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薬院法律事務所

刑事弁護

5年前に購入した大麻のことで家宅捜索されない心配という相談(大麻、刑事弁護)


2026年01月25日刑事弁護

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

Q、私は、福岡市に住む30代男性です。独身の頃に大麻に興味を持ってしまい、一度だけネット経由で購入したことがあります。実際に届いて試してみたのですが、私には合わずに残りは捨ててしまいました。その後、結婚して子供もいるのですが、もし警察が売人から私の情報を入手したら、家宅捜索がされるのでないかと心配しています。どうなのでしょうか。

A、一般論としては、違法薬物の場合、入手から長期間が経過しているのであれば既に対象物がなくなっていると考えられることから捜索差押はなされない可能性が高いと思います。なお、児童ポルノのDVDのように繰り返し閲覧可能なものであれば、入手時から数年間が経過していても家宅捜索がなされる可能性はあるでしょう。

 

【解説】

 

刑事訴訟法は、「犯罪の捜査をするについて必要があるときは」捜査機関は捜索ができるとしています。この要件については、①嫌疑の存在、②捜索(差押)の必要性という2要件で分析されます。①捜索差押許可状を発付するに際し要求される犯罪の嫌疑の程度は逮捕の場合に比較して軽いもので足りるとされています。②については最高裁判例があります。

このうち、②の捜索(差押)の必要性について、自己使用目的での違法薬物の購入の場合には、期間が経過しているのであれば既に対象となる証拠物はなくなっていると考えるのが合理的です。そのため、長期間経過した段階での捜索差押許可状は一般的には捜索の必要性が認められにくいといえます。

 

※刑事訴訟法

第九十九条 裁判所は、必要があるときは、証拠物又は没収すべき物と思料するものを差し押えることができる。但し、特別の定のある場合は、この限りでない。

第二百十八条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証をすることができる。この場合において、身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。

第二百二十二条 第九十九条第一項…までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第二百十八条、第二百二十条及び前条の規定によつてする押収又は捜索について、…これを準用する。ただし、司法巡査は、第百二十二条から第百二十四条までに規定する処分をすることができない。

https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000131#Mp-Pa_2-Ch_1-At_218

 

※刑事訴訟規則

(差押等の令状請求書の記載要件)
第百五十五条差押、捜索又は検証のための令状の請求書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一差し押えるべき物又は捜索し若しくは検証すべき場所、身体若しくは物
二請求者の官公職氏名
三被疑者又は被告人の氏名(被疑者又は被告人が法人であるときは、その名称)
四罪名及び犯罪事実の要旨
五七日を超える有効期間を必要とするときは、その旨及び事由
六日出前又は日没後に差押、捜索又は検証をする必要があるときは、その旨及び事由
2身体検査令状の請求書には、前項に規定する事項の外、法第二百十八条第四項に規定する事項を記載しなければならない。
3被疑者又は被告人の氏名又は名称が明らかでないときは、その旨を記載すれば足りる。
(資料の提供)
第百五十六条前条第一項の請求をするには、被疑者又は被告人が罪を犯したと思料されるべき資料を提供しなければならない。
2郵便物、信書便物又は電信に関する書類で法令の規定に基づき通信事務を取り扱う者が保管し、又は所持するもの(被疑者若しくは被告人から発し、又は被疑者若しくは被告人に対して発したものを除く。)の差押えのための令状を請求するには、その物が被疑事件又は被告事件に関係があると認めるに足りる状況があることを認めるべき資料を提供しなければならない。
3被疑者又は被告人以外の者の身体、物又は住居その他の場所についての捜索のための令状を請求するには、差し押さえるべき物の存在を認めるに足りる状況があることを認めるべき資料を提供しなければならない。

https://www.japaneselawtranslation.go.jp/ja/laws/view/3893/ja#je_pt2ch1at21

 

※最決昭44.3.18刑集23.3.153

【差押は「証拠物または没収すべき物と思料するもの」について行なわれることは、刑訴法二二二条一項により準用される同法九九条一項に規定するところであり、差押物が証拠物または没収すべき物と思料されるものである場合においては、差押の必要性が認められることが多いであろう。しかし、差押物が右のようなものである場合であつても、犯罪の態様、軽重、差押物の証拠としての価値、重要性、差押物が隠滅毀損されるおそれの有無、差押によつて受ける被差押者の不利益の程度その他諸般の事情に照らし明らかに差押の必要がないと認められるときにまで、差押を是認しなければならない理由はない。】

https://www.courts.go.jp/hanrei/50926/detail2/index.html

 

