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薬院法律事務所

刑事弁護

高校生の息子が、中学生に不同意性交等をしたと警察から言われているという相談(少年事件)


2024年11月03日刑事弁護

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、私の息子は福岡県の県立高校に通う18歳の高校3年生です。先日、警察から連絡があり、息子が14歳の中学2年生に対して不同意性交等をしたということで呼び出しを受けました。本人に話を訊くと「付き合っていた」というのですが、警察の話では、多機能トイレで性行為をされてショックを受けているということでした。息子は中学生時代からモテていて彼女が途切れることもなかった子で、今回の子も当初は相手の方が夢中になっていたようです。本人はあくまで付き合っていただけで、相手も嫌がっていなかったといっているのですが、弁護士さんをつけて示談交渉をした方が良いのでしょうか。

A、危険な状況です。18歳と14歳であれば、年齢差だけで不同意性交等にはなりませんが、それだけの年齢差があること、女性に対する扱いが「雑」であることが気になります。少年院送致や、逆送での刑事裁判が考えられる重大犯罪ですので、まずは「不同意性交等罪」が成立しないかの吟味が必要でしょう。本人が「付き合っていると思っていた」からといって性行為がすべて犯罪にならないというものではないです。仮に「不同意性交等罪」が成立する場合は、弁護人をつけて被害児童に対する慰謝の措置をとること、本人自身の、女性に対する(人に対する)態度を変えることが必要になるでしょう。

 

【解説】

 

本人としては、「性的同意」をとって、「不同意性交等」をしていないつもりであっても、その実態から見たら「強いられた同意」であるとされる可能性はあります。性犯罪事件、少年事件に詳しい弁護士に依頼する必要があるでしょう。近時は、かつてであれば、不起訴になっていたような事件であっても、起訴される傾向があります。

 

リーフレット「少年審判について」

https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/file2/210031.pdf

 

刑法

https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045

(不同意わいせつ)
第百七十六条 次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。
一暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
二心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
三アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
四睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
五同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
六予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕がくさせること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
七虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
八経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
2行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、わいせつな行為をした者も、前項と同様とする。
3十六歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。
(不同意性交等)
第百七十七条 前条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、肛こう門性交、口腔くう性交又は膣ちつ若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び第百七十九条第二項において「性交等」という。)をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、五年以上の有期拘禁刑に処する。
2行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、性交等をした者も、前項と同様とする。
3十六歳未満の者に対し、性交等をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。

 

【参考サイト】

「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案」に対する衆議院法務委員会における附帯決議

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_rchome.nsf/html/rchome/Futai/houmu9144695215975EA2492589C000322039.htm

【政府及び最高裁判所は、本法の施行に当たり、次の事項について格段の配慮をすべきである。
ー第1条の規定による改正後の刑法第176条第3項及び第177条第3項の規定において、13歳以上16歳未満の者に対する5歳以上年長の者の性的行為を処罰することとしているのは、両者の間におよそ「対等な関係」があり得ないと考えられることによるものであって、両者の年齢差が5歳差未満であれば「対等な関係」であるとするものではないのであるから、第1条の規定による改正後の刑法第176条第1項及び第2項並びに第177条第1項及び第2項の規定の適用に当たっては、とりわけ、これらの規定に定める行為をする者が18歳以上であり、かつ、その相手方が16歳未満である場合には、むしろ、16歳未満の者にとっては年齢差がその意思決定に及ぼす影響が大きいことに鑑みると、両者の間でなされた性的行為は、「経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること」等により「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて」の要件や「行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ」の要件に該当し得ることに留意すること。また、附則第21条の規定による周知に当たっては、この点についても、併せて周知すること。】

「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案」に対する参議院法務委員会における附帯決議

https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/211/meisai/m211080211058.htm

【○附帯決議(令和五年六月一五日)
政府及び最高裁判所は、本法の施行に当たり、次の事項について格段の配慮をすべきである。
一 第一条の規定による改正後の刑法第百七十六条第三項及び第百七十七条第三項の規定において、十三歳以上十六歳未満の者に対する五歳以上年長の者の性的行為を処罰することとしているのは、両者の間におよそ「対等な関係」があり得ないと考えられることによるものであって、両者の年齢差が五歳差未満であれば「対等な関係」であるとするものではないのであるから、第一条の規定による改正後の刑法第百七十六条第一項及び第二項並びに第百七十七条第一項及び第二項の規定の適用に当たっては、とりわけ、これらの規定に定める行為をする者が十八歳以上であり、かつ、その相手方が十六歳未満である場合には、むしろ、十六歳未満の者にとっては年齢差がその意思決定に及ぼす影響が大きいことに鑑みると、両者の間でなされた性的行為は、「経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること」等により「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて」の要件や「行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ」の要件に該当し得ることに留意すること。
また、附則第二十一条の規定による周知に当たっては、この点についても、併せて周知すること。】

