駐車場での物損事故、どのように対応すれば良いかという相談(交通事故)
2025年02月11日損害賠償請求(交通事故)
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、先日、自動車を運転中にコンビニに寄りました。駐車場に入って、バックで駐車区画に停めようと動いていたところ、隣の駐車区画に停めていた車が急に動き出してきて、私の運転する車の右前部に衝突してきました。その場で保険会社と警察に連絡をしたのですが、後日、保険会社から駐車場での事故だから過失割合は5分5分だと言われました。正直、私は避けようがなかったと思いますので納得できないのですが、どうすべきでしょうか。ドライブレコーダーはありません。
A、早急に弁護士に相談してください。まずはコンビニの防犯カメラの映像を確保できないかが重要になります。防犯カメラの映像は1~2週間で上書きされますので、弁護士からコンビニに連絡をした上で、弁護士会照会などで取得しなければなりません。過失割合については、実務上は無過失とされることは少ないのですが、一般的には駐車区画から退出しようとする車の方が、駐車区画に進入しようとする過失割合は大きいとされています。
【解説】
駐車場での事故については、非典型過失相殺といい、道路上での交通事故のようにはきちんとした過失類型が定まっていないのが現状です。そして、ご相談者からみて相手の車が回避不能であったとしても、無過失とされるかどうかということは断言できません(相手の車が退出してくることも予想できたのではないかといった話になる)。
相談内容からすると、裁判となれば無過失とされる可能性もあると思いますが、仮に交渉をするのであれば、完全に無過失だということで示談をするのは難しいと思います。交渉の相手方である保険会社に示談に応じる利益が少ないので、訴訟を起こしてもらった方が良いという判断になりかねないからです。
何にせよ、上の回答にあるように、まずは証拠の確保が大事です。映像が残っていない場合でも、事故についてきちんと警察に届けられていれば「物件事故報告書」という簡単な図面が作成されていると思われます。これは、弁護士に依頼をすれば弁護士会照会により取得できます(個人でも取り寄せ可能なのかもしれませんが、私自身がしたことがないのでわかりません)。
福岡県の場合、物件事故報告書の取り寄せは、弁護士が、所属弁護士会に申し出て、弁護士会から警察署に照会がされます。駐車場の事故というのは、なかなか客観的証拠がないため、警察署が作成した簡易な物件事故報告書でも意味があるのです。私も、相手方のみが動いている内容の物件事故報告書を取得し、相手方の保険会社に提示したところ、相手方はそれまでの「当方の車も動いていた」という主張を引っ込めてきたという経験があります。
こういった事故類型の過失割合についてですが、名古屋地判令和2年7月31日交通事故民事裁判例集53巻4号961頁は、駐車区画から退出しようとしていた車と、隣の駐車区画に進入しようとしていた車との交通事故の過失割合につき、進入車の過失を2割、退出車の過失を8割としています。
文献をみると、中込一洋ほか『駐車場事故の法律実務~過失相殺・駐車場管理者の責任~』(学陽書房,2017年4月)85頁では、
【4駐車区画進入車と駐車区画退出車との事故((図1-21】)
1 基本的な考え方
駐車区画進入車と駐車区画退出車との事故については、前述のとおり、駐車区画退出車に、通行部分への退出を控える義務(道交法25条の2第1項に準ずる注意義務)があることから、具体的状況によって異なるものの、基本的に、駐車区画退出車が、駐車区画進入車の動静に注意することが期待される。そのため、駐車区画進入車に有利に判断し、駐車区画進入車30、駐車区画退出車70とすることを原則とし、必要に応じて修正することが妥当ではないかと考える。
2裁判例と分析
この類型に属する裁判例は見当たらない。】
とされています。
また、弁護士法人愛知総合法律事務所編『改訂版 Q&A交通事故加害者の賠償実務-被害者からの過剰請求対応-』(第一法規,2021年5月)37頁においても、駐車区画退出車と進入車の事故では退出車の方が相対的に過失は大きいとの見解が示されています。
※関連記事
【参考文献】
第一東京弁護士会第一倶楽部編著『実践弁護士業務 実例と経験談から学ぶ 資料・証拠の調査と収集〈第2版〉』(第一法規,2024年2月)182頁
【提訴前の証拠収集処分は、現在、ほとんど利用例がないといわれています。しかし、提訴前に、提訴後必要となる重要な証拠の内容が確認できれば、提訴後の審理の早期化というだけではなく、提訴前の和解交渉にも資することがあります。
例えば、交通事故案件において、事故現場を映した防犯カメラに事故当時の映像が記録されている可能性が高いと予想しつつも、弁護士会照会によっては取得できず、また、証拠保全を利用した場合の審尋等の負担も考慮した結果、早期に提訴前の証拠収集処分の利用を決断し、無事に同防犯カメラ映像を取得したことにより、過失割合が明確になり、提訴前に和解で解決したというような例があります。】
https://www.daiichihoki.co.jp/store/products/detail/104832.html
中込一洋ほか『駐車場事故の法律実務~過失相殺・駐車場管理者の責任~』(学陽書房,2017年4月)
https://www.gakuyo.co.jp/book/b285614.html
弁護士法人愛知総合法律事務所編『改訂版 Q&A交通事故加害者の賠償実務-被害者からの過剰請求対応-』(第一法規,2021年5月)