【参考文献】

 

三好一幸『令状審査の理論と実務【第三版】』(司法協会,2024年4月)113頁
【犯行後相当期間経過した後の捜索差押え
犯行から長時間が経過すると,当該犯罪事実にかかる証拠は既に存在しない可能性が高い。物的証拠は,人的証拠と比較して散逸しやすい(証拠の散逸)。
これは,人為的に証拠の隠滅を図ることが,人的証拠よりも物的証拠の方が容易であることなどによる。
したがって,犯行後相当期間経過した後の捜索差押えについては,例えば覚醒剤事犯であれば,覚醒剤に対する親和性,常習性,営利性等の重要な証拠となるか等,犯罪事実との関連性について慎重に検討すべきである。】

http://www.jaj.or.jp/wp/wp-content/uploads/pdf/books_no139.pdf

 

北海道警察本部刑事部組織犯罪対策局薬物銃器対策課編著『四訂版 覚醒剤事犯捜査のためのQ&A~迷わないための139~』(東京法令出版,2016年12月)58頁

【問29 協力者から6か月前の覚醒剤約0.1グラムの所持に係る情報を得たので被疑者の自宅等を捜索したいが、この場合、捜索差押許可状を請求することの是非
答 被疑者が覚醒剤の乱用者である場合、通常1回の使用量が0.02~0.03グラムであり、0.1グラムの量は、3~ 4回分であると推定され、既に6か月を経過しており、まだ残余の覚醒剤を所持している蓋然性が極めて薄く、本件所持事実をもって捜索差押許可状を請求することは、専ら別罪の証拠物の発見を目的とした別件捜索であるとの疑念を抱かれるおそれがあるので、新たな容疑事実を入手して令状請求するのが妥当と解する。】

 

河上和雄ほか編『大コンメンタール刑事訴訟法第二版第2巻〔第57条~第127条〕』(青林書院,2010年9月)308頁

【1項の趣旨 被告人の身体,住居等については,「必要があるとき」,
すなわち,押収すべき物を発見するため必要と認めるとき(林・要義⑮24頁,注解刑訴(t)〔高田〕 340頁)に捜索を行うことができる。
2項と異なり,「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある」ことを必要としない。
捜索する場所が被告人の身体等であるときは,押収すべき物の存在する蓋然性が強いからである(団藤・条解(上)204頁,足立•前掲実務講座2巻332頁,注釈刑訴2巻〔藤永〕 164頁,岸・要義144頁,田宮・刑訴103頁)。
憲法35条に要求する「正当な理由」を法律上推定する規定である。したがって,この推定が破られるような場合には,被告人の住居等であっても捜索は許されないことになる(注解刑訴(上)〔高田〕 341頁,ポケット(上)247頁,田宮・注釈刑訴126頁,注釈刑訴 2巻〔藤永〕 165頁,高田・刑訴184頁,鈴木・刑訴87頁,渥美・刑訴111頁,上口・刑訴130頁,松尾ほか・条解刑訴212頁,新・コメ〔高倉新喜〕 222頁。憲法の要求を満たしていない疑いがあるとするのは平野・刑訴115頁)】

https://www.seirin.co.jp/book/01513.html

 

最高裁事務総局刑事局監修『捜索差押等に関する解釈と運用』(刑事裁判資料第272号,1997年3月)17-18頁

【(3)犯行後相当期間を経過した後の捜索差押許可状の請求
問題9
覚せい剤取締法違反(所持)被疑事件で,被疑者宅の捜索差押許可状の請求が,犯行後,長期間経過した後にされた場合の取扱い。
(協議結果)
協議の結果,以下のとおり大方の意見が一致した。

…例えば犯行から長期間が経過し,よほど事実との間に隔たりがあって関連性が薄い場合は,令状を発付することは,どちらかというと消極であり,慎重に検討すべきであると思われるが,逆に,時間的な隔たりがさほどなく,かつ,その間も被疑者が覚せい剤に関与している疑いが強いということであれば,具体的事情にもよるが,令状を発付する方向に傾くのではないか。】