するかという書き方のところで,まあいろいろ工夫はするんでしょうけれども,積極的な嘘というのは駄目だと思います。】
353頁
【B :訴状の記述で,必須なわけではないですから,争点に書かないというのは.むしろ普通なのではないかなと。
E弁護士(男性) :積極的に開示するかという問題でしょ。それはしないでしょ,皆さん。
D :積極的開示は,ないでしょうね。結局は,相手方から言われた時に,どうするかの問題ですよね。】