https://www.daiichihoki.co.jp/store/products/detail/104187.html
※2025/2/11 chatGPT o1 proの回答も参考に掲載いたします。
以下の回答は、一般的な法的情報を提供するものであり、具体的な状況に対する最終的な法的アドバイスではありません。実際には、ご自身の加入保険の内容や事故の詳細、相手方の言い分などを踏まえたうえで、弁護士や保険会社担当者とよくご相談ください。
1. 「駐車場だから5分5分」は必ずしも絶対ではない
保険会社の担当者から「駐車場内の事故だから5分5分」という説明を受けたとのことですが、駐車場における事故=必ず過失割合が5対5 というわけではありません。過失割合は、以下のような事情を総合的に考慮して決定されます。
- 双方の車両の動き・位置関係
- 双方の進行速度や注意義務違反の程度
- 見通しの状況(死角や視界の悪さの有無)
- 現場の状況(駐車枠の配置、車止めや障害物、標識などの有無)
- 目撃者や映像(ドライブレコーダー、防犯カメラ)の有無・内容
駐車場では信号や明確な優先道路がなく、道路外施設であることから、公道上の事故よりも「双方とも注意を払うべきであった」と評価されやすく、その結果、過失割合が均等(5対5)にされがちな傾向があります。ただし、それは**「あくまで一般論」**であって、実際の過失割合は当事者双方の具体的な過失状況を踏まえて判断されるべきものです。
2. 自身の過失割合を下げるために考えられる対応
(1) 事実関係・証拠の収集
- 防犯カメラや目撃者
コンビニ駐車場などは、防犯カメラが設置されている場合があります。もし映像が残っていれば、相手方がどのようなタイミングでどのくらいの速度で動き出したのかが確認できる可能性があります。
また、その場に他のお客さんや店員さんなどの目撃者がいれば、事故当時の状況(相手が急に動き出した、クラクションを鳴らす暇もなかったなど)を証言してもらえるかもしれません。店側に問い合わせて、防犯カメラの映像保存期間内に入手できるか確認することが重要です。 - 現場写真・車両損傷状況の把握
事故当時や直後の現場写真、車両の損傷部位を示す写真も重要です。損傷箇所がどの位置にあるかで、動いていた方向や相手方との位置関係がある程度推測できる場合もあります。
(2) 保険会社との交渉
- 事故状況を正確かつ詳細に伝える
事故が起きた時点で、どのように車を動かしていたか、どれだけの速度だったか、相手の車の急な動きに気づいたタイミングはいつか、具体的に説明しましょう。 - 過失割合の根拠を確認する
保険会社が「5対5」と言うのであれば、その根拠となる典型事例や判例、過去の事例を提示してもらいましょう。自分の状況が本当にその「典型事例」と同じなのか、あるいは違いがあるのかを検討します。 - 示談交渉に納得がいかない場合は弁護士対応を検討
過失割合について交渉が難航する場合や保険会社との話し合いだけでは納得がいかない場合は、弁護士特約に加入していれば弁護士を通じた交渉も可能です。弁護士特約がない場合でも、相談料や着手金との兼ね合いになりますが、正式に弁護士に依頼して示談交渉を任せることができます。
(3) ADRや裁判手続きの検討
- 示談あっせん(ADR機関)
保険会社同士の折衝だけではまとまらない場合、交通事故紛争処理センターなどのADR機関であっせん・仲裁を利用することもできます。 - 民事裁判
どうしても折り合いがつかない場合は、最終手段として訴訟手続きを検討することもあります。ただし、費用対効果や時間的コストも考慮する必要があります。
3. 「避けようがなかった」ことを立証するには
駐車場内で互いに車を動かしていた場合、たとえこちら側が「避けようがなかった」と主張しても、少なくとも“注意義務を尽くしていたか”を問われることが多いです。例えば、
- 後方や周囲の車の動向に十分注意していたか
- 徐行もしくはほとんど停止に近い状態で確認しながら動いていたか
- クラクションを鳴らす、急ブレーキを踏むなど回避行動の可能性はなかったか
これらを踏まえ、「相手車両が予測不可能な動きをしたため、通常の注意義務を尽くしていても避けられなかった」 という事情が立証できれば、過失割合が減る可能性はあります。
ドライブレコーダーがない場合でも、防犯カメラや目撃証言、車の損傷状況などから「相手の急な発進」が推測できる場合は、主張すべきでしょう。
4. まとめと今後の流れ
- 証拠の有無を再確認し、店側や目撃者への聞き取り・防犯カメラ映像を入手
- 相手の保険会社・自分の保険会社に対し、なぜ「5対5」なのかの根拠を明確に示してもらう
- 納得がいかない場合は、示談交渉でこちらの主張(相手が急に飛び出した・避ける余地がなかった)を具体的に伝える
- 必要に応じて弁護士特約の利用や、交通事故紛争処理センターなどのADRを検討
駐車場事故は相手方との主張が対立しやすく、また客観的証拠(ドライブレコーダー映像など)がなければ水掛け論になりやすい分野です。しかし、必ずしも「駐車場=5対5」が確定というわけではないため、納得できないのであれば、できるだけ根拠を示して異議を申し立てるのがよいでしょう。
最後に
「自分はまったく非がない」と考えていても、実際の示談交渉では一定の過失が認定される可能性は否定できません。ただし、その過失割合が5対5なのか、あるいはそれ以下に抑えられるのかは交渉次第です。まずは保険会社にしっかりと説明を求めたうえで、ご自身でも事実関係を再度整理して証拠集めを行い、冷静に交渉を進めることをお勧めします。必要であれば専門家である弁護士に相談し、サポートを受けて示談交渉を進めることで、ご自身の主張が適切に反映されやすくなります。