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薬院法律事務所

一般民事

高齢者が被害者となる交通事故で注意すべきこと


2020年02月09日交通事故

一般に、自賠責保険での賠償額より、訴訟での金額が多いと言われますが、例外もあります。

注意すべきことは、被害者請求をせずにいきなり提訴して、判決が自賠責保険の基準より低い額になった場合、自賠責保険の基準では支払ってくれないということです。

東弁『民事交通事故訴訟の実務一保険実務と損害額の算定一』(ぎょうせい,2010年5月)
「V自動車保険の基礎」
弁護士 古笛恵子
274頁
【自賠責保険への請求が有利かどうかという判断は、自賠責保険の支払基準を考える必要があります。支払基準は保険会社を拘束しますが、裁判所は拘束しません。支払基準には、場合によっては重過失減額がありますが、過失相殺はありません。因果関係が認められなくても5割は受け取れることがあるので、裁判基準よりも自賠責保険の支払基準の方が有利な場合があります。ですから、取り急ぎ自賠責保険を受け取り、足りない分を訴訟提起して支払ってもらおうと思ったとしても、自賠責保険から十分受け取っている場合は、自賠責保険の認定の方が裁判基準よりも高くなるケースがあります。
ですから、自賠責保険への請求が本当に有利なのか、自賠責保険では足りないのかどうかを考える必要があります。いきなり裁判所に訴訟提起し、損害賠償請求したときに、支払基準で受け取りうる金額を判決では認めてもらえないケースがあることに注意しなければなりません。】

東弁『民事交通事故訴訟の実務Ⅱ』(ぎょうせい,2014年12月)
「I 保険制度の概観
(自賠責保険・任意保険、あたらしい保険制度)」
弁護士芳仲美惠子

20頁
【死亡事故だと、被害者側がほぼ悪くても、加害者に1分でも過失があれば自賠責からは1500万円は出してもらえるということになります。
ですので、被害者死亡で、総損害が8000万円、被害者の過失が8割あったという例を書きました。そうすると、判決で認容されるのは8000万円×0.2で1600万円なのですが、自賠責で被害者請求しますと、8割悪い場合は、先ほどの重過失減額の制度により3割しか減額されませんから、3000万円の7割、つまり2100万円支払ってもらえますので、判決認容額より500万円も多いわけです。重過失減額されるかどうかは、先ほどの事前認定によって任意保険会社は知っているわけです。このようなケースでは、任意保険会社は示談代行しません。これに気がつかないで、あくまで強行に争って訴訟したりすると、弁護過誤の危険がありますから、これは注意が必要です。】
25頁
【自賠責の支払基準による支払額が、自賠責の保険金未満の場合もあります。例えば、死亡なら3000万円が支払限度額ですが、支払基準だと3000万円に満たない人も結構いますので、それは注意してください。例えば、無職の高齢者などですと、自賠の支払基準で計算すると、死亡でも3000万円にはいかない人も案外多いのです。
その絡みでいいますと、注意していただきたいのは、自賠内事故というのが、重過失減額とは関係なく、ここでも発生する場合があります。例えば、無職の高齢者でも働く意思と能力があれば、実際働いていない人でも逸失利益が認定されるケースがあります。自賠責は、逸失利益を年齢別平均給与というもので計算しますが、男の人の68歳以上の年齢別平均給与は年額に直すと377万円ぐらいあります。高齢夫婦で被扶養者があるとなると35パーセントしか生活費控除もされません。となると、無職の高齢者でも逸失利益が相当額認められます。訴訟をやると認定はもっと厳しいことが多いので、先ほど、重過失減額で注意してくださいねと言ったのと同じような現象がここでも起きることがありますので、注意してください。】