飲酒運転での交通事故、基準値以下なのに危険運転致傷といわれているという相談(交通事故、刑事弁護)
2024年10月29日刑事弁護(交通事故)
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、先日、深夜までお酒を飲んだ後、自宅に帰って一眠りしました。翌朝、自動車を運転して出勤したのですが、途中で歩行者が飛び出してきて、接触してしまいました。警察と救急車を呼んだのですが、警察からお酒の匂いがするといわれ、呼気検査を受けました。基準値の0.15mg/l 以下だったので安心していたのですが、後日警察の取調べにいくと、私が「危険運転致傷罪」とされていることを知りました。おかしいのではないでしょうか。
A、理屈としてはおかしくはありません。ただ、弁護人を就けて意見書を出すことで、検察官が、最終的には過失運転致傷罪での処分とすることも考えられるでしょう。過失運転致傷罪であれば、怪我の程度が軽ければ不起訴処分も十分にあり得ます。
【解説】
自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第3条第1項における「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」とは、通常酒気帯び程度でも該当するとされていますが、酒気帯び運転に該当しなくても危険運転致死傷罪に問われるおそれはあります。この点は弁護人が強く意識しておくべきでしょう。
自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律
https://laws.e-gov.go.jp/law/425AC0000000086
第三条 アルコール又は薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を負傷させた者は十二年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は十五年以下の懲役に処する。
2自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、その病気の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた者も、前項と同様とする。
【参考文献】
道路交通研究会「交通警察の基礎知識249 危険運転致死傷罪について」月刊交通2023年7月号(670号)82頁【本罪は、酒気帯び運転のように客観的に一定程度のアルコールを身体に保有しながら自動車を運転する行為を処罰するものではなく、あくまでも、運転の危険性・悪質性に着目した罪ですから、アルコール等の影響を受けやすい人が、酒気帯び運転に該当しない程度のアルコール量であったとしても、自動車を運転するのに必要な注意力等が相当程度減退して危険な状態にあれば、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」に該当し、その程度のアルコールを保有している状態でも危険性があるという認識があれば、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」の故意があるといえます。(最高裁平成23年10月31日決定、岐阜地裁平成29年10月6日判決、千葉地裁令和4年3月25日判決)】
【参考裁判例】
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=91083
事件番号
令和3(わ)1204
事件名
危険運転致死傷被告事件
裁判年月日
令和4年3月25日
裁判所名・部
千葉地方裁判所 刑事第3部
【主 文
被告人を懲役14年に処する。
未決勾留日数中180日をその刑に算入する。
理 由
(罪となるべき事実)
被告人は、令和3年6月28日午後2時53分頃、千葉市内の高速道路のパーキングエリアにおいて、一時休憩のため停車中に飲んだ酒の影響により、前方注視及び運転操作に支障が生じるおそれがある状態で大型貨物自動車を発進させて運転を再開し、もってアルコールの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転し、よって、…
(量刑の理由)
…被告人の運転していたトラックは車両重量約6.4トンの大型貨物自動車であり、他の車両や歩行者に衝突すれば大きな被害が生じる危険性が高い。被告人からは、本件犯行後約1時間39分を経過した時点での呼気検査により呼気1リットル当たり0.15ミリグラムを超える程度のアルコールが検出されており、被告人が自認する運転開始前の飲酒状況(後記)も考慮すると、犯行時にはそれよりも高い濃度のアルコールを身体に保有していたことが推定される。また、本件現場の少し手前から仮睡状態に陥ってハンドルの操作をできないようになり、道路の左端に寄りながら時速約56キロメートルで進行して道路脇の電柱に衝突し、それでも事態をはっきりと認識するには至らず、対向歩行してきた被害者らに次々と衝突するなどしたものである。被告人の運転行為の危険性は、非常に高いものであった。】