高校時代の先輩から頼まれて金庫を預かったら、大麻が入っていたという相談(大麻、刑事弁護)
2024年10月18日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は福岡市に住む20代会社員男性です。先日、高校時代の先輩に飲みに呼び出されて、「自宅に行きたい」と言われたので自宅で二次会をしました。すると、先輩から、「ちょっと海外に行くので、しばらく預かって欲しいものがある」と手提げ金庫に入ったものを渡されました。正直、びっくりしましたし、「大事なものなら倉庫に預けた方が良いのでは」といったのですが、費用がかかるからと言われて押しつけられました。鍵は持っていません。嫌な予感がしていたのですが、3ヶ月後に警察が自宅に来ました。大麻が入っていたようです。私も捕まるのでしょうか。
A、一般に、違法薬物の「所持」とは、「違法薬物を自己の実力的支配内に置くこと」であり、故意としても、その認識があれば足りるとされています。特に重要なのは「未必の故意」という問題であり「大麻を含む違法薬物かもしれない」という認識があれば、所持罪は成立すると考えられます。もっとも、相談の事例では中身も知らされておらず、金庫の鍵もないわけですから、しっかりとそのことを弁解することで立件されることや、仮に立件されても逮捕や、処罰を回避することは可能な事案と思われます。早急に弁護士に相談すべきです。
【解説】
大麻施用罪が新設されたことにより、今後、大麻事案についても覚醒剤取締法違反事件と同様の取扱いがなされることが予想されています。相談事例は、覚醒剤取締法違反(所持)で良くあるパターンです。この場合は、客観的事情を踏まえて、中身が「大麻かもしれない」という認識があったといえるか否か、が立件や処罰のポイントになります。認識を否定する事情をしっかりと確保しておくことが必要です。弁護人に依頼する場合は、薬物事犯の知識・経験が豊富な弁護士を選ぶことが大事です。
最判平成2年2月9日
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=57875
所論にかんがみ、職権により検討する。原判決の認定によれば、被告人は、本件物件を密輸入して所持した際、覚せい剤を含む身体に有害で違法な薬物類であるとの認識があったというのであるから、覚せい剤かもしれないし、その他の身体に有害で違法な薬物かもしれないとの認識はあったことに帰することになる。そうすると、覚せい剤輸入罪、同所持罪の故意に欠けるところはないから、これと同旨と解される原判決の判断は、正当である。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=91131
【参考リンク】
令和6年12月12日に「大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律」の一部が施行されます
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_43079.html
厚生・労働2024年06月19日
大麻草から製造された医薬品の施用等の可能化・大麻等の不正な施用の禁止等に係る抜本改正
~大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律~ 令和5年12月13日公布 法律第84号
法案の解説と国会審議
執筆者:木村歩
https://www.sn-hoki.co.jp/articles/article3567820/
【(2)大麻等の施用等の禁止に関する規定・罰則の整備
① 大麻等を麻薬及び向精神薬取締法上の「麻薬」に位置付けることで、大麻等の不正な施用についても、他の麻薬と同様に、同法の禁止規定及び罰則を適用する。
なお、大麻の不正な所持、譲渡し、譲受け、輸入等については、大麻取締法に規制及び罰則があったが、これらの規定を削除し、他の麻薬と同様に、「麻薬」として麻薬及び向精神薬取締法の規制及び罰則を適用する(これに伴い、法定刑も引上げ)。】
【参考文献】
松田昇ほか『新版 覚せい剤犯罪の捜査実務101問〔改訂〕』(立花書房,2007年6月)114-115頁
【一 本法が禁止する覚せい剤の「所持」とは、「覚せい剤を自己の実力的支配内に置くこと」である。したがって、所持罪が成立するのに必要な犯意(故意)としては、右の「覚せい剤を自己の実力的支配内に置くことを認識していること」が必要となる。
二 しかし、実務においては、特に他人の覚せい剤を所持した事案を中心として、被告人側が、例えば、①覚せい剤は借金の担保に置いていったので保管するしかなかった、②覚せい剤はその保管方を拒んだのにもかかわらず、他人が勝手に又は無理に置き去ったものである、③覚せい剤をその他人のため預かる意思はなかった、④覚せい剤を所有する意思はなかった、⑤その覚せい剤を自ら密売や使用等する目的はなかった、⑥覚せい剤を隠匿していない、等の事由を挙げ、このような場合は所持罪が成立しないと主張する場合が多い。つまり、所持罪の成立には一の所持という行為と犯意のほかに、例えば「積極的に覚せい剤を自己又は他人のため保管する意思」や「自ら所有し又は使用、処分する意思」等が必要であり、また所持の態様も「隠匿」という形態に限られるなどと主張することが多いのである。
三 では、所持罪の成立には、二のような意思等の存在が必要なのであろうか。結論からいえば不要である。所持は、あくまで覚せい剤を自己の実力的支配内に置く行為であればよく、その態様の如何を問わないことは本法一四条の文理解釈から明らかであるから、隠匿の態様でなくても、また、二の意思等がなくても、ともかく覚せい剤と知りつつ自己の実力的支配内に置けばそれだけで所持罪は成立すると解されるからである。判例も同旨であり、例えば、Aが被告人方へ持ち込んで置いていった覚せい剤を自宅居室内に留め置いた事案について、「覚せい剤取締法第一四条一項が禁止する覚せい剤の「所持』とは覚せい剤であることを知りながら、これを事実上自己の実力的支配内に置く行為を指称し、積極的にこれを自己又は他人のため保管する意思の有無又はその行為の目的、態様の如何を問わないものと解するのを相当とするところ、……仮に所論のごとく、右覚せい剤は、被告人が、その保管方を拒んだのに拘らず、右Aが勝手に被告人方居室に置き去ったものであったとしても或は被告人がこれを同人のため預る意思もなければ、自らこれを密売する目的もなく、隠匿もしなかったとしてもその所為は、覚せい剤不法所持罪を構成するものといわねばならない」(東京高判昭31.2.27高集九・一・一一六、同旨東京高判昭49.4.1東京速報二〇一二、東京高判昭30.7.20東京時報六・八・二五一)と判示している。】