 

【参考記事】

福岡県弁護士会子どもの権利委員会編『少年事件マニュアル-少年に寄り添うために』(日本評論社,2022年7月)174頁

【(7) 要保護性解消のための活動
否認事件であっても、非行事実が認められた場合も想定し、少年自身への働きかけを実施することはあり得ます。例えば、強制性交で、少年は合意があった、と否認している場合では、そもそもそこに至る経緯に問題があったり、性的に歪みのある考えを持ってしまっている場合もあります。少年自身を非難するのではなく、非行事実としては争いながら、このようなことになってしまったことについて少年に考えてもらうことは、大切なことと思われます。
また、少年事件では、虞犯という概念があります。
したがって、仮に非行事実が認められなかったとしても、虞犯事由が認められれば、要保護性が解消されていない限り、保護処分に付される可能性があります。
付添人としては、虞犯事由が認められる可能性があると判断した場合、安易な認定替えがされないように裁判官に申し入れるとともに、要保護性の解消についても意識した活動をしなければなりません。】

https://www.nippyo.co.jp/shop/book/8822.html

志賀文子「不同意わいせつ事件において、わいせつな行為該当性が問題となった事例」捜査研究2024年5月号(884号)9-19頁

9頁

【不同意わいせつ、不同意性交等罪の罪(刑法176条・177条)は、改正前の強制わいせつ、準強制わいせつ、強制性交等、準強制性交等の罪との関係で処罰範囲を拡大するものではないとされている。
これまで、改正前の刑法176条及び177条の「暴行又は脅迫を用いて」の程度は、「抗拒を著しく困難にさせる程度」であることが必要であると理解されており、「暴行又は脅迫を用いて」の要件があることで、個別の事案において、これらの罪の成立範囲が限定的に解されてしまう余地があるなどの指摘があった。
そこで、より明確で判断にばらつきが生じないように、性犯罪の本質的な要素である自由な意思決定が困難な状態でなされた性的行為である点を、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」という文言を用いて統一的な要件と規定した上で、当該状態にあることの要件該当性の判断を容易にし、安定的な運用を確保する観点から、当該状態の原因となり得る行為又は事由を具体的に例示列挙したとの説明がなされている。

そのため、実務的な視点からは、従来の解釈運用であれば消極判断になる可能性があった事案につき、改正後、不同意わいせつ罪、不同意性交等罪に該当するとして積極判断になる事案が増えると想定されていたが、日々、事案を取り扱う一検察官としても積極判断の事例は増えたように感じている。】

https://www.tokyo-horei.co.jp/magazine/sousakenkyu/202405/

岩崎貴彦「検察官送致対象事件の処理(被害者に関する諸制度も含む)」家庭の法と裁判50号(2024年6月号)107-115頁

【2 実務の動向(法62条2項2号関係)
令和3年改正少年法の施行からまださほど年月が経っておらず,法改正の影響を検討するには時期尚早であるが,同改正法が施行された令和4年4月から同年12月までの間に,法62条2項2号の原則検送対象事件は46件あり。うち20件が刑事処分相当の検察官送致,14件が少年院送致,5件が保護観察となっている。最も件数の多い強制性交等で15件中11件(なお,強制性交等致傷は1件中1件)が,次に多い強盗致傷で11件中5件が刑事処分相当の検察官送致となっている(強盗致傷については他に3件が年齢超過の検察官送致)。非現住建造物等放火は3件全てが保護処分に,強盗は3件中1件が刑事処分相当の検察官送致である30)これに対し,例えば行為時18・19歳の強制性交等及び同致傷は,令和2年では32件全てが保護処分に,令和3年では32件中3件が刑事処分相当の検察官送致となっている。強盗致傷は令和2年では52件中6件が,令和3年では18件中1件が刑事処分相当の検察官送致である31)】

https://www.kajo.co.jp/c/magazine/006/31009000050

 

いわゆる「性的同意」と「不同意わいせつ・性交」の関係について(犯罪被害者)