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薬院法律事務所

刑事弁護

電車内でわい談することは痴漢行為になるか


2022年07月02日読書メモ

結論として、なることがあります。

警視庁生活安全特別捜査隊『公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例の実務と解説(略称「迷惑防止条例」)』(警視庁,1995年3月)78頁
【電車内でわい談をした場合の刑責
(問)会社員甲乙は、飲酒のうえ、山手線に乗車したところ、車内に若い女性が多数乗車していたので、いたずら心がおき、付近の若い女性に聞こえる声でわい談をはじめた。このため、付近にいた女性は著しくしゅう恥して場所を移動したり、次の駅で降りる者がいた。甲乙の行為は、迷惑防止条例(卑わい行為)違反が成立するか。
答)成立する。】

同書では、飯場の二階から道路を通行中の女性に卑わいな言葉を掛けた者、喫茶店のカウンター内に居るウエイトレスに卑わいな言動をした者、自由に出入りができるマンションのエレベーター内で婦女のスカートをまくった者、業中の店舗内で女店員のスカートをまくり上げた者、電車の中で婦女のスカートのチャックをはずした者、画館の暗がりで隣席の女子にいたずらをした者、女子学生の鞄の中にコンドームをひそかに差入れた者、婦女のスカートの下からのぞく者、歩行中の幼女のスカートを他の婦女の面前で持ち上げた者、電車内において、隠しカメラで女性の股間を撮影した者、女性の胸に触ろうとしたが、女性に逃げられ、目的を遂げることが出来なかった者、ズボンの中で手淫をした者などにつき、迷惑防止条例違反が成立するとしています。程度問題で一概に判断できないですが、一般に思われているより広い範囲で立件されています。

この書籍発行後に最高裁が北海道の迷惑防止条例について判断したものがありますが、そこでは卑わいな言動の意義について次の通り判断されています。

裁判例結果詳細 | 裁判所 – Courts in Japan

事件番号
平成19(あ)1961

事件名
公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反被告事件

裁判年月日
平成20年11月10日

法廷名
最高裁判所第三小法廷

裁判種別
決定

結果
棄却

判例集等巻・号・頁
刑集 第62巻10号2853頁

原審裁判所名
札幌高等裁判所

原審事件番号
平成19(う)73

原審裁判年月日
平成19年9月25日

判示事項
1 公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和40年北海道条例第34号)2条の2第1項4号にいう「卑わいな言動」の意義
2 公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和40年北海道条例第34号)2条の2第1項4号の「卑わいな言動」の要件は不明確か
3 ズボンを着用した女性の臀部を撮影した行為が,被害者を著しくしゅう恥させ,被害者に不安を覚えさせるような卑わいな言動に当たるとされた事例

裁判要旨
1 公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和40年北海道条例第34号)2条の2第1項4号にいう「卑わいな言動」とは,社会通念上,性的道義観念に反する下品でみだらな言語又は動作をいう。
2 公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和40年北海道条例第34号)2条の2第1項4号の「卑わいな言動」は,同条1項柱書きの「公共の場所又は公共の乗物にいる者に対し,正当な理由がないのに,著しくしゅう恥させ,又は不安を覚えさせるような」と相まって,日常用語としてこれを合理的に解釈することが可能であり,不明確ではない。
3 ショッピングセンターにおいて女性客の後ろを執ように付けねらい,デジタルカメラ機能付きの携帯電話でズボンを着用した同女の臀部を近い距離から多数回撮影した本件行為(判文参照)は,被害者を著しくしゅう恥させ,被害者に不安を覚えさせるような卑わいな言動に当たる。
(3につき反対意見がある。)

参照法条
(1〜3につき) 公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和40年北海道条例第34号)2条の2第1項,公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和40年北海道条例第34号)10条1項 (2につき) 憲法31条,憲法39条

この最高裁判例に照らして考えても、電車内でわい談することは痴漢行為に当たりえるというべきでしょう。